プロローグ
「和音はどんなことをしたいんだい?」
和音、と呼ばれた少女は、疑問を持ちながらも、答える。無邪気な望みだった。
「ん~?どうしたのお父さん?和音、お母さんみたいになりたいな」
少女は即答した。その他に選択肢は無かったかもしれない。だが、少女の願いだった。母の様になりたい。それが、少女のたった一つの願い。
「……わかった。和音の夢はお母さんみたいになることだね?」
「うん!それでね、お父さんみたいな旦那さんと一緒になりたいな!!」
少女は無垢に答える。
「ははっ。それは嬉しいことを言ってくれるね。和音、それなら絶対にここで生き延びるんだよ。和音にはそれが出来る」
「うん!わかったよ。和音はここでお父さんを待ってるからね」
「必ず、帰ってくるからね」
父と呼ばれた男は、どこか嬉しそうな顔をしていた。
1年後、返ってきたのはお父さんの持っていたバンダナだった。
少女は理解出来なかった。そのバンダナを見て、隣では彼女の母が咽び泣いている。少女は無垢あまりに、事を理解でしていなかった。それで、良かったのかもしれない。
その半年後
「母さん、ちょっとお出かけしてくるね。和音はここに居るのよ」
少女の母は、そう寂しそうに言った。普段なら、少女に向かっていちいち報告するような母ではない。少女はその行動が嬉しかった。自分と話してくれている母への愛情は、少女の感じていた唯一と言っても過言ではないような程、少女は母への愛情を持っていた。
「うん!今日は晩御飯私が作るんだから、絶対帰ってきてよね!」
作るような設備はないし、食料は配給された物の缶を開けるだけの作業。しかし、それが少女にとっては料理と言える物だ。
「………わかったわ。それじゃあね、和音」
「ぜーったい帰ってきてね!!」
「ぜーったい帰ってくるわ」
2年後、返ってきたのは母さんの結婚指輪だった。
ーーーーどうして、帰ってこなかったの?
少女は誰もいない筈の心の中で訴えた。
ーーどうして、みんな大きくなったらここを出ていくの?
少女は問う事しか出来なかった。
ーーーどうして、誰も帰ってこないの?
少女は穴の隅っこで縮こまっていた。父母を亡くした少女にとっては、拠り所のない小さな空間にしか成らなかった穴だが、逃げ出す事は出来ない。そうした瞬間に負けを認める事になる。
銃を向けないで…
痛いから…
怖いから…
向けないで…
少女の願い。<銃を向けないで>。<痛いのは嫌だ><怖いのは嫌だ>
初めはただの願いだった。兵士に向けられるあの吸い込まれるような銃口は少女にとって恐怖の対象でしかなかった。
拒絶する事を覚えた彼女は何時しか錯覚に陥る。小さな誤差だが、故に大きな影響を及ぼした。
<銃は私に当たらない><痛いのは感じたくない><怖い事も感じたくない>
少女は、現代にある禁忌に触れる事となった。妄想の具現化。思い込みによって発現する現象。及び、その現象を起こす事が出来る人間を指す。
其らを、通称、能力所持者と呼ぶ。
7年後、私は17歳になった。
今年の誕生日を向かえれば戦争に駆り出される。
18歳でここを出なければならない。
こんな無意味な戦争は終わらない。
私が終わらせるしかないんだ。
西と東に別れて戦争をしているいま、
第3勢力として戦争に参加しよう。
自分で変えなければ、何も変わらないのだから。
私の決意は、固い
次回予告
この馬鹿げた大人の遊びに、ね
ー能力所持者、和音