兄の婚約者からの援護射撃
わたくしは庭がよく見える部屋に、婚約者を案内しました。
今日は婚約者との交流の日です。
パーラーメイドが香り高い紅茶を淹れて、テーブルに置きました。
わたくしはミルクを入れて、スプーンを前後に軽く振るように混ぜます。
「あなたの妹さん、騒動に巻き込まれているようね?」
気になったので、単刀直入に尋ねてしまいました。
「ああ、君の女学校まで噂が広まってしまった?」
婚約者は苦笑いしました。
彼は伯爵家の次男で、騎士科に通っています。病弱な妹がいて、一家揃って大切にしているのですが――
「その前の『病弱な幼なじみに呼び出されて』の頃からですわ。
恋や浮気の噂は、早いのよ」
どちらかというと、「あなたが噂に疎いのよ」と言いたいわ。
「本当に頭にくるな。妹が人前に出ないのを利用して。卑怯な奴だ」
自分の学友が、妹の名前を浮気するときに出したのを、怒っているのね。
でも、隙を見せたことや、利用されてもしばらく気付かなかったことはよくないわ。それから、人を見る目がないということも。
今、指摘しても反発されるだけかしら。少し冷静になった頃に、お話し合いしましょうか。
「噂が事実なら、わたくしも『婚約者の妹が病弱で、すっぽかされる』立場になりますわね?」
からかうように言ってみました。
「そんなことはしないよ!」
慌てて、大きな声になってしまうところが可愛いです。
「ええ、されたことはないですね。だから、わたくしの周りで信じている人はいませんでしたよ」
「ああ、私の婚約者はなんて素晴らしい人なんだろう」
こういうことを言ってくれるので、多少貴族らしくないことをしても許してしまうのですわ。
「そんな我がままを言う子じゃないからな。これ、家族旅行のお土産」
そう言って刺繍糸をくださいました。わたくしの趣味に沿った贈り物ですから、とても嬉しいです。
「この紫の糸が珍しい特産品とか、妹が言っていたんだけど……」
そんなことだろうと思っていましたわ。正直すぎるのも、どうなのでしょうね。
こんな心の声を言ってしまうより、好感度を上げていきましょう。素直にお礼を言います。
「ありがとうございます。彼女も一緒に行けたのですね。よかったわ」
「……いや、直前で具合が悪くなった。留守番していたよ」
「え? どういうことですの?」
予想外の返事ですわ。ちょっときつい言い方になってしまったかしら。
病気の女の子を一人残して家族旅行に行ってしまったのでしょうか?
「買ってきてほしいお土産と、観光すべき場所のリストを渡されるんだ。
看病のために行かないと言うと、罪悪感で部屋に立てこもるからさ」
一人で留守番と言っても、使用人たちはいますものね。それでも、病気の時は気が弱くなるものでしょう。
「……優しいのね」
そして、とても強い心を持っているみたい。
彼の家で見かけて挨拶をしたことはあるけれど、おしゃべりをしたことはまだないの。
「だろう? そんな妹が心細いと言って、他人の都合も考えずに呼びつけるはずがないんだ。
あんな卑劣な行為に巻き込むなんて、許せない」
彼は拳をぎゅっと握って耐えている。
本当に許せないわね。
明日、女学校でお友達に話してあげなくては。
彼女がどんなに良い子なのかを。




