140年後……
――王都の王城にて
「お父様、聖女様をお呼びするのって、10年後ですか?」
王城で、教育を施されている小さな子供が、父親に訊ねる。
お父様と呼ばれたのは、20代前半くらいの若い男であるが、彼は頷いて子供の頭を撫でる。
「そうだね、たしか。もう聖女様について習ったのか」
「はい、『召喚の儀』というのも、数年掛けて魔力を貯めて準備するとのことで、その準備から見る事が出来るだろうって、先生がおっしゃっていましたわ!」
目をキラキラさせて、本の挿絵にあった聖女を思い浮かべる子供。
男は大きく頷いて、子供を抱っこした。
「よし、召喚の間を見に行こうか。まだ準備まで5年以上あるから、今は何もしていないけれど、現地を見ておこう。ワタシも見た事がなくてね」
聖女を喚ぶ時にしか使われない場所で、召喚に関係のない年代の王族は、そんなところがある程度しか聞いていなかった。
近隣視察という名目で、召喚の間を見に行く日程を組み、王族の2人は向かった。
――が、聞いていた場所には、何も無かった。
小高い丘には、そよそよと夏の風が吹いている。
「お父様……何もありませんわ……」
「そうだね……」
そよそよと吹かれた心地よい風があるだけの丘だ。
護衛の一部に、聞き込みへ向かうよう伝えて、辺りにそれらしいものがないかの捜索も始まるが、何も得られるものは無かった。
とある脳筋たちが塔を壊して、地下の空間へ沈ませたし、140年という月日は、跡地に土が積もり草木が芽吹き、花を咲かせるには充分なものだ。
その付近を大きなカラスが飛んでいた。カラスから「プフッ」と笑いが漏れていたが、その声音は誰にも届かず。
当初の予定という建前の視察も、心ここに在らず。
近隣の村や町を巡り、王城に戻ると、会議が開かれ、さまざまな議論が飛び交っていた。
しかし、召喚するための何かはどこにも無い。
自分たちの代では関係のない事……と、何も手を掛けずにいたのもあり、100年以上前に付近の村から上がった報告も、テキトーに処理した結果であった。
西と東の辺境伯が、王族よりも聖女のことについて詳しいと突き止め、書簡を送るものの、返ってきた答えは……
――前回の召喚時含め、王族は過ちを犯しました。
召喚の間は、召喚者により封印され、二度と過ちを犯す事なく過ごせるようになる事でしょう。
幾度訊いても詳細は教えてもらえず。
東と西の辺境伯に伝わる言葉は
――自分らで、なんとかしやがれ。
という、乱暴な言葉のみだ。
最後の聖女や他の召喚者については、とことん秘匿されたようで、今となっては現代の辺境伯たちも、何があったか知らないそうだ。
今代の王族が訪れた場所が、結婚式会場として選ばれて破壊されたことは、当時召喚された者たちの胸にしまわれた。
そのことを知る人間は、すでに誰もいない。
『ワシらは知ってんねんけどな!』
番外編もこれにておしまいです。
のんびり更新な番外編でしたが、ご覧くださりありがとうございました。




