狂った狂気は何よりも
気分がいい。高揚している。どうして私はこんなにも良い物を触らなかったんだ。少しの動作で何十メートルも動ける。しかも速い。しかも疲れない。あぁ、素晴らしい。たしかティアと言ったな。良い物だ。私は戦場となっていた中心地に移動し、周囲を確認する。大鎌を持った緑の機体に、二本の刀を携えた青の機体。重火器を振り回す白の機体は良く目立つ。時々、遠くから矢が飛んでくるが、毎回察知されて弾かれていた。削っているうちに、パターンを覚えられたか、それとも、弓の速さに対応出来る操縦士だけが残ったか。比率的には、白と黒が2;1と言った所だろうか。
しかし、私が関係するものではなかった。私は狂うだけ。私は奪うだけ。殺す。何人なりとも私を邪魔させない。私が楽しむから。理由はそれだけでいい。
「キひっ………ひゃはは…………ははっは………殺せ悪魔」
私は機体を操作し、天使を悪魔が取っ組み合っている二機の場所に高速で移動し、白い機体の頭部部分にラリアットで奇襲をかける。悪魔の操縦士の驚きが感じられる。私の奇襲は、今までの操縦士の事もあってか成功し、天使の頭部が吹っ飛ぶ。だからと言って止まる機械ではなかった。
天使は今までの相手を放置して、私に展開した翼を向ける。その時に、私の目線の、右斜め上にホップアップが表示された。恐らくは、年時が作ったプログラムだろう。温度の上昇表示と、タイマー表示が同時にされ、カウントが3から開始される。レールガン射出までの残り時間と判断しても良いだろう。ならば、
「十分過ぎるわぁぁぁぁぁぁぁぁ!ひゃははははははははっ!!」
あぁ楽しい。命を賭けた殺しあいは久しぶりだ。ハッタリをかまして一方的に殴る戦法を私は良く取っていたが、私は何も考えずに殺しを楽しみたかった。私は機体を走らせ、天使の元まで距離を詰める。高速移動能力は、外付けハードウェアである加速装置を使用していない今では、ダッシュ以上の速さはでない。時間が3カウントが0になるまでに間に合わなければ、レールガンを正面から、近距離で受ける事になるのと同意だ。
「あははははははっ!遅い。遅すぎるッ!」
カウントが0になると同時に、右足で地面を強く蹴り左へと機体を反らす。伸ばしていた右手がレールガンにあたり、右手を溶かした。だが、片手だけでは、私の狂気の障害にはならない。片腕であれば殺しはできない?否。そんな訳がない。自由に動く部位が何処かにあれば殺すことは可能だ。勿論、殺し方は限られるが。余す両足で走り、間合いを詰めていく。あぁ、楽しい。私に怯えているのか?それでも兵士か。笑わせるな。そういう者に限って、私たちを苦しめるのだ。貧弱な精神で戦場に立とうなどと思うな。やっと零距離となった。機体の攻撃範囲内だ。
「ひゃはっ……ひゃひぃっ……はははっっははは!!」
私は残った左手を天使の操縦士がいるであろう場所に突っ込んだ。場所は、鳩尾部分。ガシャコッ、と天使の腸が外気に触れる。灰色、鉄色の電子部品の中に、赤く染まった異物を確認する。ポタポタと赤い液体が滴っている。それは純粋な赤ではなく、異物が混じっている故に、美しくない。黒い毛、少し膨らんだ桃色の臓物、そして、人間の離れた手。
悲鳴が聞きたかったな、と少し後悔する。これではただの肉塊だ。そんなに肉塊が見たければ、牛や豚を殺せば良い。それでは駄目なのだ。人間が発する悲鳴、表情、感情。それが見たいのだ。価値観がズレていても、それこそが私だ。狂気。狂った狂人はもう戻りはしない。
飢えている。欲望の思うがままに動いている。悲鳴が聞きたい。苦痛に歪む表情を見たい。私に向けられる、敵意、殺意、憎悪の感情をこの体で味わいたい。機械では快感を味わう事が出来ない。どうか外へ、臭いを、声を、温度を感じたかった。
顔がニヤけたまま顔が戻らない。愉しい、嬉しい、可笑しい、悦ばしいこれをどうして抑えられるだろうか。無理だった。意識しても、顔の筋肉は緩まない。笑いも声も止まらない。ニヤつきながら、口端を歪ませながら私は機体を動かそうとハンドルを握る。
「おいそこの操縦士。ちょっと話がある。降りてこい」
「……………っひっ、いいだろう」
私は制止された。恐らくか、私が殺した天使と組み合っていた操縦士だろう。私は、その操縦士の存在を『邪魔』と認識した。私を邪魔する反乱分子。私から娯楽を取り上げる敵。誰にも私を止めさせない。私は機体から降りて、土の上に足を付けた。先ほどの天使から血の臭いがする。快感だった。気分が高まる。血が熱く燃える様に感じた。私の持つ武器はナイフのみ。十分だ。これさえあれば、私は娯楽を最も多く愉しめる。
私に声をかけたのは中肉中背の男だった。特徴と言えば、髪を短髪にしていてワックスで立たせている事だろう。男は拳銃を持って、私に厭らしい顔で近づいてくる。私はその男への嘲笑の顔を隠す為下を向いてその嗤い顔を隠した。
