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帰郷 その5

 さてさて、毎度帰郷する際によく利用する街で、俺は変な男につけ回されたわけだが、全くもって意図が理解できん。俺は別につけ回されるほどの人間じゃない。


 国家の根幹を担う貴族! とか、100年に1人の天才研究者! とか、そう言う類の者ではないので、こう言う状況に陥る意味が分からない。


 強いて言うならば"学園生活で色々と目立ちすぎた"、とかだろうが、それだって別に騒ぐほどのことじゃない。毎年必ず1人はすごい人材というのは現れるだろうし、何なら俺なんかよりも目立つ生徒もいるだろう。


 そう考えるとなおさら理解不能だ。そんなことを考えながら、相手を注意深く観察していると、


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。別に私は裏の人間で、あなたを殺すために現れた! というわけでもありませんので」

「それを素直に信じるほど、俺は間抜けに見えるのかな?」


 俺は威嚇の意味も込めて、軽く凄んでみた。すると相手はウッ!? と少しだけ気圧されていたが、直ぐに持ち直してこちらをまっすぐ見返して来た。


「へぇ〜。お兄さん、根っからの戦闘職って訳でもなさそうなのに、あんまり怯まないんだな。意外だよ」

「こう見えて、それなりの修羅場を潜り抜けて来た自信はありますからね」

「なるほどな〜。つまりはさっき言ってた裏の人間じゃないってのは嘘ってことね」

「……ッ!?」


 俺の言葉に明らかに動揺して黙り込む男。俺はその間も油断せずに男から視線を外さない。


(バカなッ!? この私が誘導尋問された!?)


 男はこの状況からの言い逃れを一生懸命考えているのだろう。俺に対して、明らかに警戒な色を強くした。


「フッ。まぁ、バレてしまったものは隠しても仕方がないでしょう。そうです。私は裏の社会の人間。表で活躍する人々が安易に実行できないような仕事を受け持つのが私の役目。しかしご安心頂きたい。今回は本当に、貴方に危害を加えるつもりはありませんから」


 俺はその言葉を聞き、男の真意を探る。しかし、どんなに考えても嘘をつく理由が見当たらない。裏の人間で、ある程度戦闘もこなすとなると、相手の実力は分かるだろう。その上俺のことも知ってるふうな感じだ。そして彼は裏の人間だから騒ぎを起こすのは最も避けたいはず……。となると、ここで俺を刺激しても百害あって一利無しだ。


「ふんッ。まぁ良い。俺も用事があるんでね。それに宿もさっさととっておきたい。だから今回は見逃しておく。だが、もしまた俺の背後でコソコソ動き回るような真似をしたら、どうなるか分かってるよな?」

「えぇ、私もこんな仕事をしてはいますが、できるならば長生きしたい」

「よし、なら話は終わりだ。今すぐ消えろ」


 俺がそう言うと、男はサッと一礼した後、直ぐに踵を返して大通りへと消えていった。


「一体何がしたかったんだか……」


 全くもって相手の意図が分からなかった。まぁ最終的には何もなかったから良かったのだが……。しかしそれでも、まだまだ警戒は必要だろう。ああいう輩に自分が目を付けられていると分かったんだ。気を抜くことはできない。

 しかしだからこそとも言えるが、明日からはより周囲への警戒を強めながら実家までの道のりを進むこととなるだろう。なので、今日は少しでも早く体を休め、明日何が起こってもしっかりと対応できるように万全の体勢にしておくべきだ。


 

