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お花屋さん ー夏ー  作者: ニケ
14/16

暗闇の先に

今日と明日、老人たちが旅館に泊まってゆっくりと過ごすことになった。西森はなんだか嬉しくて屈託なく笑う。老人とはもう少しそばにいたかったし、女将や正宗とも話がしたい。事件で出会った人達ともゆっくり話がしたかった。ロビーや旅館の至る所で事件に関わった人達がのんびりと寛いでいる。女将や正宗も人の中で穏やかに笑っていた。



事件の後、自分はこんなにも守られていたのだなと改めて思う。一人だと思っていたのに知らぬ間に大切な人達が増えた。初めからずっと見守られていた。一人で必死に花屋を守っていた時もそっと陰から見ていてくれたのだなと西森は実感した。



「西森、疲れただろ?老人が話したいってさ。お婆さん、静子さんの話でもたくさん聞いてこいよ」



速水が穏やかに笑って西森の頭を撫でる。速水の温もりがとても心地よい。西森は照れたように速水を見つめて静かに頷いた。速水の目の中に穏やかな強い光がある。何もかも包まれているような温かさに頬が少し熱くなった。



旅館には今回の事件でやってきた黒いスーツの男達もいる。襲ってきた時は強面だったが、サングラスを外すと何とも可愛らしい目をしていた。人良さそうで気さくな目元だ。こんな目をしていたらとてもじゃないが、すぐに計画がバレてしまう。慌てて人数分のサングラスを買いに行ったのだと老人が笑いながら話してくれた。



老人が建てた更正施設で暮らしているらしい。普段は施設の中で仕事をしたり、自身の病気や心の傷と日々向き合っている。優しく穏やかに笑っているが、皆心に傷を負って苦しんでいるのだと老人は話してくれた。



「静子さんは太陽な、月のような不思議な人だったよ。見えない心の傷に怯えて逃げていた彼らに、安らぎと傷に立ち向かう勇気を与えてくれたのだから」



目を細めて懐かしむように見つめる老人に、西森は優しく微笑んだ。祖母の生前の話は親戚の誰からも教えてもらえなかったので話を聞くことができてとても嬉しい。もっと祖母の人生を聞きたい。どんな想いで生きて、何を夢見ていたのか。祖母の生きた鼓動や魂の叫びを聞いていたい。真っ直ぐ見つめる西森に老人は穏やかに笑って頭を優しく撫でた。



昔、祖父からこんな風に頭を撫でてもらったことがある。目の前の老人に雰囲気がよく似ている。物心ついた時、西森家の祖父に会っても記憶の中で感じた温かさは見受けられなかった。優しく微笑んでいた幼い記憶の祖父はどこに行ってしまったのかと、大きな違和感を覚えていた気がする。あの時、優しかった祖父は自分が子供だからだったのかと思い直していた。



「お爺さん、俺と昔会ったことがありますか?俺、なんだかお爺さんとは初めて会った気がしないんだ」



何気無く思ったことを口に出して伝えてみた。西森の素朴な疑問に老人の目が大きく見開いていく。ゆっくりと開かれた目を西森はぼんやりと見送った。



「お、覚えているのかい。。?いや、そうだな。そんなことも。。あったかもしれないな」



老人が思った以上に狼狽したので西森は不思議に思って首を傾げる。言葉を濁した老人を西森はあまり気に止めなかった。祖母が仕えた人だから一度くらい会ったかもしれない。思い直してもう一度大好きな祖母の話を催促する。話を戻した西森に老人は安心したように息を吐いた。



アキラが温泉に入ったことがないと呟いた声を聞いて、速水と杉崎は驚いたようにアキラを見つめる。杉崎は興奮したように、嘘でしょ!?と大きな声を上げた。事実は事実ですよ。冷静に言い放つアキラに杉崎は頭を抱えながら、奇声を上げた。



「あああーー!!勿体ない!!よし!!アキラ!!温泉入ろう!!この旅館の温泉は凄いんだからな!!ね!速水さん!!」



ほとばしるような熱い目で杉崎は速水に同意を求める。燃えるような熱線は見ていて暑苦しい。速水は、そうだなと軽く交わした。不満そうに杉崎は口を尖らせる。どうやら機嫌を損ねたようだ。



