第2話
『男であるからには一度は最強を目指す』何の漫画で読んだんだったか。
最強の座を手に入れるヤツは一握りだ。
しかし誰もが一度は最強を夢見る。
最強の座を手に入れるには
『運』
『身体能力』
『環境と周囲の協力』
『思考スピード』
『金銭』
『反骨精神』
のどれか、もしくは複数の要素を持っていなくてはならない。
その上で『努力』は必要不可欠だ。
何かの漫画で言っていた。
『努力したものが皆、成功している訳ではない。しかし成功した者はすべからく努力している』
これは真実だろう。
しかし『すべからく』の用法が間違ってないか?。
俺は全ての要素が足りなかった。
経済的にそれほど裕福ではなかったが、貧困にあえいでいた訳ではない。
しかし、大学に入るまで空手道場に通う事を親に止められた。
『そんな時間があるなら勉強しろ』と。
格闘技の英才教育を受けた訳でもない。
家庭環境も悪くない。
二人兄妹の第一子、長男だ。
両親とも健在で、父親は広島の地方都市で公務員をやっている。
母親は専業主婦だ。
非行に走ってもいない。
誰もが一度はした事があるという、万引きすらした事がない。
今までにした悪事は小学生の時『通学路破り』をしたのが最大の悪事だ。
こんな俺でも『最強の男』に憧れる。
しかし現実にぶつかるのだ。
先ずボクシングをしようとした。
結果、視力が低すぎてプロテストすら受けられなかった。
「キックボクシングなら目が悪くてもプロになれるよ」と言われ、キックボクシングを見に行く。
試合中、スポーツコンタクトレンズが飛ぶ。
規定が緩い、チェックが緩いというだけだ。
『目が悪いとダメ』という本質はボクシングもキックボクシングも同じだ。
そして何より、俺は努力が必要な時期に『格闘技なんてしてる暇があったら勉強しろ』と言われ才能だけじゃなく、努力が必要な時期に努力が圧倒的に足りていない。
「俺は最強を夢見る事すら許されないのか?」と思っていた矢先、大学での飲み会の帰り「肝試しをしよう」と言う話になり、入った廃病院でイタズラされ置き去りにされる。
置き去りにされた事に俺はまだ気づいていなかった。
元診察室の奥へ俺は入って行った。
そこで全身を映せる姿見を発見した。
「おかしい、不自然だ」
夜逃げ同然で廃業した廃病院には必要な物がほとんど残されている。
ただ、それらは長い年月放置され埃をかぶっていた。
・・・なのに姿見、特に鏡面は埃をかぶるどころか光輝いていた。
俺は吸い寄せられるように姿見に手を伸ばした。
しかし綺麗な鏡だ。
誰かが磨いているんだろうか?。
鏡のガラス面に手を触れてみる。
すると手はガラスの中に入っていく。
俺は鏡に体重をかけていた。
つまり俺は姿見の中に躓いて、転んだ。