第六十二話 本当の気持ち
すももはステージの上で精いっぱい踊った。
髪を振り乱し、スカートの袖を揺らしながらも、笑顔は絶やさない。
観客席でペンライトを振っているファンは、アイドルの笑顔を観に来てくれているのだから。
すももは最後列からステージの中央に視線を送る。
センターポジションで歌唱しているのは、憧れの先輩・潮巡だ。
いつか自分も、あの場所に立てる日が来るだろうか。
曲が終了し、決めポーズをしたまま、すももは肩で息をする。
身体が熱かった。
横目でちらりと佳叶の様子を窺うと、彼女も息苦しそうだった。
でも、同時に楽しそうだった。
ここまで来れたという喜びを、すももは噛みしめていた。
上京してからというもの、奇妙な狐のぬいぐるみを拾ったり、忍者だというマネージャーが現れたりと、いろいろあったが、自分はこの時のために頑張ってきたんだと思った。
ステージが暗転し、曲調が変わった。
流れてくるメロディに会場が沸く。
新曲の『最後のワンフレーズ』だった。
再び照明が明るさを取り戻し、ヘルシングのメンバー達が歌い出す。
ダンスを教えてほしいって 頼まれたから
仕方なく 振り付けを教えてあげた
君は努力家で 飲み込みも早いけど
あたしは 先生って柄じゃないんだ
落ち込んでいる生徒を 励ますのも先生の仕事
励ましてほしいのは こっちの方なんですけど?
捨てられた小犬みたいな目で じろじろ見ないでってば
きれいなターンを決めて 速攻で目逸らし
気を紛らわすように
ダンッダンッと 激しくステップを踏んだ
変なことを考えなくて済むように
今、はっきりと分かった 自分の本当の気持ち
始まりがあれば 終わりがあるんだ
君と一緒にいられるのは あと少しの間だけ
だから全身全霊で 踊り抜くんだ
最後のワンフレーズまで
この新曲は、ロックテイストの激しい曲調で奏でられるラブソングだった。
ヘルシングは恋愛禁止のアイドルグループだが、恋愛に関する曲も多い。
この曲の歌詞をもらって読んだ時、すももは何となく絆とゆかりの顔が浮かんだ。
絆は忍者の学校に入るまで、忍術が扱えなかったらしく、ゆかりに教えてもらったという話を聞いていたからだ。
ダンスと忍術は全くの別物だけれど、すももは曲の中の登場人物と重なって見えた。
サビを歌い終えて、燃え尽きそうになった。
この曲は歴代のヘルシングの楽曲の中で最も動きが激しい。
だが、汗を振り払って、すももは顔を上げて笑顔を見せる。
会場のお客さんもアイドル達と同じく笑顔だった。
すももは思わず泣きそうになる。
新曲を無事に披露できた安心感からだろうか、それとも、絆のことを思ったからなのかは分からない。
『始まりがあれば 終わりがあるんだ 君と一緒にいられるのは あと少しの間だけ』
曲の中のフレーズが頭を過ぎる。
絆は、すももの護衛とマネージャーを、兼任してくれているが、それはいつまでなのだろう。
すももは天巫女に任命されたものの、その詳細は未だによく分からない。
その時、会場の一番奥にいる絆とゆかりを見つけた。
立見席の方から二人は観ていてくれていたらしい。
人形の振りをした点点と小助も、静かにすももを見守っている。
すももがにっこりと微笑むと、絆も笑顔を浮かべた。
心臓がドキドキするのを感じる。
思わず、胸ポケットに手を当てる。
彼からもらった御守りがそこにあった。
『今、はっきりと分かった 自分の本当の気持ち』
そんな歌詞のフレーズが浮かんで、すももは慌てて視線をそらす。
会場にはたくさんのファンがいる。
絆だけが特別ではないと自分に言い聞かせた。
高鳴る心臓の鼓動は激しいダンスが原因で、それは恋心からではない。
だが、彼とできるだけ長く一緒に入れたらと、すももは思った。
(第一部 完)




