↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/44

【第1話:スマホ圏外とか勝たんのだけど!】

ご覧いただきありがとうございます!

本作は現代の強めギャルが江戸初期のブラック旅籠に転生し、バイブスと「ヤバっ!」の一言で世直ししていくお話です。

まずは第1話、お楽しみください!

「……ん、最悪。頭割れそうなんだけど」


 じわじわと這い上がってくる頭痛に眉をひそめながら、私はゆっくりと目を開けた。

 視界に飛び込んできたのは、見慣れた自分の部屋の天井――ではなかった。

黒ずんだ太い木組みの天井に、妙に煤けた、薄暗い空間。ツンと鼻を突くのは、埃と、嗅いだこともない妙に酸っぱいようなカビの臭いだ。


「え、何これ。どこ、ここ? っていうか、私、車に轢かれそうになって……」


 そこまで思い出して、ガバッと跳ね起きた。

 全身を走る痛みを覚悟したけれど、どこも痛まない。それどころか、手元に触れたのは硬くてガサガサした、変な布地だった。


「は? 何この服。ウケる、何かのコスプレ?」


 私が着ていたのは、着物だった。

しかも、お祭りとかで着る可愛い浴衣なんかじゃない。

全体的に泥茶色で、ゴワゴワした、安っぽい作りの和装だ。

おまけに、爪を見て心臓が跳ね上がった。

昨日付けたばかりのキラキラの超ロングデコネイルが、綺麗さっぱり消えている。

代わりにあったのは、短く丸められた、なんの飾りもない生爪だった。


「嘘、ウチのネイルどこ行った⁉ っていうか、私のスマホは⁉」


 パニックになりながら、着物の懐や、帯の隙間に必死で手を突っ込む。

けれど、あの四角くて愛おしい、命の次に大事な相棒の感触はどこにもなかった。

 這うようにして暗い部屋の隅へ向かうと、そこには使い古されてすっかり曇った、小さな青銅の和鏡が鏡立てにぽつんと置かれていた。

私はその前に膝をつき、恐る恐る鏡の中を覗き込む。


「……はぁ⁉ 誰これ、マジで意味不!」


 鏡の向こうにいたのは、金髪でもなければ、ガッツリまつげを盛ったいつもの私でもなかった。

黒髪をだらしなく後ろで一つに結び、すっぴんで、心なしか顔色の悪い、十代後半くらいの和風な女の子。


「ちょっと待って、これマジのやつじゃん! テレビで見るやつ! 転生的な⁉」


 頭を抱えて叫んだものの、誰も答えてくれない。

 私はすがるような思いで、もう一度、着物のあちこちをボリボリと探った。


「嘘でしょ……電波とかそういう次元じゃない。スマホ圏外とかマジで勝たんのだけど!」


 部屋にいても拉致が明かない。私は勢いよく襖を引き開け、薄暗い廊下へと飛び出した。

 ギシギシと派手な音を立てる床を踏みしめ、暗い階段を駆け下りる。

建物の外へ向かうと、そこは通りに面した、妙に広い土間になっていた。


「すいません! 誰かいませんか⁉ ここ、どこですか!」


 声を張り上げると、土間の奥にある帳場の中から、一人の老人がのそりと姿を現した。

 白髪混じりの髪を小さな髷に結い、ひどくヨレヨレした着物を着ている。

その老人は、私の顔を見ると、深いため息をついた。


「……ああ、お咲(さき)かい。やっと起きたか。そんなに大声を出すんじゃない。お上に見咎められたらどうする。ただでさえ、この宿場町は目が厳しいんだからね」


「おさき? 誰それ、ウチの名前は――」


 言いかけて、口を閉ざした。老人の目が、あまりにも異様だったからだ。

 それは、お上の容赦なき法としきたりに骨の髄まで縛られ、抗う術すら忘れた、逃れられぬ宿命に身をやつした者の絶望の色だった。


「あの、おじいちゃん……? 大丈夫? 顔色、マジでヤバいよ?」


「大丈夫もクソもあるものかね。お上の割り振る旅人も、隣の格上の本陣や大きな旅籠にすべて奪われ、うちはもう、明日の米にも困る始末。うちがこれ以上潰れかければ、五人組の連座でお隣近所にまで伝馬役の重いツケが回る。だから皆から白い目で見られ、問屋場(といやば)の役人様にはお叱りを受け……。ああ、早くお迎えが来ねえかのう……」


 おじいちゃんは、ガタガタと震える手で大福帳を閉じ、そのまま床にへたり込んでしまった。

 その痛々しい姿を、私はただ見つめることしかできなかった。


(何これ……。スマホがないとか、自分の顔が違うとか、そんなことより――)


 私の胸の奥で、何かが激しくパチパチと弾けた。

 現代にいた頃から、友達が理不尽に男に泣かされたり、先輩からイジメられたりしているのを見ると、どうしても黙っていられないタチだった。

ウチのバイブスが、今、猛烈に怒っている。


「ちょっと、おじいちゃん!  しっかりしなよ! 」


「ほっといておくれ……。どうせ、うちのような間口の狭いボロ宿なんざ、誰にも顧みられんのだ。お上の御定(おさだめ)に這いつくばり、ただ静かに潰れるのを待つだけさ……」


「はぁ⁉ 何それ、マジでイミフなんだけど!」


 私はおじいちゃんの前にしゃがみ込み、その細い両肩をガシッと掴んだ。


「お上の御定だからって諦めるとか、マジでぜんぜん粋じゃない! 誰が決めたか知らないけど、そんなダサい現実に負けてるおじいちゃん、見たくないんだけど!」


「お、お咲……? お前、急に何を言い出すんだ……?」


 おじいちゃんが、濁った目を丸くして私を見上げる。

 私は立ち上がり、泥茶色の着物の袖を、両腕ともグッと肩まで捲り上げた。


「ウチ、決めたわ。スマホがないのはマジでキャパいけど、このままここで、しけた面して死ぬのを待つなんて絶対に嫌。そんなの、一番バイブス下がるし!」


「ばいぶす……? お咲、頭でも打ったのかい?」


「打ってない! っていうか、ここ、ウチの新しい現場(ステージ)だから! 現場のトップが死んだ目してたら、来るハッピーも来なくなっちゃうじゃん!」


 私は腰に手を当て、不敵に笑ってみせた。

 鏡で見た新しい自分の顔は、すっぴんだったけれど、今の私の魂が宿った瞳は、きっとギラギラと輝いているはずだ。


「いい、おじいちゃん? 今日からこの旅籠は、ウチがルールだから!」


「な、何を言っているんだ。お上や大旅籠に逆らったら、本当に地獄を見るぞ……!」


「地獄? 上等じゃん。そんな古臭い地獄、ウチらのアゲアゲなバイブスでほんわか爆破してあげるから!」


 怯えるおじいちゃんの手を無理やり引っ張り、立たせる。

 現代ギャルの魂を持った、前代未聞の「新米ギャル女将」が、今、この瞬間に爆誕したのだ。


「まずは何から始めるんだい……?」


 オドオドと尋ねるおじいちゃんに、私は満面のウインクを飛ばし、親指を力強く立てた。


「きまりきっしょ! まずはこの埃っぽくて陰気な部屋の大掃除から! ヤバっ、ウチらの伝説、こっから始めちゃうよ!」

第1話をお読みいただきありがとうございました!

スマホなし、着物姿という絶望的状況からギャル女将の快進撃が始まります。

次回、しけた旅籠の現状にキレた彼女が大暴れ!?応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。