「速水さんは情熱ってもんをわかってないですよ。アキラは温泉を知らないんですよ!!ここは、アキラに温泉の良さを知ってもらうチャンスなんですから。気合いを入れてください」



眉をひそめて杉崎は速水に訴えた。速水はもう一度のんびり、そうだなぁと頷いている。やる気が感じられない。杉崎は納得できなくて速水に詰め寄り強く力説した。二人のやり取りをアキラは不思議そうに見つめている。温泉ってそんなに良いものなんですか?首を傾げながら興味を示したアキラに杉崎が嬉しそうに笑って頷いた。



「気持ち良いぞ~!大きな湯槽に足と手を思いっきり伸ばすんだ。外の風景を見ながらの露天風呂は爽快でさ!入ればわかるって!行こう!!ほら、速水さんも」



西森さんに振られて一人なんでしょ?行きますよ!ぼんやりとしていた速水に聞き捨てならないことをあっさり告げて腕を引っ張る。速水の眉がピクリと動いた。



「振られたんじゃなくて、俺が気を使ったんだ。俺の繊細な配慮だ!」



前を行く杉崎の背中に声を荒げて伝えれば、どうでしょうかね?と軽くあしらわれた。杉崎がへこたれなくなっている。前よりも打たれ強くなり、なんだか楽しそうだ。速水は目を細めて杉崎の好きなようにさせていた。



「西森さんは人気者ですからねー。速水さんよりも皆さんと一緒にいた方が楽しいんじゃないですか?速水さんが情熱をわかってないからですよ。ほら、さっさと温泉行きますよ!!」



前言撤回。図太いだけだ。苛立つ速水が杉崎を睨んでいると、穏やかな気配を感じて隣を見る。アキラが楽しげに笑っていて、自分と同じように手を杉崎に引かれていた。無意識なんだろうな。柔らかく笑うアキラを速水は優しく見守っていた。



旅館の温泉には広い更衣室がある。篭が何個も置かれ、今日は言わば貸し切りだ。更衣室に入るや否や、嬉しそうに好きな場所を確保する杉崎とのんびり歩いていく速水にアキラが戸惑ったように立ち止まる。どうした?と目で伝える二人にアキラは困惑したように口を開いた。



「こ、ここで服を脱ぐんですか?お風呂の中で脱ぐんじゃ。。」



驚くほど狼狽しているので、本当に温泉は初めてなんだなぁと速水と杉崎は思った。使い方がわからないのだろうと杉崎はロッカーの説明をする。アキラが急に下を向いて小さく何かを呟いた。声が聞こえなくてもう一度聞き直すように耳を近づける。速水もアキラの元へやってきた。



「お、俺。。その。。体に傷があるんです。。今までにつけられた傷が。。気持ち悪いですよ。生々しいって言うか。。」



言い難そうにアキラは声を出して口を閉じた。黙ったまま動かない。立ったまま息を潜めるアキラを速水と杉崎は無言で見つめている。しばらくして速水がいきなり服を脱ぎ出した。驚く二人に構わず上半身を裸にして黙って静かに背中を向ける。何事かと視線を動かしたアキラは速水の背中を見て目を見開いた。



「こ、これ。。」



何も言えずに呆然と見つめていると、今度は背後で音がする。振り返ると杉崎が服を脱いでいた。肩から腹にかけて大きな傷がある。皮膚が深く抉れていてすぐに切りつけられたのだとわかった。



速水の背中をもう一度見つめる。たくさんの煙草の後。小さくていくつもある腫れた細い傷。アキラにもあるものだった。



「アキラ、大丈夫だよ。傷なんて恥ずかしいものでも、気持ちの悪いものでもないんだ。傷の1つや二つ、持ってるって」



杉崎がアキラに屈託なく笑っていて、そうだなぁと速水ののんびりとした声が聞こえた。戸惑いながら二人を交互に見つめるアキラに速水は振り返って向かい合う。真っ直ぐ見つめて優しく笑った。



