最終話 そして歴史が始まる
かっこつけたはいいものの、これは水中に没して行方不明ルート!!
とか思っていた俺だったが、助けられたのだった。
これはシンカイの腕だな?
さらに、誰かが俺の上に乗っている。
誰なのかなんて、見なくても分かる。
ずっと一緒にいたからな。
彼女の声は水中だと、ゴボゴボ言うだけで何を言ってるのか全く分からない。
でもまあ、呆れているのだけは間違いないだろう。
いやあ、頭が上がらなくなっちゃうなあ。
水面に飛び出して、ようやく一息つけた。
俺の目玉に当たる所から、ドバーッと水が溢れ出していく。
めちゃくちゃ海水が入り込んでたな……。
それと同時に、俺はどうやら現時点の力を使い果たしているらしい。
目玉がブラックホール的な効果を発揮しなくなっている。
『うーん、助けてくれてありがとう。だが俺はしばらく置物だあ』
『ははは、主よ。あなたは何もかも自分でやって来すぎたのです。後は我々に任せればよろしい』
シンカイがなんか含蓄のあることを言った。
それもそうか。
「リョウ様の言葉はわたくしが伝えればいいでしょう? ずっとともに歩んできたのですから、何が言いたいのか、何を望んでいるのかくらい分かりますわ」
『さっすが』
俺の上から降りるファルメラは振り返って微笑んだ。
そして早速、俺の名代としての初仕事をするようだ。
「戦いは終わりましたわ。わたくしたち魔人は、魔人の領域を再生させる事に致します。人間たちは人間たちの世界へとお戻りなさい。荒れた世界を蘇らせるには、あなたがたの力も必要なのですわ」
どうやら、俺達と人間たちが向かい合っているらしい。
「そっちが攻めてこない保証は無いだろ!」
おっ、これはローデスの声だな。
無事だったらしい。
良かったなあ。
っていうか、人間側の代表みたいになって交渉してるのか!
成長したなー。
おい見てるかアイハム!
まあ、死んでるんだから見てないか。
「わたくしたち魔人も大きな傷を負いましたの。戦うどころではありませんわ。これでまた戦えば、世界には何も残らなくなってしまいます。あなた方はそれが望みですの?」
「違う! 俺達だって、戦わなくて済むなら戦いたくはない。だけど、お前たちがいつ攻めてきてもいいように、こっちはこっちで備える。絶対に負けないよう、強くなってやるからな!」
やり取りを聞きながら、俺は大の字になって空を眺めた。
いやあ、体が動かん!!
マロングラーセの総攻撃を体で受け止めたのはよくなかったな。
いや、あれ以外選択肢無かったんだけどさ。
『おや? そう言えばゼクウは?』
『あのおっそろしい男なら、大魔王を蹴り倒した勢いのまま世界の外まで吹っ飛んでいってしまいましたぞ』
ラッシュが見ていたようだ。
まあね。
あの威力なら仕方ないね。
どうせ戻ってくるんじゃない?
あるいは別の世界にたどり着いているのかも知れない。
あいつならどこだって適当にやってくだろう。
結局、ローデス率いる人間たちは引くことにしたようだ。
だが、魔人と人間、分かりあえたわけではない。
相変わらずこちらを警戒している。
というわけで、こちらからスーッと後ろ向きに遠ざかる事になった。
ここは強い側が大人になって譲歩してやらねばな。
『どうだ?』
『ははは、奴ら、わしらの姿が豆粒ほどになってからやっと動き出しましたぞ! 全く、人間は臆病ですなあ。だからこそこれまでの世界で生き残ってこれたとも言えますがな』
ラッシュがしみじみ呟く。
『ラッシュはどうなんだ。人間と仲良かったんじゃないのか? いいの?』
『構いませんぞ。わしは神様に救われた身ですからな』
「ウボアウボア」
『そうかそうかー。じゃあお前ら、ずっと一緒だな』
船は内海に入り、ずんずん進んでいく。
途中、緑豊かな対岸を象たちが走っているではないか。
『パパールじゃん。みんな元気だったみたいだなあ……』
さらに、水中からは水魔たちが顔を出す。
マンマーもいる。
『いやはやお疲れ様です』
『おうおう。もう本当に全然動けないくらい頑張ったぞ』
『お肩をお揉みしましょう。あっ、岩だから揉めない』
面白いやつだなーこのマンマー。
クローバーが「俺より目立ってんじゃねえよ」って言って海に突き落としている。
アニタと吸血鬼村の一行は、途中で船を降りるようだ。
「ちょっとね、この辺りで魔人の国作ったでしょ。みんなで盛り上げようーってことになって!」
「宝物をちょっとくすねてきてますんでね、イッヒッヒ!」
ギリア!
