14.ゲリラ豪雨と天使
GWも明け、嫌々ながらも仕事に勤しむ。
朝は気持ちいいほどの天気で、こういう日に昼寝なんてできたら最高なんだけどなぁ・・・と思った程だ。
しかし、お昼をすぎたあたりから、雲行きが怪しくなった。
おいおい、今日は天気崩れるなんて予報出てなかったはずだけど・・・
せめて帰るまでは降らないでくれよ!
という願いもむなしく、必死で仕事を終わらせて定時で退勤し、電車に乗った直後に打ち付けるような雨が降り出した。
車内の空気が一気に悪くなる。
それもそのはず。見渡す限り、傘を持っている人なんてほとんどいない。
慌てたようにスマホをいじっている人は誰かに迎えに来てもらうのだろうか。
自宅の最寄駅についても雨は弱まるどころか、気持ち激しさを増した気がする。
当然のように駅に隣接したコンビニの傘は売り切れ。
タクシーも全て出払っていて、駅の出口は帰宅難民で溢れていた。
こりゃあ、雨も止みそうにないし、スーツを濡らしたくはないが走って帰るしかないかなぁ。
と途方に暮れていると、
「あ、いた!お待たせ!」
と肩をチョイチョイと叩かれる。
振り向いた先にいたのは・・・
「えへへ、来ちゃった!」
天使だった。
「急に降ってきたからびっくりしちゃったよー。康介さん傘持って行かなかっただろうし濡れると大変だからね!」
え、なにこの子、この雨の中わざわざ迎えに来てくれたの?
天からのお迎えとかじゃないよね?俺生きてるよね?
「どうかした・・・?」
「・・・なんでもない。わざわざありがとな」
「じゃあ帰ろっか!」
そう言って彼女は傘を差した。
なんでもなくねえよ。嬉しくて泣きそうだよ。
俺の心にも傘ささないと涙の豪雨で大変だよ。
と、ここで気づく。
あれ?なんで傘が1本しかないんだ?
彼女が差したのは、俺の愛用の傘。
スーツを濡らしたくないので、大きめの丈夫な傘だ。
お値段は高かったが、社会人になってからずっと使っている物だ。
しかし、瑛理はそれ以外に傘を持っていない。
え?これって瑛理が本物の天使だから雨には濡れませんとかいうオチ?
「ほら、康介さん早く!」
混乱していたら瑛理に急かされてしまった。
とりあえず瑛理に近寄ると、彼女は俺に寄り添って傘をかざした。
あ、これってそういうこと?
俺が瑛理から傘を受け取ると、瑛理が腕に抱きついてきた。
「くっつかないと濡れちゃうから仕方ないね!」
笑顔全開でそんなことを言われて断れるヤツなんていないだろう。
俺は「そうだな」とだけ返して瑛理と共に歩き出した。
十数分後。
いつもよりゆっくり目に瑛理の歩幅に合わせて歩き、自宅まであと3分程といったところで、急に雨が止んだ。
「雨、やんじゃったね・・・」
「そうだな・・・」
本来は喜ぶべきなんだろうが、この状況では素直に喜べないな。
仕方なく、本当に仕方なく傘をたたむために腕を下ろした。
抗おうとするな!静まれ、俺の右腕!
同時に雲が切れたようで、いきなり明るくなった視界に驚いて前を見るとそこには
見たこともないような大きな虹がかかっていた。
俺は足を止めていた。虹を見たのなんていつぶりだろうか。
瑛理も「すごい・・・」と呟いて、数歩歩いて立ち止まる。
そして振り返って
「これなら雨もたまには悪くないね!」
と笑った。
俺は、虹をバックにしたその輝かんばかりの笑顔を記憶に残すべく、
心の中でシャッターを切った。
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