土砂降りの中……
庭園を散歩していたところ、ぽつぽつと雨が降り出した。雨はあっという間に激しさを増して、土砂降りになってしまった。
「わっ、ど、どうしましょう!?」
「まずいな……」
よりにもよって、今日は普段は行かない、屋敷が見えないほど遠く離れた場所を歩いていて、すぐに帰れるようなところではない。
クライヴは自身の羽織りを脱ぐと、リリアーナの頭の上から被せた。
「これで雨除けになるだろう」
「いけません。これではイヴが風邪を引いてしまいます!!」
「いいから。とにかくどこかに避難するぞ!!」
「はっ、はい!!」
リリアーナはクライヴに手を引かれ、走った。暫く進むと古い小さな小屋を見付け、中に入った。
「やられたなぁ」
「ええ、まさか突然降り出すなんて思いもしませんでしたもの」
リリアーナはクライヴを見て、どきりと胸が高鳴った。雨で濡れたことで色気が増し、格好良さに拍車が掛かっていた。
「これは通り雨か?」
「どっ、どうでしょうか。あっ、これ、お返しします」
リリアーナは羽織りを差し出した。
「いや、いい。こんな場所では寒いだろうし、使ってくれ」
「イヴ、こちらに」
「?ああ」
クライヴとリリアーナは隣合って座る。リリアーナは2人の膝の上にその羽織りを乗せた。
「半分こです。私だけでは申し訳ないので」
「そっ、そうか」
その一言だけだったが、明らかに動揺しているのが伝わって来た。
密室で、しかも身体がくっつくほどの近距離。無理もないことだった。
それを提案したリリアーナ自身も予想以上の距離の近さに、胸の鼓動が速まっているのを感じた。
「こ、このような場所があったのですね」
無言の時間に耐えられなくなったリリアーナは話しを切り出した。
「あっ、ああ、俺も初めて知った。屋敷の地図なんて見たことがなかったからな」
「そうなのですね」
だったら見つけられたのは運が良かったのね。
「俺たちの状況はもう分かっているだろうし、捜してくれているはずだ。すぐに帰れるだろう」
「そうですね。待ちましょう」
リリアーナはクライヴをちらりと見る。
あんな状況だったのに私のことを一番に考えてくださるなんて……。
雨で寒いはずなのに心はぽかぽかと温かくなっていた。
「そういえば、この間マイラから聞いたのですけど、イヴは領主様になられてまだ数年だとか」
「ん? ああ、そうだな。三年といったところか」
「えっ!? 五年は経っているものだとばかり……。イヴは皆さんから慕われていて凄いです」
「慕われてる? 俺がか? むしろ逆だろう。皆から怖がられて避けられている」
「領民の方々はイヴのことを慕っておりますわ。もちろん私もです」
「っ……」
クライヴが息を呑んだのが分かった。照れ臭くなったのか、彼はそっぽを向いた。
「あっ、恋愛感情とかそういうのでは決してありませんのでご安心をっ」
リリアーナは慌てて訂正した。
イヴは私がそういう意識を持っていないから安心して関わってくださるのだものね。
「そう、か……」
クライヴはなぜだかショックを受けているように見えた。
「イヴ? どうされました?」
「……いや、なんでもない」
それからクライヴが何事かを考え込んでいるように見えたが、しばらくして顔を上げた。
「リリーから見て、俺は良い領主でいられていると思うか?」
「え?」
「正直なところ、まだまだ分からないことだらけだ。領主の仕事がどんなものかは知っていたが、初めてのことばかりで手探り状態でな」
「素敵な領主様だと思いますよ。直接街に赴かれて、困っている人がいれば必ず手を差し伸べられているとか」
「それは領主として当然のことだ」
「いえ、そのようなことありませんわ。前領主様のような横暴な方もいらっしゃいますし、全ての民に耳を傾けるなんて滅多に出来ることではないと思いますわ」
「フィリア伯もそうされているだろう」
「えっ、どうしてご存知なのですか!?」
ぽろっとクライヴが零した言葉に、リリアーナは勢いよく反応した。
「あっ」
クライヴはしまったという表情をして、顔を逸らした。
「いや、その、調べさせたんだ。事前にな」
「なるほど」
確かに王族の方との結婚なのだから、何か問題が起きては困るものね。
「うっ……。まっ、まあ、そういうことだ」
クライヴは言葉を詰まらせた。
「気にされなくても大丈夫ですよ?」
勝手に調べたことを申し訳なく思っているのだと感じたリリアーナは優しく声をかけた。
一方、純粋な瞳を向けられ、クライヴは罪悪感に襲われていた。リリアーナに嘘を吐くたび胸が締め付けられるようだった。