なんかギラギラした輝きを放つネックレスをぶら下げてて凄く重そうだ。
いつの間に海賊王の宝物を持っていったんだ……。
まあ、彼らは彼らで面白いことをやろうとしているようだ。
なんて自由なんだ吸血鬼たち。
さて、そんな俺らはターカス帝国に到着し、ここで一旦休憩とする。
『うーむ、我らバルログ、いいところなしでしたな。我も含めて、皆鍛え直さねば』
『おう、時間はたっぷりある。大いにやってくれ』
ここでカグツチが、バルログたちとともに火山へと帰っていくのだ。
世界が、俺率いる魔人の勢力と、人間の勢力に大きく分かたれた今。
わざわざ集団で力を示す意味も無くなっている。
さて、帝国からは俺を何台もの台車を並べたやつに乗せて、ハンドレッツで引っ張っていく。
ヘルガーディアンが変形したバイクにファルメラが乗り、カンジスタンまで来たところで。
「では、我らは遊牧民の国へと戻ります。また何かがあればお呼び下さい!」
『おう、お疲れ! 上手いこと運営してくれよな!』
「御意!」
オトハ将軍と、キョンシー軍団との別れだ。
彼らは大陸の東方を目指して走り去っていく。
頭上にはアンゴルモアが羽ばたいていた。
達者でな!
随分俺等の数も減ってしまったなと思ったが、よく考えたらマミー軍団がいるのでまだまだ頭数は多いのだった。
『神様ーっ! 見えてきましたぞ! サンドパレスです! ……な、なんじゃこりゃーっ!』
『何を驚いてるんだラッシュ』
『サ、サンドパレスの回りが、緑に……! 緑に覆われていっておりますぞーっ!!』
『なんだとー!!』
砂漠緑化作戦、成功していたのか!
俺も近くまで連れて行ってもらって確認。
本当に木々が根付いている……。
扉からマミーたちが出てきて、水をやっている。
彼らがマメに育ててくれてもいたんだな。
サンドパレスに入り、俺はハンドレッツにわっしょいわっしょいと運ばれ……。
塔の中にある玉座に設置された。
俺サイズの玉座、いつの間に作ってたんだ。
しかも一階に!
『全て想定していましたからね』
ジェプティスが現れる。
『これより長い間、平穏な時代が続くことでしょう。まだ私の予言が行えぬ未来まで、人魔の戦無き世が続きます。リョウさんはそれまで、元気でいてもらわねば困りますからね』
『そうかー。責任重大だなあ』
やがて、部下たちは解散し、めいめいサンドパレスへと散っていく。
俺はのんびりと、塔の入口から見える空を眺めた。
「ずっと働き続けてきたでしょう? 今くらい……そうですわね。百年ばかりのんびりしても、バチは当たりませんわよ」
『そうですかねえ。俺はなんかこう、動かないでいるとむずむずしてきて』
俺は目玉だけを動かして、隣を見た。
そこには小さな、后のための椅子がある。
ファルメラがそこに腰掛けて、俺を見上げていた。
『ファルメラ様は、今の動けない俺を見てて、退屈しないんですか? あなたは動けるでしょうに』
「全然。あなたといると退屈しませんもの」
彼女が微笑んだ。
「わたくしたち、ずっと先に進むばかりで、しっかりお話をしてきませんでしたでしょう? だから」
雲一つ無い青空の下、緑に変わりゆく砂漠を一人の風が吹き抜けた。
それは塔の中にも吹き込んで、ファルメラの髪を揺らす。
「せっかくの機会ですもの。たっぷりお話しましょう?」
『まあ、たまにはいいですねえ』
俺も笑った。
『じゃあ、何から話すか……。そうだ。俺の生前の話を聞いてもらいましょう。俺は実にしょうもないやつでしてね』
「あら! リョウ様の過去の話なんて珍しい。とっても面白そうですわね……!」
こうして、俺達はおしゃべりを始めた。
~終わり~




