第71話 初退却!
「退却~! 全力疾走するぞー!」
仲間たちと共に、難民キャンプを駆け抜ける。
走りながら、破壊されたガワを作り直しておいた。
「リョウ様! もう回復しましたから、降りられますわよ!」
「あ、そうでしたか。いやあ、羽毛のように軽かったので全く気にならなかったのですが」
ヒョイッと降りたファルメラが、俺と並走をする。
「それにしても……やはりそのお顔の方が見慣れていますわね。落ち着きますわ」
「潜入用のオルトの顔はよくなかったですか」
「悪くはないのですけれど、なんだか据わりが悪いのですもの」
「お二人とも! あのような化け物と戦った後で、よくぞそんな余裕を……!」
オトハ将軍は余裕なさそうだな!
なぜか肩に、寺院で引き入れたキョンシーを担いでいるが。
「いやあ……正直、今の落ち着かない状態でアレについて考えたところで無駄だろ。一旦サンドパレスに戻ってから、みんなで考えるのがいいだろ! 今は全力で撤退するぞ、撤退! 結局邪魔されて、粒子砲は破壊できなかったからな!」
『私が完全に構造を把握しています。再現は可能です』
「今回、ヘルガーディアンがやたらと有能だったな……」
『うううーっ、わしらはお役に立てませんでしたぞー!』
「ウボアー!」
「お前らはいいの!」
マスコットなんだから。
戦えるようになったけど、戦力になったらラッキーくらいの気持ちだからね。
とにかく、勇者との遭遇戦で誰もやられなかったのは本当に幸運だった。
俺はこう言う所で相手を舐めて留まり、部下を失うような馬鹿な真似をしないのだ。
「師父! 結界が我らを阻みます!」
「あっ、これ……テシウスとアザレアによる因子コントロールの力か! 俺の手では変化させられないぞ!」
寺院を包む結界が黄金の輝きを放ち、俺達を逃がすまいとしている。
「どうしますの、リョウ様!?」
「いやあ、流石はギフト持ちの子たちだ。感心したなあ」
「そんな呑気な……。後ろからあの男が来るかも知れませんわよ?」
「ああ。だから俺はここを、力押しで突破する。みんな、俺の後ろに。隠れた? 良し、行くぞ。ガワを一時的にパージ!!」
俺の体が、本来の大きさに戻る。
オルトファースとしての本性を表した俺は、身の丈およそ4m。
岩石のような拳を、振り上げる。
そして振り下ろすだけ。
『よいしょぉーっ!!』
単純な、力任せの物理攻撃だ。
だが、魔王が本気で放つパンチ。
アホみたいな威力をしているに決まっているのだ。
一撃で、結界が揺らいだ。
元々、ギフト持ちじゃなかった連中が作り上げた結界だ。
俺が自由にいじれるレベルのものだったんだから、大したことはない。
いかにギフトで強化されようと、元々脆弱なんだから。
「と……とんでもない威力ですわ!」
『マスターの実力、驚嘆に値します。あれほど搦め手を多用するからには、力に自信が無いのかと思われましたが』
『力任せは無粋だから使ってないだけなの! それ、二発目で結界が砕け散ったぞー!』
外から、雪山の寒風や雪が降り注いでくる。
凄まじい寒さに、氷雪に、難民たちが悲鳴をあげた。
彼らのケアで寺院の手は割かれることであろう。
『大地をリサイクル! リメイク! 俺達を乗せ、地を走るゴーレム!』
『ずももー!!』
寺院前の地面が変化しつつ持ち上がった。
全長15mはある、ワニ型のゴーレムが誕生したぞ。
この上に俺達が乗り、イチマンジャク山脈を駆け抜けていく。
目指すは、ドラゴンゾンビが待機する山の麓だ。
そんな俺達の頭上で、ロケットが噴射する音。
追いついてきたな、ゼクウ!
俺は腕組みをしながら空を見上げた。
満点の星空をバックに、炎を吐きながらロケットが飛ぶ。
そこにくっついている大柄な男と、彼にくっついている小柄な少年。
「追ってきましたわ、リョウ様!」
『オーケー、俺が時間稼ぎする』
「師父自らが!? 私たちにおまかせを……」
『一番戦えるのが俺なの! いいからさっさと逃げる! 俺もすぐ合流するから!』
『ご武運を! 私は戻って粒子砲の再現を行います』
『頼む~!』
ということで、舞い上がる俺なのだ。
「リョウ! リョウなのか!? 完全に化け物じゃないか!」
『ローデスも追ってきたな。その通り。俺は人間ではない。一番近い表現は魔王。この肉体は先代の魔王オルトファースのもので、言うなれば俺は、真・オルトファースだ』
「伝説の魔王だってのかよ! そんな奴が人間のふりをして、エルミジャッドを……!」
『ノーノー! 俺はエルミジャッドにほとんど手出ししてない! あれは遊牧民が悪い。遊牧民は全てアンデッド化して俺が従えておいたから仇は討たれたぞ! それに、アイハムに頼まれてお前たちを逃がしたのは本当だ。全員生存してるようで一安心してるぞ。こっちも本心』
「さっきアザレアを手に掛けようとしたかと思えば……。俺は……あんたがあのリョウなのか、魔王オルトファースなのか分からなくなってきた……!」
「若き少年が懊悩する様、いいぞ~」
『勇者はちょっと黙っててくんない?』
俺がピシャリと言ったら、ゼクウが悲しそうな顔をした。
ローデスとの問答で、いい感じに時間稼ぎできそう。
それに俺も、彼とはちょっと話をしておきたかったし。
「カレンの事、言ってたな。あいつは生きてるのか。あいつはなんだったんだ」
『自分の目で確かみてみろ』
「噛んだ。いやパロディか? 同年代を生きていた男か」
『いちいちうるさいな勇者。というかお前俺と同年代で同じような世界線から来てるのかよ!! まあいい。カレンは出会うことで、ローデス、君と様々な確執が生まれることだろう。だが、彼女の協力なくして俺と戦うことはできないぞ』
「あんたは魔王なんだろう!? なんで俺のことをそんなに心配するんだ!」
『アイハムとの約束があるからな。最後の世話まではやるのが俺の主義だ。ゼクウを頭にまとまったパーティが、結束し、より強くなったその時に決戦を行うとしよう。あ、そろそろみんなドラゴンゾンビについたな。じゃあ行くね。バイバーイ』
俺はプカプカ浮かんでいる全身に力を込めた。
自らの肉体を使って、リメイク!
全身を超加速するロケットにする!
俺は一瞬で、ゼクウとローデスの眼の前から消えた……ように見えたはずだ。
一段目、二段目を燃料として爆発的に消費し、切り離して飛翔、ちびっこいサイズになった俺がドラゴンゾンビに到着した。
「リョウ様! すっかり可愛くなって!」
『すぐにリサイクルで体を作り直せるぞ~!』
『神様が甲高い声で叫んでおりますな! 可愛く見えてきますぞ!』
「ウボアア!」
ということでドラゴンゾンビは飛翔!
粒子砲の的にならぬよう、一旦海まで出てからゆっくりとサンドパレスに戻っていく。
いやあ、状況が大きく動きましたねえ。
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