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四話 転移か転生か、はたまたゲームの中なのか

 前途多難どころか、前途全難って感じだが、とにかく職業は決まった。ついでに初期装備も支給されたし、その気になれば今すぐにでもクエストを受けられる状態である。


 というわけで、とりあえず簡単そうなクエストからやることにした。オレ達が最初にいた森とは町を挟んで真逆の森に棲む、ゴブリン討伐クエストである。


「それにしても、この世界はゲームの中だと思うか?」


 森まで向かう道すがら、真剣な顔つきで訊くヒノ。ギルドでけっこうな情報を手に入れたので、自分で言った通り考察に入るつもりらしい。


「オレ的には、充分あり得ると思うぞ。この世界、ステータスもスキルもレベルもあるしな。ついでに魔物は魔石を持ってて、それを奪えば灰になって死ぬってとことか。あと魔物は魔力はあっても魂も理性もない、人類に仇なす害獣ってとこもな」


 だいぶ人間に都合が良すぎる。そんな風に妙に便利な世界にしては、文明があんまり発展してないように見えるとことか含めて。


「む、難しくてわたしにはなにがなにやら……」


「あたしも正直わからんけどねー。RPGとかしねーし。どれでも一緒じゃね? けっきょくのとこ、戻る方法わかんないっぽいしさー。違いもよくわかんねーし」


 投げやりに言いながらスマホをいじるさおりん先輩。さおりん先輩には、とりあえずどこまでスマホが使えるのか試してもらっている。結果は予想通り、電波がないから通話、メール、ネットなどの機能が使えないでファイナルアンサーだ。


 現状を理解していないミーアには、後で個別の説明をヒノに頼むとして。さおりん先輩の言うことも一理ある。が、その違いによっては帰れる可能性が全然違うってのは、どう説明したもんか。


「詳しそうだからルーヤンに訊くけどさ、あれだろ? 転移ってのが身体そのままで異世界に来てて、転生が一回死んでから来てるやつ。んで、ゲームの中の場合身体は置いて来て意識だけがここにある――みたいな感じなんだよな?」


 異世界に来て初めてまともなことを言ったギン。しかも、どうやって説明するか悩んでたところにだから、ナイスアシストである。これに関しては、さすがに誰もスルーしなかった。いつもこうなら、真面目に話聞くのに。


「その認識で正解だ。まあ例外というか特殊例として、死んでるけど元の身体に近い身体に再構築されて、記憶もそのまま異世界に送られるってパターンもある。パターンもあるとか言ってるけど、全部二次元の話だから断言はできねえけどな」


「そうだな。補足するとすれば、転移ってのはなにかの手違いで来てしまった場合と、明確な意思の元に召喚されるケースもある。ま、私達のケースでは、召喚主が見当たらないから、召喚という可能性は低いがな」


 ついでに言えば、転生の可能性も著しく低い。確かにあの時、飛行機でも落ちて来てオレ達もう死んでます、って恐れはある。けどその場合、たいてい転生の前に神サマとかが説明に来るものだ。と言っても、基準が全て二次元なので、現実世界においてどれほど参考になるかは未知数だけど。


 そんなことを話していると、突然一番後ろを歩いていたヒノが足を止めた。


「どうした?」


「今、なにか音が……」


 ヒノが言い切る前、それ(・・)は姿を現した。


 体色はくすんだ緑。体長は一メートルほどで、粗末な毛皮を服っぽくまとったその存在。


「ゴブリンだ」

「ゴブリンだな」


 オレとヒノがほぼ同時につぶやいた瞬間、そいつは持っていた小ぶりな石斧を振り上げ、こちらへ襲いかかって来たではないか。


「おわっ!?」


 一番前を歩いていたオレは、左腕についていた小さな盾でどうにか受け止めることに成功した。ガヅッと鈍い音がして、左腕にジーンとしたしびれが走る。


「ってぇ!?」


 力任せにはねのけると、案外あっさりとゴブリンは距離を取った。どうも力は強くないらしい。


「ってか、ここってもう森カウントなわけ!? まだ百メートルくらいあるぞ!?」


「あれだ、縄張りに侵入しようとして来た輩を見つけて、反射的に来たんじゃないか? 魔物には理性も魂もない。とっさに本能に従って動いていたとしても、不思議ではあるまい」


 冷静に言うヒノは、ゴブリンを観察するだけで手を出そうとはしない。そもそも今のヒノの装備は治癒師のそれであり、装備は白と赤のひらひらした服と、右手に持った身長ほどもある錫杖だけである。攻撃には向かない。


 さっそく職業の偏りによる被害が出てるんですけど!?