「アキラ、傷はな、お前が戦って生き抜いてきた証なんだ。恥ずかしいものでも、汚いものでもない。大切なものだよ。ほら、見ろよ。これ」



速水の煙草を押し付けられた丸い傷に油性のマジックで落書きがしてある。丸い傷を型どって、真ん中ににっこりと笑った顔がしっかりと描かれていた。



「これはな。西森が描いたんだよ。暑くて服を脱いでたら、いつの間にか落書きしやがった。にこにこ笑って、俺の分身なんだと。可愛いだろ?」



幸せそうに笑いながら、速水さんがたくさんいますねと無邪気に笑う西森が頭に浮かんでくる。穏やかに口元を上げる速水をアキラはぼんやりと見つめていた。



「俺のこの傷な。先輩に突き落とされたんだよ。試しにって言われて切られてさ。堪んないよ。でも、ほら、俺も。ちゃんと生き抜いたぜ」



俺の憎しみの歴史だな!後ろから杉崎の明るい声が聞こえてくる。振り向いたアキラに杉崎は優しく笑って頷いた。俺、嫌われ者だったんだぜ。朗らかに笑う杉崎が眩しい。アキラは黙って下を向いた。



傷なんて相手を不快にさせるものだと思っていた。真っ白な傷のない、普通の状態がいいと思っていた。



決心したようにアキラは顔を上げる。着ていた服を一気に脱ぎ去った。自分の部屋でしか裸になったことはない。仲間の前でも生々しい傷を見せたくなくて絶対に脱がなかった。



「。。アキラ。よく生き抜いたな。ありがとう。会えて嬉しいよ」



アキラの体にある無数の傷。速水と杉崎は真っ直ぐ見つめている。小さく震えているアキラに優しく笑って、励ますように肩を軽く叩いた。



温泉の天井は高く気持ちの良いほど吹き抜けている。温泉から立ち上る湯気が何とも柔らかくて心地よい。滑らないように注意しながら速水はアキラを呼ぶ。首を傾げながら持ってきた椅子を置くアキラに後ろを向けと告げた。



「あーーー!!アキラの背中を流してる!!俺がしてやろうと思ってたのに!!」



温泉に入る前にさつきから杉崎へ電話があった。デレデレした閉まりのない顔で携帯を取り出した杉崎を速水はさっさと置いていき、アキラと共に風呂の扉を開けて中に入っていた。緩んだ口元と嬉しそうな声に長くかかるだろうと思っていたのに、案外電話は短かったようだ。



後ろを向いたアキラの背中を石鹸で泡立てたタオルで洗う。今までの苦労を労うように、出会えた感謝を伝えるように。優しく何度も洗った。アキラは大人しく前を向いて座っている。何か考え事をしているようだ。どたどたと騒がしい音がして杉崎がやってきた。



「速水さんって、いつもそうやって良い所取っていきますよね!!つまみ食いのようですよ!肝心な時にしっかりと決めて。はぁ。。」



杉崎の口調から気絶していたことを気にしていたのかなと速水は思った。いや、さつきに担がれていたことが気に入らないのか。呆れたように肩を落として下を向いている杉崎を速水はのんびりと見守った。



「わかったわかった。お前も大変だったな。大丈夫だ。お前の背中も流してやるから。この。。脈々と受け継がれ人類の叡知が集約された文明の利器でな!」



。。。それって亀の子たわしじゃないですか!!



杉崎の大きな声が響く。にんまりと速水は笑って杉崎を見た。杉崎ががっくりとまた下を向く。情熱を熱く語ったり落ち込んでいたり。忙しい奴だ。



「いらないですよ!俺がアキラから背中を流してもらうんです!速水さんはそのままアキラの背中を流してください。。って!!何、アキラにたわしを渡してるんですか!!」



たわしについて速水の丁寧な説明に、知らなかったです!そんなに凄いものなんですね!とアキラは感嘆の声を上げている。違う!!杉崎は涙目になりながらも、必死にアキラに食らいついた。



「杉崎!!亀の子たわしを馬鹿にするなよ。これはな。現代に伝わる素晴らしい人類の生きた結晶なんだぞ!!」



そんな素晴らしいもので体を洗うなんて。杉崎さん、凄いです。柔らかく笑うアキラに違う!!と杉崎は首を振る。そう、遠慮するなよ!珍しく爽やかに笑う速水に杉崎は奇声を上げながら頭を抱えた。

皆様こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

味ぽんを買ってきました!うふふふ!共犯野菜をたくさん食べましょうかね。味ぽん♪

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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