本当のダブルデート
式場から車を走らせている。助手席の深月は心ここにあらずといった様子でそとを眺めている。
花嫁が消えた式場内の様子を想像すると不安な気がするが、愉快な気が出てくるくらいに落ち着いてきていた。
「過去に戻って二人で暮らしたいよ。」
「過去の人になるのも面白いかもね。」
深月がぽつりつぶやくのに伊織は肯定で返す。
「でも私は今を生きたい。認められなくても」
伊織と深月は過去旅行で4人で訪れた自然公園近くに向かっていた。
そこには街の喧騒から遠く離れた静かで雄大な豪邸があった。
かつてこの地で大企業の重役まで登り詰めて、若くして引退した二人の祖母が住んでいる。
理紗が最愛のパートナーである千花と共に余生を過ごすために建てた家だ。
伊織は深月の二人の祖母に助けを求めることにしたのだ。
豪邸の門の前に立ち、二人は意を決して重い門を叩いた。
「…あら深月ちゃんに伊織さんもよく来てくれたね。」
出迎えたのは白髪まじりの髪を短く整え、老いてもなお鋭い知性を瞳に宿した理紗だった。
その隣には柔らかい微笑みを絶やさない千花が寄り添っている。
「おばあちゃん…」
深月の震える声に理紗は全てを見透かしていたかのように笑った。
「こういう日が来ることは予想してたのよ。ずっと前から。どうぞ中に入って」
理紗はそういうと二人を客室に招き入れる。テーブルには理紗の横に千花が座り、対面に理紗と伊織がすわった。そして沈黙の後に理紗が口を開いた。
「この時のために相手方にも協力者を用意しているから。
もう少ししたら法も元通りになるわ。異性婚でも優秀な遺伝子を引きづぐ技術も実用化されるしね。」
全てを見透かしていたような理紗の発言に深月も伊織も驚くしかなかった。
千花は優しい笑みを浮かべている。
「言ったでしょ。私は深月ちゃんが幸せになるように何が何でもやるんだから。そして伊織さん、あなたは私の見込んだ通りしっかり救い出した。私はあなたを認める。」
理紗は微笑んで言った。
「あの、もしかしてあの時のことを理紗おばあ様は覚えられてたりしますか?」
伊織が恐る恐る尋ねた。過去旅行から戻ると戻った人間ことは忘れるように忘却システムが作動するはずだが、理紗が完全に忘却しているとは思えなかったからだ。
「覚えているはずないじゃない。あと私のことは理紗さんでいいからね。」
理紗は素っ気なく答えた。
「と言いつつもあの忘却システムの開発に私は関わってはいたのよね。」
と伊織に向かって悪戯っぽく言った。
そして月日は流れ
理紗、千花、深月、伊織の四人はあの思い出の自然公園に向かった。
法が改定され、伊織は中性的ではあるが女性と見てわかる格好をしている。
施設は古びていたが、吹き抜ける風と緑の深さはあの日と何も変わっていなかった。
「…ふふ、今回は本当にダブルデートね。」
「本当にそうね。」
千花が理紗の手をつなぎながら言ったのに理紗は幸せそうに返す。
そして理紗は深月と伊織の方に向き口を開く。
「それにしても深月ちゃんは本当に可愛らしいわね。孫だからっていうのを抜きにしても、もう抱きしめたくなっちゃう」
理紗がはしゃぐ様子に千花は呆れたように肩をすくめた。
「あの頃の千花にそっくりだし。」
「あら、今はどうなの。もう可愛くない?」
「もうそういう次元通り越してるでしょ。私たちは一分一秒を共有してきて一心同体なんだから。」
理紗の愛の言葉に四人の晴れやかな笑い声が青い空と緑の中で響き合った。
そして二人と二人は仲良く楽しく幸せにずっと暮らしましたとさ。
おしまい。




