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三話 職業選択の自由

「うんまあ予想はしてたけど……来たことないのに超見覚えある」


 ギルド会館に入ったオレの第一印象が、それだった。


 広い空間にひしめく、『自分、冒険者です!』と大声で言うに等しい恰好をした人々。入口からでもわかるが、どう見ても普通の人間じゃない者も混ざっている。耳が尖ったエルフ、ネコミミの獣人などなど。普通すぎて、なんの面白みもない場所だ。もっとこう、オリジナリティ出してもいいと思う。


 そう思ったのはオレだけではないようで、そういう小説やマンガが大好きなヒノも、不満そうな顔をしていた。


「面白くないなここ。まあギルドが存在しているのも飽きたと言えば飽きたが、ないと困るのは私達だからな。ここは素直に喜んでおくべきか。となると、やはりオリジナリティが足りないな。√-9点くらいか」


「なんで虚数なんだよわかりづらすぎるだろ」


 ボケにしてもわかりづらいしハンパだし、もういっそ『マイナス百点』とかにしてほしかった。つーか人によってはわかんねえぞ虚数。


 ヒノのことはさておき、ここはまずギルドに登録するのがいいだろう。小説とかマンガとか、だいたいそうだし。


 そもそもの話、自分の今の現状に疑問を持てよというかもっと慌てるだろ普通、と思うのだけど、もうなんかめんどい。ヒノといるとよくわかんないことが起きるのは、いつものことと言える。だから諦めるのが吉だ。


 てなわけで、オレ達一行は受付へと向かう。二次元方面の知識にうといさおりん先輩とミーアは、不安そうに後をついて来た。突然知らない場所にいたら、常識人はこうなるだろう。色々アウトなヒノと、それに毒されたオレ。それから受付嬢のエルフと思われる超絶美女に、鼻を伸ばすのに忙しいギンの方がおかしいのだ。


 ……やっぱギンは論外で。こいつと同じカテゴリは嫌だ。悪いやつではないんだけどなぁ。


「あの、すみません」


「はいはい、なんでしょう」


 たまたま空いていた金髪碧眼でエルフの受付嬢さんに声をかけると、おっとりとした返事があった。門番の人と会話が成立したことからもわかっていたが、ここ日本語通じる。もしかするとここ、ガチでゲームの中なのかも。それなら説明つくし。



「オレ達、冒険者になりたいんですけど」


「ギルドに登録希望の方ですね~。初めてですか?」


 はい、と答えると、受付エルフさんはどことなくのんびりした動きでなにかを探し始めた。


「ええと、本日登録料はお持ちですか? お一人様辺り、五千エルンかかってしまうんですけど~」


「すみません、今持ち合わせがちょっと……」


 エルン、というのが通貨の単位なのはいい。けどまだ経済がどうとかが全くわかっていないので、それが高いのか安いのかまったくわからない。


 にしても、登録料か……どうしよう、なんか換金できるもんあったかな。


 どうやって五人分の登録料を捻出しようかと考えていると、受付エルフさんは少し考える素振りを見せた。


「そうですか~。あ、でもたしか、どうにかできる方法があったような~……あ、これですね」


 がさごそと手近にあった書類の山を漁って取り出したのは、一枚の紙きれだ。


「えぇと、登録料がまだないのでしたら、仮登録ってことにさせていただきますね~。仮登録の間は実入りのいいクエストは受けられません。ですが~、登録料さえ払えればいつでも正式に登録することができますから」


「じゃあ、それでお願いします」


 後ろを振り返ってみんなを見てみるが、誰一人として異をとなえる者はいない。ヒノ以外の三人は、あんまり興味がないんだろう。


 てなわけで、無事オレ達五人は仮登録することができた。で、ここからお待ちかね、職業を決める時間である。まあ、待ちかねてたのはヒノだけだけど。


「はい、じゃあ順番に並んでください~」


 受付エルフさんに案内された二階で、職業の適性検査を受けるのだ。それを見て、向いている向いていないを考慮して、職業を決めるのだ。

職業はかなり多岐に渡るらしいのだが、仮登録のオレ達ではどれだけステータスが高くても、基本職にしか就くことはできない。と言っても、十種類近くあるからいいんだけど。後でみんなで話し合って、パーティのバランスを考えて決めないと。


そして出て来たのは定番、謎水晶、というかどう考えてもオーバーテクノロジー的なやつ。これに触れれば、たちどころにそのものの適性――ぶっちゃけて言うとステータスがわかる。そしてさっきもらったギルドカードに表示されるのだっ!!


 されるのだっ!! とか言ったけど、もうこれホントどうなってんの? アカシックレコードでも閲覧してるの?


 疑問は尽きないが、まあ触れればわかるのなら、任せておけばいいのだ。


 最初は、やたらはりきっていたヒノの番――って、あれ? オレしかいない? 他のやつらは!?