「どうして俺の邪魔をした?俺はあのままだったら勝てたんだぞ?」
「なに、私は少々ばかり貴様が苦戦しているものかと思うてな。………っひ、確実性を求めたに過ぎない」
「んな事しなくても確実だったっつってんだよ」
男は持っていた拳銃の銃口を自慢するかのように私の額に当てた。血が熱い。その所為なのか、その銃口が冷たく感じられた。私は両手を上げて、戦意がないことを表現する。
「俺は殺しがしたくてこの勢力に入ったんだよ。わざわざ海渡ってこんなクソ過疎地まで来たんだよ」
「っふ。奇遇だな。私も殺しが大好きだ。まぁ、殺しそのものよりも、その直前の方を指すのだが」
「なら、分かるよなぁ?俺は手前に楽しみを奪われたんだよ。なら、俺はその楽しみを取り返す権利があるよなぁ?」
「ふん。好きにすれば良かろう」
男はニッと口端を上げ、拳銃の引き金を引いた。弾が飛ぶ数瞬前、撃ち出す瞬間の衝撃が、私の脳天に響く。弾丸以外の攻撃は無効に出来ない。故に、衝撃に関してか私は防ぐ事が出来なかった。弾丸が額にぶつかる。軽い衝撃、火薬で熱くなった銃口が私の額を軽く焦がした。だが、それよりも、私の血は熱く滾っている。
「私の名前は自責だ。自分の責任は自分で負う。しかしならば、貴様の責任は貴様で負ってもらうのが道理であろう?
きひっ………さぁ、戦慄してもらおうか!!」
私はナイフを懐から取り出し、男の拳銃を持っていた右腕を切り落とした。血はポタポタと地面に落ちる。手は銃を握ったまま離れる事がなく、銃を握ったままで地面へと落下する。実に愉快だった。
「どうして………?痛い。……熱い……俺の右手……?何処?」
男は呆然としていた。戦地に立っていたにも関わらず、その異常な現象に頭の理解がついていかないのか、それとも、自身が起こした現象の結果が違う事に唖然としているのか。
「叫ばないのか?つまらない男だな。仕方あるまい。殺してやろう」
「殺……す?殺す、のか?俺は死ぬのか?」
男の顔面が蒼白していく。目がカッと開き、私の瞳を見つめる。泣いてはいない。本当に絶望したのならば、泣くなどという行為はありえないのだろうか。ただ、思考が停止し、それから目を反らそうとするのが、本来の絶望。そうとも形容出来る。
そうだ。この顔だ。泣き叫ぶ寸前、その歪んだ顔だ。自然に私の顔が引きつる。嗤う
何とも言えないこの支配している感覚。快い、心地良い。
「嫌だ……嫌だ死にたくない!!嫌だ!!死にたくない!!そうだ。俺はこの勢力内のイカれたリーダーに無理矢理殺せと言われたんだ!俺は被害者なんだ。何も悪くない。嫌だったのに、この鉄屑に乗せられてたんだ!!」
「そうか。仕方ない。私の私利私欲の為に殺す事を止めよう」
矛盾しかない。自分は殺しを愉しんでいるのに、いざ自分が殺されるとなれば、そうまで抗うのか?醜い。汚い醜悪な感情だ。そして、この男は言ってなならない事を言った。狂っていようとも、それだけは、無視出来なかった。
「貴様、年時の努力を鉄屑と言ったな?」
「……ぁっ、あぁそうだ!俺はその鉄屑に……」
男の声がそこで途切れる。私がナイフを腹に刺したからだ。この男の価値観は良くないほうに歪んでいる。精一杯愉しもうではないかどんな罪を犯していようが、どんな思考を持っていようが、順位を違える奴を生かしておく義理はない。ティアが鉄屑だと?あれに乗るだけで、生存率は生身と比べて格段に上がる。アレがなければ、この戦局はありえなかった。年時は天才だった。こんなにも素晴らしいものを短時間で作り上げる事が出来る。天才は年時しかいない伸ばすべき元よりの突出部分に特化し、努力を積み重ねた者が、天才である。私は、ただの凡人でしかない。技術も、言葉遣いも殺し方も、ただ実践で学んだ物を、積んできただけ。天才には追いつけない。何をしても、だ。
「いやだ……じに゛だぐな゛い゛!!い゛や゛だ!俺は………は……かはぁ……」
私は腹に突き刺したナイフを切り上げ、心臓を破った。男の服が赤く染まる。ただの肉塊。ここからは、何の面白みもない。
私の才能は狂うこと。むしろ、狂う為に生み出されたと言っても違いない/私は臆病なだけだった。
躊躇い無く、人を殺せること/罪の意識は、自責として積み重なっていく。
ただそれだけの、狂った王に私はなる/私は、弱いだけ。
それだけの、悲しい人間だった/私は、悲しい人間だった。
次回予告
殺し合い、か……くくっ……はははっ!なんだ殺し合いか!私が求めていたのは悲鳴ではなかったのか。表情なのではなかったのか!!思いの外、私は狂っているらしい。顔がニヤけてるぞ私。実は殺し合いが好きだったのか?愉しかったのは奪う事なのか!?はははっ、あはは!!




