帰郷 その6
さてさて、俺は久しぶりに故郷に帰ってくることができ、アニエスの顔も約1年ぶりに見ることができたわけだが、そうなって来ると必然的に、次は我が実家だ。
他の知り合いのところにも顔を出しておきたいが、やはりまずやるべきことは、実家に帰ってきたことを報告することだろう。
そう思い、俺はアニエスと一旦別れ、自分の家へ向かって歩いて行く。そしてしばらく町のみんなに挨拶しながら歩いていると、実家が見えてきた。
懐かしいなぁ〜なんて思いながら眺めていると、何か小さな物体が凄まじい速度で迫ってくるのが見えた。
俺は咄嗟に身構えたが、すぐに警戒を解いた。だって、迫ってきているのは……
「兄さまーー!!」
「おぉ、セザーッ、ぐへッ!?」
セザールは俺が体勢を崩さないかなど、全く気にした様子もなく、全力で突進してきた……。
マジで昼に食べたものをリバースするかと思うほどの突進力だった。
「ひ、久しぶり、だなぁ……セザール」
「ひさしぶり!! でも、兄さまぜんぜんかえってこない! ばかばかばか!!」
セザールは俺のダメージなど気にした様子もなく、ポカポカと可愛い手で殴ろうとしてくる。でもこの様子を見て、少し安心した。
この子ももう大きくなったし、昔みたいに甘えてくれないかと思ったが、案外そうでもなかったようだ。
「ゴメンゴメン。これからはちょくちょく帰ってくるから。それといっぱい遊んであげるから許してくれよ。な?」
「ん〜〜……わかった! ぜったいだよ!」
「あぁ、絶対だ。約束する」
俺がそう言って力強く約束の言葉を口にすると、セザールも安心できたのか、それ以降は全然帰ってこなかったことについて何も言わなくなった。
「全く……」
「ん? 何かいった? 兄さま」
「いや、何でも無いよ。さぁ、家に入ろう。俺にとっては久しぶりの我が家だ。父さんと母さんにも会いたいしね!」
「うん!」
俺はセザールと一緒に家の扉を勢い良く開け放った。
そして、
「「ただいま!!」」
俺とセザールの大きな声に、一瞬驚いた両親がこちらに振り向いた。ちょうど玄関を入ってすぐの居間に居たようだ。そして、俺の姿を見るなり、全速力でこちらに走ってきた母さんは、そのまま俺を抱きしめた。
「セドリック! お帰りなさい! 帰ってくるって手紙はもらってたけど、まさかもう帰ってきてたなんて……」
「母さん……なかなか帰って来れなくてごめんね?」
「いいえ、あなたはもう立派に働いているんですもの。簡単に帰ってくるのが無理なことくらい分かるわ。とにかく、お帰りなさい」
「おかえりなさい!」
母さんとセザール二人にお帰りと言われ、俺は思わず笑顔になってしまった。
「うん、ただいま」
その後、俺たちは足早に家に戻り、盛大な夕食会が開かれた。あんなご馳走は久しぶりに食べたなぁ……。父さんもすごく喜んでくれて、帰ってきて正解だったと思った。
余は満足である!
夕食を食べた後は旅の疲れを癒すために、早めに自分の部屋に向かった。
ベッドに倒れ込み、これまでの旅路で起こった出来事や、それまでの冒険者生活での出来事を一通り振り返った。
「本当に色々な事があったな〜。今思い返すだけでも、ものすごく濃い一年だったように感じる」
そんな事を考えながら、ボーッとしていると、扉がノックされる音が聞こえてきた。
「はーい、どうぞ〜」
すぐに入札許可を出すと、ノックをした人物が部屋の中に顔を覗かせた。
「おぉー、セザールじゃないか! どうしたんだい?」
「あ、あのね! 冒険のお話、聞きたい、なって……ダメ?」
グハッ!! 俺の弟が可愛すぎる! 確かに疲れてるけど、疲れているけれども! そんな上目遣いでお願いされたら断れんでしょうが……全く、策士な五歳児め……。と言いつつ、大歓迎です!!
