第1話 賢者モード後に胸糞悪いゲームは心によくない
「ふう……落ち着いてよく見てみると、このバッドエンドは大変胸糞が悪いな。なんだか怒りが湧いてきたぞ」
ノートPCの前で俺は憤慨していた。
すっかり賢者モードになった後である。
人間、興奮していると理性を失う。
今俺が抱いている人として当たり前の良心すらなくなり、ヒロインが可哀想になってしまう叡智ゲームでハッスルしてしまうのだ。
おお、なんたる悪徳か。
俺は天を仰いだ。
今この瞬間の俺は、世界の誰よりもモラリストであろう。
願わくば、今遊んでいた叡智ゲームの中のヒロイン……姫騎士ソフィエラを、今すぐ行って救ってやりたい。
だが残念なことに、彼女はゲーム。
俺は現実なのだ。
「まあ、無理なものは無理なのだ……。トイレに行こう」
季節は冬。
暖房でしっかり温まった部屋からユニットバスのトイレに向かい、座った。
「つめたっ!!」
その瞬間!
俺の意識がぶっ飛んだ。
ヒ、ヒートショックというやつかーっ!!
そして次の瞬間!
俺の目はパッと開いた。
そこはなんか、薄暗い空間である。
俺の周囲には爆発したような跡があり、たくさんの人間が倒れていた。
なんだなんだ?
近寄ってみて理解。
「ヒェッ、し、死んでる……!! なんか爆発に巻き込まれて死んでいる! これは一体?」
説明が欲しい。
だが説明がない。
俺は目覚めた場所に戻った。
あーっ!
な、なんだこの禍々しいデザインの玉座は!
ダークパープルのつやつやした布地の巨大な椅子に、背もたれにはギラギラ輝く角が生え、肘掛けは魔獣の皮っぽいものが使われている。
ここで俺が目覚めたのか。
「これはやはり……異世界転生というやつなのではないか? 俺は便座の冷たさにより、ヒートショック死。異世界に転生したのだ。スピーディな展開過ぎる。で、この周りで死んでる人達は、俺を異世界転生させる儀式をしてた。そうだ。そうに違いない」
説明が無いので、そう理解するしか無い。
ふと前方に目を向けたら、周りで死んでる人達よりもとんでもないものが見えた。
あ、あれはー!
あられもない格好で床に転がされている女の子!
明らかに可哀想なことをされた跡があり、最後は心臓をくり抜かれて殺されたようだ。
ひいー、とても可哀想なことになっている。
だが、死にたてらしくてお肌がツヤツヤである。
まだ使え……いやいや、人間としてそれはいかんだろう。
どうにかして助けられないかなー。
助けられそうな気がするなー。
俺はそう思って、彼女まで駆け寄ってしゃがみこんだ。
「ステータス画面とかないの? ないか。現実だもんな。あれ? だったら異世界転生した人はどうやって自分の魔法とか管理できてるのさ」
ぶつぶつ言っていたら、視界の横にモジャモジャっと白い線みたいなのが出てきて、それが絡み合って文字になった。
日本語になってる。
あるじゃん、ステータス!
ええと、なになに?
魔王スキル:リサイクル?
うん、スキルの前の文字は見なかったことにしよう。
「さっそく使うぞ。ほりゃぁ~っ! リサイクル!」
俺はなんだか不思議なポーズを取り、両手を女の子にかざした。
その瞬間!
死んでいた女の子の体が再生を始めた。
心臓が俺の椅子の前に置かれてたようで、それがビューンと飛んで戻ってくる!
ギリギリで回避ーっ!!
うわーっ! ぶつかるところじゃん!! 危ないなあ!
さらに、周囲にぶち巻かれていた血が集まってきつつ、土とか石ころを払い落とし、女の子の中へ。
なお、彼女を可哀想なことにしていた白いネバネバした液体は、全部死んでいる連中の股間に戻って行った。
お前らもリサイクルされるのかー。
女の子は敗れた服まで元通り。
眠っているような状態になった。
赤毛でそばかすのある、素朴な感じの女の子だ。
当然ながら日本人の顔ではない。
ファンタジー世界顔だ。
「村娘ちゃんといった外見だな……」
女の子は呼吸を始めている。
完全に復活したようだ。
恐るべし、リサイクル能力。
「ウボアー」
おっと、背後では儀式していた人達も蘇っている。
蘇って……?
振り返ったら、真っ青な顔色で白目をむき、ゆらゆら揺れる人々が!
「蘇ってないねえ。ゾンビになってるねえ。えーと、いち、にい、さん……六人か」
ゾンビ六体は俺の前にゆらゆらやってくると、ひざまずいた。
あっ、俺がリサイクルすると、死体は部下になるの?
すると、視界の横にあった魔王スキルのところに説明文が出た。
『実績・部下を5体集める:達成! 解除・魔王スキル:リメイク』
「リメイク!」
そもそも魔王スキルとは何か。
説明が欲しい。
説明はない。
これは、自分で使って解明していけということだろうか?
実にゲーム的である。
現実なんですよ、ゲームじゃないんですよ。
「とにかく。このリサイクルというのが俺の力の肝のようだ。死んだものを生き返らせる力……なのか? だが、余波で生き返った彼らがゾンビ化してるしなあ。謎だ。……待てよ? リサイクルということは……リョナ(女の子を大変可哀想なことにする)られたり、ヒロピン(ヒロインピンチ)の末の取り返しのつかない状況を、そこに至る選択肢前に戻せるってこと……!? チ……チートじゃん……!」
俺は戦慄した。
そしてこりゃあ上手く使うと面白いぞお、と思った。
その後、倒れている女の子が目覚めそうなので、失礼な格好ではいかんなと鏡を探す。
ちょっと髪をなでつけるくらいはした方がいいだろうし、俺にもオシャレというものがね……。
あ、このよく磨かれたナイフを鏡代わりにすればいいじゃん。
あれ?
これ女の子の心臓をえぐり出す時に使ったやつですか?
いやーん!
そして刀身に映し出される俺の姿。
冴えない一般男性のそれ……ではなく。
ダークブラウンの巨大な一対の手が、黄金に輝く目玉のような宝石を包み、その中に浮かんでいる宝石がギラギラ輝いている。
で、そこから宙に浮かんだ形で甲冑のような手足が存在している外見だった。
「ウワーッ!! これ、俺!? ひえーっ! かなり異形じゃん!!」
これはショッキング。
いや、なかなかデザインはかっこいいと思うが、こんな姿で女子の前に出るのはね。
女子はロボとかモンスターとかのかっこよさに理解がない場合もあるからね。
「ほんじゃあ、リメイクって能力でちょちょっといじってみて……。おっ、おっ、なんか姿を変えられるじゃん。おいゾンビ、ちょっと顔面よこせ。えっ? なに? 能力の発動に呪文が必要なのか。えーとえーと」
俺はちょっと考えてから、口を開いた。
「アパラチャノモゲータ!!」
「ウグワーッ」
その途端、ゾンビがばらばらになって断末魔をあげる。
使えそうなパーツをチョイスして纏い、ちょちょっと変更してだな。
よし!
デザインも俺が知ってる美形の特撮俳優にしておいたぞ。
服装も現代風。
いいじゃんいいじゃん。
さあ目覚めよ、女の子!
俺は逃げも隠れもしないぞ!
今まさに、倒れている少女がうっすらと目を開き始める。
さあ、異世界での第一現地人よ。
俺に色々教えてくれ!
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