 そうと決まれば、まずやることは一つ。



「さてと。宿は確か、もうすぐそこだったよな」


 俺は独り言でそう呟くと、早速宿に向かって歩き出した。




 翌日。


「くぁ〜っ。よく寝た〜」


 昨日はよく分からん変な奴に絡まれたけど、今日は何事も起きなければいいな〜。俺はそう願いながら、宿を出る支度を済ませていく。


「よしっと。準備完了。あとは朝食を摂って、宿を出る手続きをするだけだな」


 俺はそう呟くと、早速食堂に向かった。そこで朝に食べるにはかなり贅沢な朝食を摂って、すぐにカウンターに向かった。


「お姉さん、コレお願いします」

「おはようございます。承知致しました。すぐに手続きをしますので、しばらくお待ちください」

「はい」


 その後、数分で手続きが終わり、料金などを支払った俺はすぐに宿をてた。


「よっしゃ! んじゃ、行きますか!」


 俺は誰にというわけでもなく、そう宣言すると、街の門の方に向かった。


「は〜い、良いですよ〜。お気をつけて!」

「どうも〜」


 すごく穏やかな喋り方をする門番に礼を述べると、俺はすぐに実家がある街の方面に歩き出した。





 歩き始めて約半日。


 その間、やはり穏やかに旅を楽しめるわけもなく、盗賊などのチンピラに襲われたり、こちらと向こうの戦闘能力の差も理解できないような低級魔物に襲われたりと、面倒が山積みだった。


「でもまぁ、盗賊共はともかく、魔物は低級でも素材として資金源になるから良いよな」


 

 そんな独り言を呟きながら、更に歩き続けること数時間、漸く目的地に到着である。

 いや本当に長かった……。


 相変わらず、のどかで平和な街だ。だけど、塀の造りはしっかりしているし、門も立派だ。ほんと、不思議な故郷だ。


 俺が久々の故郷の様子を満喫しながら歩いていると、気が付けば門の近くまで来ていた。そしてここまでくれば、当たり前だが門番も俺の姿に気がつく。

 そして、


「おぉ!! セドリック! 久しぶりじゃないか! 帰ってきたんだな!」

「おぉ、セドか。本当に久しぶりだな。元気にしてたか?」

「うん。おじさんたちも元気にしてた?」

「おうよ! 体力有り余ってるぜ!」

「この通り。年々衰えは感じるが、まだまだ動けるさ」

「そっか。またお互い元気な状態で再会できてよかったよ」

「そりゃこっちのセリフだぞ? 冒険者になったんだって?」

「また随分と大変な職業に就いたもんだ。とにかく、帰ってきてくれて嬉しいよ」


 俺はその後も少しだけおじさんたちと会話をした後、手続きをしてもらい、街に入った。

 街のあちこちで、俺との再会を喜んでくれる住人に出会う。やっぱりこの感じ好きだな〜と感傷に浸りながら歩いていると、俺の実家のエリアにたどり着いた。


 まさにその時だった。



 ドサッ


 

 と何かが落ちる音がしたので、そちらの方を向くとそこには懐かしい人物がいた。


「セド……あ、貴方なの?」

「君の知り合いで、他にこんな男前いるかい?」


 俺は挨拶代わりにそんな冗談を言ってみた。するとアニエスは一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間綺麗な笑顔を浮かべながらこう述べた。


「ずっと連絡もしないで、顔も出さないで、散々心配をかけておいて、本気でそんなことを言ってるんだったら、流石に怒るわよ?」


 あ、これマジなやつだ……。本気で怒った場合のアニエスはなかなか許してくれない。なのでこれ以上ふざけるのはやめよう。


「そ、そうだな。ごめん。これからは手紙とか書くようにする」

「絶対だからね? 当然アランにもよ?」

「ああ、アランにもな。絶対だ。約束する」

「そ。じゃあ改めて、お帰りなさい」


 アニエスは言いたいことは言ったとでも言うように、今度はすっきりとした笑顔で、俺にそう言った。

 その綺麗な花のような笑顔に俺はドキッとしてしまった。


 あぁ、やっぱ好きだなぁ……この笑顔最高


 俺はどうやら完全にアニエスに惚れてしまっているようだ。だけど今回みたいにアランも含め、大事な人への連絡や気遣いを蔑ろにしてたら、どう頑張ったって振り向いてもらえないだろう。


 だからこそ今後はお互い離れていても、しっかりとコミュニケーションをとって、互いの無事と健康を伝え合っていかないといけないなと強く思った。


 そうしてしっかりと一人反省会をしたところで、俺は彼女に返事をする。


「ああ、ただいま」



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