表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#バズかいま ~ 知らない間に使い魔がバズってました!? ~  作者: 廿楽 亜久
京都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/47

47話 狐の小窓(後編)

 先程、写真と一緒に送ったグループメッセージについた既読に、目森も、ため息をつきながら空を見上げる。

 これだけ青空が広がっているのに、雨粒が音を立てているとは、撮影でも行われているのではないかと、勘違いするような光景だ。


「狐の嫁入りだっけぇ……? 狐……ふふ、狐……」


 数時間前の肉球の感触を思い出しては、思い出し笑いを溢してしまうが、ふと思い出したそれ。


 雨に濡れながら、携帯で検索をすれば、すぐに出てくる画像と呪文。


「あったあった。えーっと……いたたたた……指つるって……」


 なんとも指の構造が分かりにくいが、どうにか手を絡めながらも、画像通りの形を作る。


 「けしやうのものか ましやうのものか 正体をあらはせ」


 同じ文言を三度。

 唱えて、指と指の間の隙間から、向こう側を覗き込む。


 ”狐の窓”と呼ばれる、オカルト界隈では、広く知られた妖怪を見るための呪文。


「って、まぁ、こんなことしなくても、白亜さんたちは見えてたわけだけど……」


 つい数ヶ月前まで、妖怪など信じていなかった自分が言うのも不思議な話だが、これで妖怪や幽霊が見えたら、今の時代もっと話題になるだろう。

 それこそ、ネットには、目森の比ではないくらいの好奇心と、承認欲求に塗れた人は多い。


 周囲を見渡しても、案の定、光景が変わることもなく、目森もわかっていたとばかりに手から顔を離した。


「――ん?」


 その瞬間だ。

 指の隙間から見えた何かの影に、目森も不思議そうにもう一度視線を落とす。


 指の隙間の下の方。

 違和感があった。


 なんだろうかと、手を下に向けた時だ。

 窓の向こうに、複眼のような大量の視線と目が合った。


「ひっ――」


 悲鳴を上げて、手を離そうにも、指の小さな隙間から伸びてきた異形の指は、目森の手を固定するように掴む。


「ミタナ? ミタナァ? ニンゲン」


 目玉がこちらに来ようと、無理矢理、指の隙間に目を押し付けてきては、異形の指に掴まれたままの手に痛みが走る。


 必死に背を反らしても、自分の手から姿を現そうとしている怪異は、より近づいてきて、その異形の細すぎる指が、目森の目に伸びてくる。

 その時――


「ギギャッ――」


 怪異の悲鳴らしい声と水音と共に、カランと軽やかな下駄の音が響いた。


 太陽を映したような煌めく黄金色の髪。

 風に揺れる稲穂のような美しい尻尾。

 赤く開かれた和傘に隠れているのは、ピンと張った耳。


「――――」


 息をすることすら忘れてしまうような、美しさだった。


「元気のええ童さんだこと。相合傘に、憧れてはったん?」


 コロコロと鈴の音を転がすような笑い声と共に、彼女は小さく首を傾げた。


「そら、悪いことしたわ。ごめんなぁ」


 柔らかな言葉と共に、彼女の向こう側から気味の悪い音が響いた気がしたが、尻餅をついていた目森が知ることはなかった。


 ただ、こちらを振り返った彼女が、後ろ姿からの想像と違わぬ美貌と微笑みを携えていたもので、喉の奥が震え、悲鳴のような声が漏れてしまった。


「あらやだ……そないに怖かった? ごめんなぁ。怖がらせる気はちぃ~っとも無かったんやで?」


 彼女は、その美しい微笑みを携えたまま、目森の前に屈んでは、その細い指を目森の頬に滑らせる。


「あ、わわ……わわわ……」


 人の指とは思えないような、滑らかな絹のような食感。


「あらあら、ふふふ……赤くなって、か~ぁわい……ええもんやろ? 現実の私も」


 最早、まともな言語を口にしていない目森に、彼女はなお、楽し気に微笑みを浮かべていた。

 そして、その目森を見下ろす目が、少し細まった時だ。


 聞こえてきた足音に、少しだけつまらなさそうに、耳を向けた。


「……手遅れやったか」

「それ、どないな意味やろ? 姉やんに教えてほしいなぁ」


 白亜が露骨にため息をつけば、そこにいた彼女、来夢(ライム)の目は、途端に冷たいものに変わる。


「そのままや。そのまま。ホンマ、大婆様やないんやから、手当たり次第に食うなや」

「姉やんに対して、そないなこと言って……|まだ収録終わっとらんのに、度胸あるやん《男の子やねぇ》」


 それはもう、見る人を魅了する美しい微笑みだというのに、白亜は、まるでゲテモノでも食べたかのように舌を出しては、顔を逸らしていた。


「てか、大婆様と比べんといて。この子は別に食わへんし」


 不満気に胸を張る来夢は、自分に見惚れている目森のカバンに、視線を送る。

 そこには、大量のイラストの描かれた缶バッチ。


「かわいい女の子は、愛でてこそやん?」


 するりと、目森を抱きしめ、頭を撫でる来夢に、目森も顔を赤くするばかり。

 来夢も、目森の反応を楽しむように、尻尾を揺らしていたが、ふと耳をはためかせると、つまらなさそうに振り返った。


「あかんわぁ……残念やけど、呼ばれてしもうたから行くな? 白亜、ちゃんとこの子届けたら戻ってくるんやで?」

「誰が戻るか。アホ」

「それで困るのは、この子らやない?」

「……」


 渋い表情で、耳を垂れさせる白亜に、来夢は小さく微笑むと、今度こそ何かに呼ばれるように姿を消した。


 来夢が消えてから、目森はしばらく呆然としていたが、わなわなと震えながら、自分の両手に視線を下すと、すごい勢いで白亜に振り返った。


「すごいいい匂いした!! おふと――お日様みたいな匂い!!」

「ダニの死骸の匂い?」

「もっと香ばしい華やかな匂い……!! 語彙力がないのが悔やまれる……!!」

「ダニが太陽に焼かれた匂いな。とりあえず、瑞希たちには連絡したから、戻るで」


 まだ興奮した様子の目森だが、白亜から差し出された手を取ると、まだ降り続く雨の中、瑞希たちの待つ店へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