誤解と死への招待
ぶっそうなサブタイトルですが、内容は平和ですよ。
俺のお隣に美少女が来訪してから、なんやかんやと命懸けの戦いが続く中、一応の妥協案を自身に見出したというのに、新たな戦いの火種は、朝のHR前のまったりとした時間に八郎が唐突に告げた何気無い一言から始まりを告げた。
「今度の休みに、遊園地に行かないか?」
「断る」
八郎の提案を、俺は一蹴して跳ね除けた。
「何でだよ!?しかも即答とか、もっと考えてから結論だせよ」
「考えるまでも無いだろ。何が悲しくて休みの日に高校生の野郎二人で、遊園地なんて行かなくちゃならないんだ」
遊園地が嫌いという訳では無いが、この提案はあまりにも悲しすぎる。
ナンパ目的で野郎二人で行くという可能性が無い訳では無いだろうが、俺も八郎も皆が楽しく遊ぶ遊園地という行楽地でそんな行為に及ぶ度胸は無いと断言出来るし、これがただ純粋に遊びに行くだけが目的だったとしても、クラスメイトに万が一にでも現場を目撃されたら、あらぬ噂が蔓延しないとも限らない。
流石にそれは、勘弁して貰いたいと切実に思う。
「……どうやら大きな勘違いをしてるようだが、別に俺は英太だけを誘ってる訳じゃないから安心しろ」
「そうなのか?」
「お前は俺を何だと思って……ああ、まあ、良いや。続きを話すぞ。実はクラスで有志を集めて親睦会をすることになってな。どうせなら皆で楽しめる所にしようってことで、隣町の遊園地に皆で遊びに行くことになったんだよ」
「それならそうと最初に言えよな」
妙な勘違いをして、これからの八郎との接し方を考えるところだったぞ俺は……。
「英太が説明する前に、即答で断ったんだろうが!?それで、行くのか?行かないのか?」
八郎はどっちにするのか早く決めろと、太い眉毛を眉間に寄せながら俺に催促してくる。
別に今度の休みに予定がある訳では無いので、断る理由は特に無いのだが、不特定多数な上に更に人が多い場所というのは、俺にとって危険が付き纏う可能性が出て来るのだ。
もしも行った先に通りすがりの美少女でも居ようものなら、楽しい筈の遊園地のアトラクションは一瞬にして、そのどれもが死と隣り合わせのデンジャラスキラーマシンへと早変わりする。
しかもアトラクションでマシン等に乗る前から、既に厳しい戦いは始まっているのだ。
順番を待つ為に発生する客達の列。
もしこの列の前後に美少女が来た時、場合によっては完全に逃げ道を封じられる危険性があるのだ。
まあ、美少女との遭遇確率は近場に住んででも居ない限り、早々無いので其処まで警戒する必要も無いのだが、最近は何かと頻繁に遭遇しているので、細心の注意をしておくのに越したことはないだろう。
「いや、俺は今回……」
今回は参加しないでおく。
俺が八郎にそう断りの返事を改めてしようとしたその時だ。
「今度のお休みに遊園地か~楽しみだよね。勿論、高須君も行くんだよね?」
「……はい」
隣りの席から、唐突に話し掛けてきた音無さんの言葉に反論することが出来ず、頭で考えるよりも先に、俺の防衛本能が勝手に口を滑らせる。
「それじゃあ、英太も参加で決定だな。細かいスケジュールは明日までに決めてから教えてやるから期待してろよ」
「ちょっとま……」
他にも聞きに行かなくちゃならない奴らがいるからと、この場を去ろうとする八郎を呼び止めようと試みるが。
「楽しみだね遊園地」
「……そうですね」
しかし俺が呼び止めるよりも先に、またしても音無さんが話し掛けてきた為に、俺の返事は自動的に肯定の言葉へと変換されてしまう。
ある程度の覚悟を持ってから対話する分にはまだ良いのだが、不意打ちは駄目だ。
俺にとって、意識の外から美少女が、前触れも無しに話し掛けてくるということは、ナイフを首筋に宛がわれて、脅迫されているようなものである。
そんな状態で、冷静な判断が出来る訳が無い。
「私ね。ジェットコースターが大好きなんだよ。遊園地に行ったら一緒に乗ろうね高須君」
「了解です!」
「それとメリーゴーランドも乗りたいな」
「御意!」
「後はちょっと怖いけど、お化け屋敷も入りたいかも」
「イエッサー!」
「他にも色々と乗りたいけど、最後はやっぱり観覧車が鉄板だよね」
「そうですね!」
俺は一度冷静になることも出来ないまま、音無さんから出される遊園地トークという名の、要求に反対することが出来ず、口が勝手に返事をしていく。
最後辺りの方では、もう恐怖で薄っすらと涙が込み上げていた。
俺は後で八郎にやっぱり行けなくなったから、と言ってキャンセルしようと心の内に決意を固め、音無さんから解放された放課後、八郎にその旨を伝えるべく声を掛ける。
「なあ、八郎」
「ん?どうしたんだよ英太?」
「あのさ、朝言ってた遊園地の件なんだけどさ……」
キャンセルしたいんだと言おうとした俺に対して、八郎は軽く右肩を叩きながら彫りの深いその表情で、笑顔を形作った。
「言わなくてもお前の気持ちは、ちゃんと分かってるって。音無ちゃんと二人で回れる時間を必ずセッティングしてやるから任せておけって!」
「いや、何を勘違いしてんだよお前は!?」
果てしない勘違いをしでかしている友人の誤解を解こうと試みようとする俺に対して、今度は後ろから誰かが空いている俺の左肩を軽く叩いてきたので、何事かと思い、振り返ると其処には慈愛の微笑みを浮かべた、我らクラスの委員長、吉田さんが居た。
「恥ずかしがらなくても良いのよ高須君」
別に俺は恥ずかしがってないですよ吉田さん!?
「そもそも今回の親睦会はお前と音無ちゃんの仲を更に進展させる為に、クラス総出で企画したんだ。だから大船に乗ったつもりで安心して良いんだぞ!」
「クラスメイトとして、高須君と鈴奈を私達は全力で応援してるからね!」
眩しい笑顔で言い放つ二人を前に、俺は軽い頭痛を覚えた。
駄目だこいつ等……早く何とかしないと、本気で俺の命に関わる。
その後、俺の二時間に及ぶ必死の説得が実を結び、何とか誤解だけは解けたのだが、流石にクラスメイト全体を巻き込んでしまった為、今更俺が行かないということは許されず、強制的に親睦会への参加が決定してしまった。
まさか掲載してからアクセス数がこんなにも伸びるなんて……




