第4話
医者の日記には『異世界の歩き方』が書かれていた。
自分の親族に自分の無事を伝えてもらうためだ。
自分が知る限りの異世界の予備知識を日記を読んだ協力者に伝えよう・・・という考えだろう。
しかし、俺は医者がどこの誰かわからない。
ましてや、医者の親がどこの誰かなんて見当もつかない。
俺は日記の真新しいページに置かれているボールペンで書き込んだ。
『俺は肝試しで廃病院に入って、偶然姿見を見つけて異世界に来た。
アンタがどこの誰だか知らない。
だからアンタの両親に無事を伝える術がない。
アンタがこの日記を読んだら、アンタが誰でアンタの両親がどこにいるのか教えてくれないか?。
俺はアンタを異世界の数少ない協力者だと思っている。
いきなりだが、姿見は俺の家に避難させる。
俺が廃病院に入ったきっかけもそうだが、廃病院は子供達の肝試し・・・というか遊び場になっている。
遠くない未来に子供達に姿見は割られるだろう。
そうすれば、日本と異世界を行き来する方法はなくなってしまう。
この未来は早いか遅いかの違いだけで、必ず訪れる未来だ。
アンタが姿見を通って日本に戻って来た時、俺の部屋に辿り着くだろう。
俺は姿見を盗もうという意思はない。
一時的に避難させるだけだ。
他に良い方法があれば、この日記帳に記して欲しい。』
よし、これで俺は泥棒扱いされる事はないはずだ。
これで異世界に行く時に、わざわざ廃病院に行かなくてもよくなる。
このまま廃病院に不法侵入を繰り返してたら、そのうち近隣の住人に通報されてお巡りさんにこっぴどく怒られて、異世界転移できなくなりそうだ。
俺は医者の書いた『異世界の歩き方』を熟読した。
「結論から言おう。
『異世界転移したからと言って、チート能力はない』
いや、あるかも知れない。
姿見は古い文献を読むと、かつて日本から召還された勇者に女神から渡された物らしい。
しかし、姿見は勇者の死後も残った。
女神は勇者に姿見と一緒にチート能力を渡したかも知れない。
ただ、それは偶然姿見を見つけて利用しただけの私にはわからない。
とにかく私にはチート能力はなかった。
異世界はまるでゲームの世界で全ての能力は数値で表示される。
例えば私は『力:65』で『素早さ:180』だ。
説明は後回しにするが、私の『力』は17の倍数で、『素早さ』は20の倍数だ。
能力の上げ方は実戦もしくは実戦を想定したシミュレーションだ。
シミュレーションはそこまで堅苦しい物ではなく、子供がチャンバラごっこをしてもレベルアップする。
農民が害虫、害獣駆除してもレベルはアップする。
どんな職業の者でも、知らないうちにレベル10以上にはレベルは上がっている。
しかし私達、異世界転移人は『レベル:1』だ。
おそらく召還された勇者には『チート能力』という名のブーストがあり、レベル:1の不利をうめたのだろう。
しかし私達は勇者ではない。
否応なく『レベル:1』なのだ。
『レベル:1』というのは新生児の身体能力だ。
いくら私達がレベルが低いとは言え、身体能力が新生児と同じと言う事ではない。
私の異世界転移してきた時のステータスをさらす。
力:2×17
身の守り:2×12
素早さ:3×20
魔力:0×3
賢さ:4×43
運の良さ:1×12
かっこよさ3×68
HP:6+40
MP:0+2
成長型:普通
『×』より左の数値が異世界でのパラメーターだ。
『×』より右の数値が日本でのパラメーターだ。
つまり異世界に来た時に、既に私は初期値ではなかった、という事だ。」
『×』より右の数値は異世界では鍛えられない。
『×』より左の数値がレベルアップにより変動する。
つまり『異世界では筋トレなどのトレーニングが一切意味がない』
『異世界ではレベルアップでのみパラメーターが上がる』
そして、これは推測だが、日本では『×』より左の数値は鍛えられない。
つまり闘って、もしくは戦闘訓練をしてレベルアップをしないと異世界ではパラメーターは上がらない。
予測ではあるが、日本で闘ってもレベルアップはしない。
そのかわり、トレーニングでパラメーターは上げられるだろう。
これは予測でしかない。
私は最初に異世界に転移して以来、二度しか日本に戻っていない。
最初に戻った時は『戻れるか確かめたかった時』二度目に戻った時は『医学書を取りに戻った時』だ。
私は『異世界の最先端の治療』と『私の知っている治療』そして、それらの良い所を足した『ハイブリッドの治療』を生み出すまで日本には帰らない。
そしてこちらの衛生問題を解決し、異世界からコレラやペストを消す。
私は勇者ではないが、それが私に与えられた使命だと信じて疑わない。」
俺は医者を「正義の人」だと思った。
対して俺は何なのだろう?。
一度は諦めた『最強』への道が異世界ならまだ途切れていないかも知れない。
俺は強くなりたい。
その過程で、弱い者達の力になりたい。
俺が異世界で武道家になった理由はそれだけだった。