「あ、他の方なら、もう検査が終わったので下に降りられましたよ~?」


「あいつら……!!」


 どうやら、オレが謎水晶について考えてる間に、置いて行かれてしまったらしい。なら、急がないと……!!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「……これはいったいどういうことか、説明してもらおうか?」


 オレの前には、正座で並ぶ四人の人間。もちろん、ヒノ達である。


 なぜこんなことになっているかと言うと、大急ぎで適性検査を終え、一階に戻ったオレが見たものが原因だ。すなわち、なんの相談もなく勝手に職業を決めやがった、四人の姿を。


 まず一人目。後輩のミーア。彼女が選んでいたのは、『治癒師(ヒーラー)』。読んで字のごとく、回復魔法が得意な職業である。攻撃魔法は、ほぼ使えない。


「ミーア、なんで治癒師選んだ? ステータス見る限り、適性あるの魔術師だよな?」


 主に攻撃魔法を得意とする、一般的なイメージの魔法使いだ。極めると、黒魔術などになれるようになるとか。


 オレの追及に、ミーアは冷や汗を垂らし全力で目を逸らした。


「ミーア?」


「だ、だって……」


「だって?」


「魔術師に支給される服、超ダサいんですもん! 黒いローブとか、わたし嫌ですからね!!」


 そう言って指さしたのは、遠くで受付の人と話す、黒いローブを羽織った人。


 言いたいことはわからんでもないけどさぁ……。治癒師の方が、白系統でまとめられてて可愛いとは思うよ? 女子用っての差っ引いても、魔術師のローブよりデザインいいし。あと関係ないけど、人指さしちゃダメだから。後ろ向いてるから気づかれなかったけど、気づかれていたら面倒なことになってもおかしくない。


 まあ、ミーアはまだマシな方だ。魔術師から治癒師だし、使う魔法の系統が違うだけで魔法使いに変わりはない。だけとか言ってるけど、けっこう違うのはさておくとして。


 次。さおりん先輩である。


「なんで適性『狩人(アーチャー)』にあるのに、さおりん先輩も治癒師選んでるんですか!!」


 狩人は、主に弓を武器として戦う職業である。部員と反りが合わなくて二年の途中で辞めたらしいが、さおりん先輩は元々弓道部員だ。だから納得の結果なのだが、さおりん先輩が選んだのはミーアと同じ治癒師なのである。


 さおりん先輩は正座をしながらも、これっぽっちも悪びれない様子で言い放った。


「狩人って響きがダサい」


「そんな理由!?」


 どんな響きでもいいじゃん! なんだったら、オリジナルの呼称つけて呼べばよかったじゃん! なのになんでわざわざミーアと被せた!?


 もうため息しかでない。が、まだツッコむべき者は他にもいるのだ。


「おいギン、お前なんで『盗賊』選んだんだよ。器用度めちゃめちゃ低いのに。もっとも適性ないだろ。お前の適性、治癒師なのに」


「わかってないなぁルーヤン。そりゃもちろん、俺ってば女子のハートを盗むのが得意だからに決まって――」


「さっきからすましてるけど、一番問題なのはヒノ、お前だからな?」


「訊いておいて無視!? 友達なのに!?」


 もう友達やめたいくらいだよ……!! くだらなさすぎるだろ、そんなこと言いたいがために盗賊やるとか。鍵開けとか絶対できないじゃん。


 ってことでギンはもうスルーして、一番の大問題はヒノである。ヒノは元からハイスペックで、ステータスを見ればわかるのだが、だいたいの数値が高い。一番高いのは敏捷、つまり速さで、もっとも適性があるのが剣士だ。これは普通に、剣を持って戦う人で、完全に近接。


ヒノは耐久以外ずば抜けて数値が高いから、ぜひとも近接をやってもらいたかったのに……


「なんでよりによって、お前も治癒師なんだよ!!」


 これで女子全員が、治癒師になったわけである。こんな治癒師ばっかいらねえよ過剰ヒールにもほどがあるだろ……


「わかってる? 転職するのには、ステータス上げないといけないんだぞ? 要求レベルあんだぞ? なのになんで治癒師選んだ?」


 ステータスとかレベルとか言ってる時点でもろゲームだが、それついての考察は後だ。今大事なのは、治癒師多過ぎ問題である。どうせヒノのことだから、勘で選んだとか言うんだろうなぁ……


「なんでって、治癒師が一番支給される初期装備の服がかわいいからだが?」


「お前もかっ!!」


 見た目で選びやがったよ!! 女子そんなんばっか!!


 いつもなら機能性重視のくせに、こんな時に限って女子っぽいところ発揮しやがて……


 けっきょく。転職することはムリだったので、仕方なくオレが剣士をやることでギリッギリでバランスを取ったのだった。全然取れてねえしオレの適性盗賊だったけどしゃーない。いやしゃーなくねえけどどうにもできないし!!


もうヤダよこんなパーティー……


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