春の嵐
それは突然の連絡だった。
俺は仕事帰りで電車に乗っていため、その電話を出ずに切り「緊急か?」とメッセージを入れた。
直ぐに返信が来た。
「奏斗の母です。」
戸惑った。
こんなことは滅多にというか今まで一度もない。幸い直ぐに次の駅だったので、一度電車をおりてこちらから電話をかけ直した。
●「もしもし、平山秋ですが…。」
△ 「秋くん、お久しぶりです。奏斗の母です。急に電話してごめんなさいね。申し訳ないんだけど、今から○○総合病院に来て欲しくて、」
●「何かあったんですか?奏斗のスマホからかけてるんですよね?」
△「あの子が…事故にあって…」
どう考えても冷静ではないその声と、本人からの電話ではない事実から考えて、状況は相当良くない。
ただ、嫌に冷静に話を聞いている自分に嫌悪感を抱いた。
●「直ぐに向かいます。」
駅を出て直ぐにタクシーを捕まえた。
幸い、特段に離れた場所ではないし、有名で大きな総合病院だったので、運転手も手際よく車を発進させてくれた。
病院に着いたのでメッセージを入れたが、返信は無い。とりあえず受付で事情を話すと、俺がここに来ることは伝えてあったようで、直ぐに病室に案内された。
病室をノックした時、今まで無かった緊張と嫌な予感が一気に込み上げてきた。電話を受けてからここに着くまで、体と感情がどこか乖離しているような気がしていた。それが今はじめて繋がったのだ。
俺はゆっくりと病室のドアをあけた。
まず目に飛び込んだのは奏斗の母だった。
彼女はまさに蒼白い顔をして、どうしたらいいか分からないというような体でそこに佇んでいた。
俺も奏斗も高校卒業後すぐに地元を離れて暮らしていたので、会うのは7、8年振りだった。
変わらず綺麗な人ではあったが、昔のような若さはなく、年相応に綺麗だという印象を受けた。その瞳は落ち着きがなく、戸惑っている事が見て取れる。
俺が入って来たことに気がつくと、ゆっくりとこちらを向いた。
●「お久しぶりです、おばさん。奏斗は…」
△「ああ、秋くん…。今は落ち着いているんだけど、なんだが様子がおかしくて…。さっき起きた時に声をかけたらね、私の事分からないって言うの。秋くんだったらいつもそばに居てくれているみたいだし、何かできるかもって、だから…」
ベッドで寝ている奏斗の方を見る。
酷い怪我だ。頭に包帯が巻かれている。
彼女の話からして、恐らく一時的に記憶が混乱していると言ったところだろう。
医者からは説明を受けただろうが、彼女自身も混乱してしまっていて、よく分かっていないことが見て取れた。
●「とりあえず落ち着いてください…。俺もお医者さんに話を聞いてきますので、詳しい状態を聞く許可をおばさんにいただいたとお伝えしてもいいですか?」
小さく頷いた彼女を確認したあと、もう一度奏斗の方を見る。大怪我に対して表情は安らかに眠っているので、とりあえず命に別状はないのだろう。
奏斗の父は仕事の関係で海外にいることが多いので、今ここにいない所をみると、こちらに来るまで時間がかかりそうだ。あとは姉の真琴さんだが、こちらは今日中には来てくれるだろう。
俺は奏斗の母を一旦椅子に座らせて、病室を出た。
服が汗でぐっしょりと濡れていることに気がつく。
とにかく、彼女の説明では状況の整理が追いつかない。早く医者の話を聞きに行こう。病室を出ると案内をしてくれた看護師がまだ近くにいたので、事情を話し待合室に通された。




