第十五話 違和感
「はじめまして、神聖騎士団の団長、セラフィス・アルディーンだ。」
物腰は柔らかそうに見え、顔には年相応のシワが刻まれている。
ただ、騎士という割には…少々綺麗すぎる顔にも見えるが…。
「文民統制式ではないか?」
「とても現場からの叩き上げには見えない。」
「お飾りか?」
「もし、傷を負うまえに敵を倒しているなら…強い。」
「いや、逃げ延びた腰抜けだろ、血気がない。」
「天下りもあるな。」
「筋肉が…泣いている…。」
団長は俺を見て続ける。
「率直に言おう。」
「君を、神聖騎士団に迎えたい。」
「なぜ、私を?」
「あぁ、我々が追っていた魔獣を倒したと聞いてね。」
「あの魔獣には、我々神聖騎士団も手を焼いていたんだ。」
「報告書によると、神聖騎士団が君の村の付近で討伐隊を編成していたとき、魔獣が現れたと通達があったそうだ。」
「部隊を急編成して現場に駆けつけたらしい。」
「だが、到着した時には、もう既に村民によって倒されていたそうでね。」
「村の人々に事情を聞けば、なんでも君が一人で倒したそうじゃないか。」
「最初は、酒の入った村民の眉唾だと構えていたらしいが。」
「村の正門前にあった、魔獣の傷と証言が一致してね。」
「それでぜひ君を神聖騎士にと、書状を送ったわけだ。」
「アルトくん、強大な魔獣を退けたその力、王都の治安のために、民の安寧のために、振るってはくれないか?」
なんだ?この違和感は…。
話が妙に引っかかる。
「いい傾向だな。」
尋問官の俺が話し出す。
「相手の言葉尻の違和感に気づく、というのは証言を取るときに大切だ。」
「余計な所で嘘はつかない、いや、つけない。」
「だからこそ、言葉尻には警戒しなければならない。」
「さて、奴の発言を思い出せ。」
魔獣を退けた、とたしかにそう言った。
通常、騎士団では魔獣を倒して死亡を確認した場合は、討伐と言われるはずだ。
…もしや、魔獣が生きているのを知っている?
だから、討伐ではなく退けた…と表現した…?
「言い回しだ、考えすぎでは?」
「うちの嫁も、てにをはには煩かったな。」
「可能性は、ゼロではない。」
「主語がないって、よく言われたなぁ。」
重箱の隅をつつくような俺の指摘に、過去の嫌な思い出が蘇る俺たちもいるらしい。
尋問官の俺はそんな言葉を聞かずに俺へとアドバイスする。
「違和感は、積み上げるものだ。」
「一つで断定すると、偏見で判断して真実を見誤る。」
「あいつを、よく見ていろ。」
俺が悩む素振りを察したのか、団長が続ける。
「もちろん、タダとは言わない。」
「神聖騎士になれば、王都への居住権の手配、魔道具や武具の支給に、追跡している魔獣に関する機密情報へのアクセスもできる。」
…魔獣に関する情報にアクセスできれば、黒ローブ相手に先手が打てるかもしれない。
王都に来て、情報を得て黒ローブの男を追う。
神聖騎士になれば、その目的に大きく近づける。
「潜入には好都合だろう、門をわざわざ開けてくれている。」
「いや、早計だ、信用できない。」
「情報だけ抜いて、ずらかりゃいいだろ。」
「逃げたら、家族や村が危うい。」
俺の頭の中でも、意見が割れている。
「いや、しかし、安心したよ。」
沈黙に耐えかねたセラフィスが声をかけてきた。
「…何がでしょうか?」
「あぁ、いや…。」
「君の死体を見たと報告を受けた時は、どうしたものかと思っていたんだ。」
「何であれ、無事で安心したよ。」
頭の中で尋問官だった俺が静かに、しかしはっきりと語りかけてくる。
「これで、また一つ積んだな。」
騎士団長セラフィスこいつは、ガイルが運んだ偽物の俺を知っている。




