32話 人の子ワクワク、狐げんなり(前編)
「――京都ぉ? なんや、ごっつ遠いところに行くんやね」
期末試験も近づく中、以前話題に上がった、試験頑張ったご褒美に、夏休みに出かけるという提案。
『京都』というのは、目森からの提案で、さすがに瑞希も真桐も予想外だった。
『修学旅行で行ったよ……? 確かにね……! しかし! あの時は、占いと食べ歩きスイーツにしか興味なかった……!!』
『ぶっちゃけ、神社仏閣巡りに興味は一切なかった』
そう悔しそうに、拳を震わせていた。
そして、改めて今、京都を巡り直したいと。
「ちなみに、この辺が行きたい場所だって」
LIMEに送られてきたファイルの一覧表を見せれば、白亜も呆れたように耳を垂れさせる。
「試験前やろ……勉強せぇや……」
「それはそう」
「ご褒美のこと調べて、赤点取ったら、元も子もないやろ」
本当にその通りである。
事実、補習になってしまったら、目森が泊まりの旅行に行くほどの暇がなくなるらしい。
「超がんばるって」
「僕には、こっちに超がんばっとるようにしか見えん」
既に、事細かに書かれている場所。
いくつか、ネットで流行っているカフェなどもあるが、寺院に関しては、明らかな共通点があった。
「……ホンマ、ケモナーやな」
「ケモナー?」
「どこも、使い魔がおる有名なとこ」
「あぁ……そうかも」
使い魔がいるかどうかは、意識的に探せば、わりと見つけられる。
それこそ、人の口に戸は立てられないというもので、使い魔の存在を知っていれば、大きな神社ほど、その存在は有名になってしまう。
「それで、学割とか、直前割りとかで、わりと安く行けるらしいんだけど……泊まりだから、さすがに、家の人に確認しようって話になって」
「別にええんやない? とりあえず、補習にならなかったらな」
「そこだよねぇ……」
「細かいことは、無事行くことになったらにしよや」
「はぁい……」
白亜も画面から顔を上げて、少しだけ何かを考えるように、尻尾を揺らしていた。
その様子に、瑞希も不思議そうに首を傾げるが、コトリと置かれた、ジュースに目をやる。
「ちょっといいやつ……!」
「お中元です」
吽野が届いた箱を指させば、瑞希も目を輝かせて、その缶を開けた。
「それで、その話、波奈ちゃんも行くの?」
「ん? うん。そうだよ?」
「ふぅん……それなら――」
その翌日の事。
真桐は、登校中に会った目森と、その旅行の話をしていた。
「行くのは良いけど、ひとりは大人がついていくことだって」
京都旅行に行くことは、許してもらえたが、高校生だけで行くのは、許可できないということだった。
とはいえ、真桐の両親も、急な話で、仕事の休みも取れず、目森も困ったように、携帯の家族カレンダーを開いていた。
「え!? マジか……パパか、ママ、来れるかな……」
「うちも、お姉ちゃんがお盆なら、帰ってこれると思うんだけど……」
学生と違って、大人が急に数日間休みを取るのは、難しい。
ふたりが、頭を悩ませている中、やってきた瑞希にもその話をすれば、なにか納得したような、何とも言えない表情を浮かべる瑞希。
「何かあったの?」
「ううん。吽野が、京都なら、絶対、白亜がついていくから、そういう話が出たら、それでいいか聞きなって言われたからさ」
というより、真桐の両親から、『大人が同伴する』という条件を出されるのが分かっていたのだろう。
真桐の両親を含めた家族とは、それこそ長い付き合いだ。
「白亜さんがついてくるなら、たぶんうちの親は納得するかな……」
「白亜さん来るの!? マジで!? いいの!?」
「うん。本人は、無事に試験終わってからって言ってたけど……たぶん」
白亜は、ついていくと、はっきり言っていなかったが、吽野は「絶対に行く」と口にしていた。
理由こそ言っていなかったが、瑞希もなんとなく、関係のありそうなものに、察しがついていた。
それは、目森から渡されたリストに載っている、ひとつ神社の名前。
「白亜、伏見稲荷の使い魔だから」
”伏見稲荷大社”
白亜の出身で、本来の所属の神社だ。
「マッジッッで!?」
「あ、やっぱりそうなんだ」
狐耳に、京都訛りの言葉を使う使い魔。
それに、黒天が時々煽る時に、鎹杜神社とは別のところから来たばかりのような言い方をするので、別の神社の使い魔であるかもしれないとは、真桐も想像していた。
「うん。まぁ、私も小さい時からいるから、なんでこっちにいるかとかは知らないんだけど……」
全国に普及してる神社のため、分社の管理のために、使い魔たちが全国に派遣されているらしいが、白亜がそういった管理をしているのを見たことはない。
白亜も、そういった分社は管理していないと言っていたし、不思議ではあった。
「あの規模だし、分社の管理もひとりでするの大変だろうから、手伝ってるのかもしれないけど」
白亜は、自分にちょっかいをかけてくる以外、あまり瑞希の前で仕事をしている様子を見せたがらない。
裏では、意外に仕事をしているのかもしれない。
「たまには、里帰りもしたいんじゃないかな……」
今のところ、白亜が里帰りをしたところは見たことがない。
両親の出張についていくのはどうかと、提案したこともあるが、笑顔で断られた。
考えてみたら、これがちょうどいい里帰りの機会なのかもしれない。
この際、目森たちと一緒に行けなくても、白亜の里帰りに付き合うのも、考えてもいいかもしれない。
「待った待った! そんな羨ましい体験、瑞希だけズルくない!? アタシも一緒に行きたいんだがァ!?」
「もちろん、みんなで行きたいよ……?」
「だッッよねッ!? 俄然やる気出てきたッ……!! 赤点回避すればいいんでしょ!?」
数日前に、問題集を開いた瞬間に閉じた人の言うセリフとは思えないが、やる気が出たならいいことだ。
「別に平均点取れって言われてるわけじゃないもん。赤点だもん。正解しなくても、途中点だけでも、なんとかなるのでは!?」
「ものすごく情けないこと言ってない……?」
やる気に溢れながらも、何とも現実的な、情けないことを言っている目森に、真桐も呆れたように、ため息を吐き出すのだった。