 そもそもちゃんとした近接が、剣士のオレしかいない。女子三人は治癒師で後衛、ギンは中衛……のはずなんだけど、ダガーナイフを構えたギンがいるのは、女子の目の前。ほぼ後衛の位置である。


 やっぱ役に立たねえなあいつ……


「だあもう!! とにかく攻撃すりゃいいんだよな!?」


 破れかぶれで、右手に持ったショートソードをゴブリンに叩き付けた。


 ピギィッ!?


 甲高い悲鳴を上げたゴブリンは、怒りに任せてこちらに攻撃を――仕掛けて来ることもなく。ただただあっさりと、その場に倒れ伏した。


『弱っ!?』


 全員でキレイにハモるほど驚いた。たったの一撃でゴブリンは灰となり、残ったのは尖った耳と小豆大の深緑色の石だけだ。


 しばらく、誰も口を開かない。最初に沈黙を破ったのは、オレの手の中にある魔石を興味深げに眺めていたヒノだ。


「ふうむ、ゲーム説に一歩近づいたかな」


「まあ、まさしく『雑魚!!』って感じの強さだったからなぁ……」


「あれなら俺でも倒せそうじゃね!?」


「アリーの場合、油断したところざっくりやられそうじゃね」


 さおりん先輩の言葉に四人が頷き、ギンは本気で落ち込んだのか膝を抱えてしまった。


 だってギン、お前盗賊向いてないんだもん……


 それを言ったら、この場に向いている職業に就いた人間なんて誰もいなくなってしまうのだが、それはおいておこう。今はゴブリンの方だ。


「たしか、あの緑のちっちゃいのをあと四匹倒せばいいんですよね?」


「ああ。正確に言えば、ゴブリンが灰になっても残る、耳か牙を全部で五つ持って行くのがクエストの詳細だな。しかし、身体が灰になって消える理由も、にも関わらず一部だけ消えずに残る理由も不明だ。考えれば考えるほど、ゲームっぽいなここは」


 ヒノの言う通りだ。なんて言うか、現実感が薄いのである。だからと言って、死骸から耳とか牙だけ切り取って来いとか言われても、気持ち悪くてできないんだけど。ありがたいのは嬉しいのだが、どことなくご都合主義感が漂う。


 どうにももやもやしたものを抱えたまま、オレ達は先へと進む。ここでクエストを投げ出すわけにもいかないし、やはりお金がないとこの先、生きて行くのも難しい。


 やっぱり、一回また魔法陣描いて、ベントラーベントラー試した方がいいかなぁ。どう考えても非現実的なことになってるのにいまいち焦れないのは、来た方法が宇宙人を呼んだからって言う、意味のわからないことが発端ってのもあるんだよな。


 これがもし、普通に召喚とか、トラックに轢かれたから死んで転生しました~とかなら、逆にもっと現実味を持って慌てることができただろう。それができないのは、最初から色々間違っているせいだと思われる。


 はぁ……やっぱり、ヒノといるとロクなことにならない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 その日の夕方。オレ達は目標のゴブリン五匹を退治することに成功し、ギルドの裏手に回って鑑定をしてもらった。耳や牙それと魔石の分を合わせて、今日の報酬は百エルン。この分だと、登録料を払うだけでかなり苦労しそうだ。


 宿が一泊につき二部屋必要で、一部屋大体千エルン……しょっぱなから足りねえ!! え、ウソだろ? これに食費が別にかかるんだぞ? 一日辺り五人で三千エルンくらいかかるから……一人につき、ゴブリン三十匹狩らないといけない計算になるんだけど!? 登録料一生返せねえじゃん!!


「どうしよう、これ……」


 やっぱ前途全難じゃん! どーすんだよ!!


 一刻も早く、ゴブリン狩り以外になにか稼げる手段を見つけなくてはならないらしいのだった……


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