「勿論いいとも! ほら、部屋の中に入りなさい」
「うん」
セザールはそう返事をした後、可愛らしい動きでトボトボと歩いてくる
「はい。この椅子に座りな」
「うん、ありがとう!」
うんうん。こういう細かいことにも、お礼を言えるのは良いことだ。本当にいい子に育ってるな〜。母さんと父さんの偉大さを改めて認識したよ。
「さて、何から話そうか〜」
「いっぱいあるの?」
「そりゃもう! 話したいことはてんこ盛りだよ」
「わぁ〜!」
本当に冒険の話が聞きたかったんだな。セザールの目が眩しいくらいにキラキラしてるよ。まぁ、そりゃそうか。いくら父さんと母さんがいるとは言え、彼らは歳の離れた大人だ。セザールにとって、年が近く、しかも全力で遊んでくれる相手といえば、家族では俺だけ。
そりゃ寂しかったよな……本当にごめん。これからは定期的に帰ってくるようにするからな。
と、一人でそんな反省会をしていると、セザールがキョトンとした顔で俺を見上げていたので、気を取り直す。
「オッホン! さて、ではまず初めに、俺が学園を卒業してから冒険者になるまでを話そうかな」
「おぉ〜」
セザールは期待大! と言った感じで目を輝かせながら、俺の話の続きを待っている。本当に可愛いやつめ。
「まず俺は学園を卒業すると、冒険者組合という場所に冒険者になるための手続きってのをしに行ったんだ」
「うんうん!」
「それから、たくさん魔物と戦って、強くなって、お兄ちゃん少し偉くなったんだよ?」
俺がそう言うと、セザールはいまいちピンと来てないのか、首を傾げた。
「えらい?」
「あぁそうさ。冒険者は強くなってたくさんお仕事をこなすと、"階級"って言うのが上がって行くんだ。そしてそれが上がるにつれて、お兄ちゃんに丁寧な態度をとる人が増えるんだ。それが偉くなるってことだよ」
「へぇ〜……」
やっぱり5歳児には難しすぎる話だったかな? 階級のイメージを大人に伝えるなら、貴族のようなって例えを使えば1発なんだろうけど、幼児にそれを言っても通用するわけないしな〜。
と、そんなことを考えていると、セザールが話しかけてきた。
「ていうことは、兄さまはすごい人ってこと?」
おぉ、大雑把すぎではあるけど、今の話をある程度は理解できていたみたいだ。凄いな俺の弟は。
でもまぁ、今の話も少し盛ってるけどな。偉いっつっても、まだ蒼星級だし……。白星級や黒星級になればもう少し威張っててもおかしくないんだけど、まだ蒼星級はそこまで偉くないからな。
ただ階級が上がって、冒険者としての発言力が上がったんだよってのをうまく伝えるには今の言い方しかなかった。
「そうそう! そういうこと! でもあんまり外では今言ったことを言いふらしちゃダメだよ?」
「なんで? 兄さまは凄い人なんでしょ?」
「そうだね。確かにそうだけど、理由はお兄ちゃんよりも、凄い人はたくさんいるからなんだ。自分が凄くなっても、また凄い人がいる。だから偉くなっても、偉そうにしちゃダメなんだ」
「へぇ〜」
まだ難しそうだったが、少しは理解してくれたのだろう。基本的に俺が嫌だと言うことや、するなと言ったことはしない子だ。
なので、ここは彼を信じてこれ以上難しい話をするのはやめることとする。それよりも今は彼の望んでいる、楽しい冒険譚とやらの話をしていこうと思う。
そうして、二人でワイワイお喋りしていると、あっという間に寝る時間となり、今日はお開きとなった。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ寝ないとな」
「うーん、じゃあ僕、兄さまとねる!」
「お? そうか? じゃあこっちにおいで」
「うん!」
俺がベッドにおいでと言うと、テコテコ歩きながら布団の中に入ってきた。
「それじゃあ、セザール。お休みなさい」
「兄さま、おやすみなさい」
俺たち二人は互いにおやすみを言うと、あっという間に眠りについたのだった。




