花の魔術師
『あなたの夢はなんですか?』
魔法を知っていますか?魔法はありとあらゆる科学、超常現象を魔力だけで再現してしまう超能力です。それが、レオン歴2000年、西暦で言うとことの5080年である現在の通説です。レオン歴が何かって?ああ、旧人類のあなたでは知りませんよね。これは、新人類が旧人類と争い、全ての文明が消え去った時から始まった暦です。
「古臭い家だな」
無礼な態度で男が私の家に入ってきました。中年で無精ひげの清潔感のない男に言われるのはむかつきます。
「いらっしゃいませ!」
こんな男にも元気に挨拶をする私は何と素敵な女性なのでしょうか。ああ、きっと私と釣り合うのは新人類を救済したレオン様ぐらいでしょうね。
「あんたが時の魔術師か?」
「はい、時の魔術師ホタルです」
「案外幼いんだな。聞いてた話だともっと恐ろしい女かと思っていたが」
「さあ?時の魔術師ですし、年齢と見た目は全然違ってたりするかもですよ」
「まあ、そんなことはどうでもいいか。王子レオンハート様からの依頼だ」
「王子様から依頼とは光栄なことですね!それで内容は?」
「どうやら旧人類の生態について知りたいらしい。あんたの魔法で過去に戻って調べてこいだそうだ」
「旧人類に興味があるなんて珍しいですね」
「ああ、だから内密に頼む」
この世界において旧人類は下等な人種、いいや、そもそも人と思われてはいないでしょう。家畜以下の扱いです。だからそんなものに興味のある王子様は変わっていますね。このお偉いさんもそんな王子の教育は大変でしょう。
「それで、報酬は何ですか?」
「レオン金貨100枚だそうだ」
「レオン金貨100枚ですか。別に要りませんね」
「おいおい、我が国最高の銀行硬貨だぞ?逆に何が欲しいんだ?」
「では、お金はいいので、青薔薇を1000本程お願いします」
「はあ」と大きなため息を吐き、その男は、少しキツイ口臭を私に嗅がせました。
「噂では聞いてたが、本当に花を要求してくるとはな」
「はい、花が好きなので。でも、一部の花は王宮が全て保管しているせいで図鑑でしか見られません」
「ああ、わかったよ。青薔薇は用意しておく」
「はい、お願いします」
男はどこか不満げに店を出て、乱暴に扉を閉めていった。
「うわー壊れたら絶対王宮に請求しよ」
この家はおばあちゃんの代から継いでいるのです。その分年季も入っていますが。
おもむろに立ち上がり、地下室のドアを開ける。私の魔力に反応して開くように設計されたそのドアは石製で、どれだけマッチョでも持ち上げられないでしょう。そうして階段を下り、地下にある時空の扉に向かう。
「青薔薇はどこに埋めようかな~」
時空の扉の先には花畑が広がっています。私の家系は代々空間魔法の専門で、祖母は
「瞬間移動」、母は「独自空間の創造」、私は「タイムトラベル」と、とても優秀な家系なのです。その中で一番の天才は言うまでもなく私ですが。地下の時空の扉は、母が作った特殊な空間です。そこは全ての植物が快適に育つ実に素敵な場所なのです。
「やっぱり綺麗だな」
時空の扉に入り、花畑を見つめる。そこには水平線の先まで花があり、楽園とも呼べるでしょう。
「こんな素敵な花畑を作ってくれた叔母さんには感謝しないとな~」
この場所は、母の姉であるレヴィ叔母さんが作ったものです。叔母さんは空間魔法ではなく、花魔法を専門にしていました。
「おばあちゃんは認めてなかったけど、良い魔法なんだよな~ほんと」
花魔法は、花に込められた意味や言葉を再現するもの。私はこの魔法が好きです。魔法を使った時にほのかに香る花の匂いも、その魔法で幸せになる人も…みんな好き。
「私も空間魔法じゃなくてこっちやりたかったな」
そんな独り言を漏らす。祖母が生きていた頃ならば叱責が飛んできただろうが、今はない。魔法の天才として空間魔法を極め、時の魔術師と言われるまで成長した。でも、私には夢があります。いつか、花の魔術師と呼ばれることです。
「花の魔術師…なるよ絶対」
花と戯れ、一本の花を摘み、また現実世界に戻る。そして魔方陣を描き、仕事をこなしに行く。
「時の精霊よ、私の声を聴け」
そうして白い光に包まれ、私は過去に行くのです。




