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17 試行錯誤の繰返し

「とりあえず、絵具に出来るかどうか、一通り試してみるとして……これはどれがどの属性なんでしょうか?」


 街に出た翌日、私とヴィーさんの目の前にはアルマンさんに貰った魔石の粉塵が入った袋が広げられていた。


 いつも肩に乗せているポメちゃんは、大好きな魔石を前にすると夢中になってしまうらしく、袋を一つひっくり返した所でミミに預けてきた。アングレカム魔術師長には常に付けているように言われたものの、今回ばかりは不可抗力だから致し方ない。まぁ、昨日の外出もヴィーさんが嫌がったから、ポメちゃんは置いていくしかなかったのだけれども。


 それはともかく、この魔石の粉塵……混ざっている物はともかく、属性で分けられた物はどれがどれか解っていた方が、いろいろと都合が良いだろう。


「見た所、量は違うけれど、全ての属性の魔石が揃っているみたいだね。色が違うから解りやすいかな」


 ヴィーさんの説明に寄ればこうだ。


 光属性……金色

 闇属性……紫色

 火属性……赤色

 水属性……青色

 風属性……薄い水色

 土属性……黄土色

 木属性……緑色


 呉須は藍色なので、見慣れた色になりそうなのは水属性の魔石だろうか。でも、他の色もどれも綺麗で、焼いてもこの煌めきが残ったとしたら、それは物凄く美しい物が出来るかもしれない。そう考えると自然と気分が高揚していくのが解った。


「光と闇の魔石は希少だから、やはり量は少ないね。試してみるなら他の属性の魔石からにしようか」

「そうですね……私としては水属性の魔石が私の思ってる絵具の色に近い感じなので、まずはこれからやってみましょう!」

「それで、まずはどうすればいいんだい?」

「まずはこれでひたすら擦ります!」


 取り出したのは乳鉢と乳棒だ。これは昨日、街に出た時についでに購入してきた物だ。


「本当は、鉱物を擦る時にはステンレスか瑪瑙で出来たのがいいんですけど、この魔石はもう粉砕されてるので何でもいける筈です」

「成程……これは初めて使ったけれど、粉砕するのに適した道具なんだね」

「そうなんですよ〜!それで、ある程度滑らかになってきたら、そこに水を加えて……擦って水気が無くなってきたらまた水を加えて擦るというのを暫く繰り返します」


 説明しながら、私もひたすら擦っていたのだが、なかなか思っている様な伸びやかで滑りが良い感触にならず、どうしても水っぽい感じが残ってしまう。


「うーん……やっぱり糊剤を入れた方が良さそうだなぁ……」

「糊剤?」

「水だけでも調整出来ない事はないんですけど、糊剤を入れた方が描く時に筆の伸びも良くなるし、焼き物自体にも色が定着しやすくなるんですよ。魔石の粉は、あまり粘り気がないので、糊剤を入れたらもうちょっとマシになりそうなんですけど……」


 元の世界で使用した事があるのは、市販の工芸用の糊剤だ。あれと全く同じでなくとも、同じ効果がある物がこの世界にもあれば――


「……それは、釉薬に使うフノリでも構わないのだろうか?」

「っ!フノリ!?フノリがあるんですか!?」

「あ、あぁ。乾燥した物ならここにもあるし、食べられるから、生の物なら厨房にもあるはずだよ」


 思っても見なかったヴィーさんの言葉に、つい前のめりになる。私の勢いに驚いた様子で、彼は目を丸くしながらも頷いていた。


 フノリとは海藻の一種の事だ。煮ると粘り気が出るため、古くから糊の原料として使われている物なのだが、その用途は様々で、日本では壁に塗る漆喰にもフノリが使われてきた筈だ。勿論、これは陶磁器の作成にも使われるし、昔々は石鹸の代わりや整髪などにも使われていたらしい。


「やった!フノリがあるならこれはいけますよ……!早速使いましょう!」

「乾燥した物でいいのかな?それならここに――」


 工房の一角から、ヴィーさんが乾燥フノリを出してきてくれたのだが、それは私が知っているフノリとも相違ない物だった。


「とりあえずこれ、煮ないといけないんで厨房に行きますか?」

「いや、釉薬に入れるのに使うから、ここでも作業出来るよ。ちょっと待っていて」


 そう言うと、彼は開戸の中から小さな鍋と網台、簡易ランプの様な物を持ってきてくれた。小学校の時にした理科の実験を思い出し、なんだか懐かしくなってしまう。

 早速、工房に備え付けの水場で鍋に水を張り、乾燥フノリを浸す。暫く水に浸した後、いざ煮ようとするのだが、この簡易ランプはどうやって火をつけるのだろうか。首を捻っていると、横からヴィーさんの手が伸びてきた。


「これは旧式だから、火の魔術を使わないとつかないんだよ。貸してごらん」


 そうしてヴィーさんがランプに手をかざすと、ふわりと温かな風が起こり、次の瞬間には火が灯っていた。どこか優しくて、温かな炎が揺らめく。


「凄い!ヴィー兄様は火の魔術が使えたんですね……!」

「アリスの魔術を見てると、私のは子供騙しみたいなものなんだけど、一応火と土の魔術は使えるよ。まぁ、剣ばかり鍛えていたから、本当に簡単なやつだけしか覚えてないんだけどね」

「剣も魔術も使えるなら、やっぱり凄いですよ!でも火と土って、物凄く磁器を作るのに役立ちそうですね……いいなぁ……」


 ぽつりと呟けば、ヴィーさんが可笑しそうに口元を覆っていた。


「本当にエマは焼き物が好きだね。確かに土を捏ねるのにも魔術を込めると纏まりやすくて重宝しているけれど、君が真っ先に考える使い道は平和でホッとするよ」

「へっ?……あぁ!そうか……もしかして、普通は攻撃する事を考えます……?」

「そうだね。火属性は攻撃するにも強い魔術があるし、土属性は防御でかなり役立つ。剣と並行して使えるとかなり有利に戦えるよ」


 ヴィーさんは元騎士団長なのだから、それが当たり前だったのだろう。でも、本当に焼き物に使えそうな属性だと思ってしまったのだから仕方ないではないか。まだ笑っているヴィーさんから、ふいとそっぽを向く。


「私の故郷では、戦争なんてもう何十年も前からしてなくて平和なんです。そりゃすぐには考え付きませんよ」

「あぁ、いや笑ったのは馬鹿にしたからとかではないよ。本当は、エマみたいな考えの方がいいと私も思っているんだ。魔術は誰かを傷付ける為じゃなくて、誰かを生かす為に使われるべきだってね。アリスもよく言っているよ」

「アングレカム魔術師長も……?」

「そう、この国で誰よりも人を傷付ける魔術を扱える男がね。複雑なんだ、いろいろとね」


 そう言って、ヴィーさんは苦笑を漏らした。


 私はまだ、アングレカム魔術師長が攻撃魔術を使う所を見た事がない。見た事があるのは転移や、結界なんかの便利な魔術だったし、そういう事はあまり深く考えていなかった。もしかしたら、皆に恐れられているのはあの物言いや態度だけではなくて、彼が人を攻撃する魔術に長けているからだったのだろうか。でも彼は聖属性の研究をしているし、ヴィーさんの言葉によるなら本質はかなり優しい人なのかもしれない。


 ランプの炎が揺らめく中、フノリが溶けていくのをぼんやりと眺めながらそんな事を考えていた。


 いつも眉間に皺を寄せているあの人は、今どうしているのだろうかと。






読んでくださってありがとうございます!

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