プロローグ
磨けば光る。
優れた素質や才能を持った人物が努力すれば大成するという意味である。今はまだ磨かれていない原石に向けて使用される言葉だ。
突然だが、俺の妹は可愛い。
それはもう信じられないくらい可愛い。
顔立ちも性格も何気ない仕草も、すべてが可愛さの塊だ。近くにいるだけで癒され、笑顔を見ていると心が安らぐ。最近は天使じゃないかと思っているくらいだ。
世界中に妹を自慢したい。
しかし、残念ながらその魅力に気付いている者は少ない。
周囲の連中が妹に向ける感想は「地味」の一言。
確かに垢抜けていないことは認めよう。顔のパーツは整っているのに、手入れを怠っているので本来の輝きを放っていない。
控えめな性格も大きく影響している。身内以外と上手く会話できないコミュ雑魚なので周囲からは無口で暗い少女だと思われている。
そう、妹の夢原瑠璃はまばゆい光を放つ宝石の原石だ。
素材は間違いなく超一流なのに、磨いていないので本来の輝きを放っていない。
世界の誰よりも可愛い最愛の妹が評価されていないのが悔しくて、地味と評価する連中が憎かった。
多くの人に瑠璃の魅力を伝えたい。
多くの人に瑠璃の可愛さを知らせたい。
多くの人に瑠璃の素晴らしさを教えたい。
きっとそれは、無名のアイドルを推す気持ちに似ている。自分だけが魅力を知っていることに優越感を味わいながらも、魅力を世間が知っていないことに対して理不尽だけど少しばかり怒りを覚える。
けれど、強制はできない。
人には向き不向きがあるし、それぞれ生き方もある。
そもそも瑠璃はアイドルと違って目立ちたいと考えていない。目立ちたくない相手を表舞台に引っ張り出すのは嫌がらせでしかない。
最愛の妹だからこそ、意思を尊重したい。
昔はこの形容しがたい感情を表に出したこともあった。そのせいで大事な友人と衝突したこともある。さすがに高校生となった今では分別はつく。
でも、気持ちは燻っていた。
夢原瑠璃という最高の美少女を表舞台に立たせたい。世界で一番可愛い妹を多くの人に知ってもらいたい。いつしかそれが俺の夢になっていた。
この夢が叶わないことはわかっている。
あの性格だ。表舞台に立つ姿は想像もできない。
それに、変化するのは必ずしも良いことばかりではない。過去に人が大きく変化する場面を見たが、あまり喜ばしい出来事ではなかった。
などと様々なことを諦めかけていた高校二年の春――
「……夜遅くにゴメンね。実は、お兄ちゃんに相談があるの」
ゴールデンウィーク最終日の夜だった。
「私ね、可愛くなりたいの!」
待ちわびたその言葉で、俺の夢は動き出した。




