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転移

忙しいのに、書いてしまった…


忙しいのに…


ゴブリンの手から放たれた拳大の石は、不恰好な投げ方からは想像できないほど速く、また確実に麗に当たる軌跡を描いていた。


「クソッ」


気を抜いた自分と不用意な麗に苛立ちを覚えるも、反省している暇はない。


「【操朧】」


限界量まで朧を右手の平に生成、手を覆う様に固定し、麗の手首を左手で掴んで引っ張っぱり、入れ替わるように立ち位置をずらす。


迫る投石に、朧で覆った右手を向けて角度をつけ、その速度に合わせて受け止めるように肘を曲げる。

石が手に当たる瞬間、創也は手の平をさらに外側に向けて、迎え撃つのではなく受け流す様に石を逸らした。


鈍い音を上げて創也の手に当たった石はその軌道を変え、背後の壁に衝突した。


すかさず麗の隣にいた前衛の兵士が駆け出し、投擲後のゴブリンの首を一撃で刎ねる。


「あ、ありがとう」


安心からか驚きからか、似合わない呆けた表情で麗は謝礼の言葉を述べた。


その顔は普段の凛とした佇まいからはかけ離れたもので、涼川麗が強者である以前に1人の人間だということを示している。


創也は涼川の意外な一面に好感を抱くも、同時に少しの落胆を感じていた。

創也は涼川麗に期待し過ぎていた。

カリスマ、戦闘技術、落ち着きのある物腰、どれを取っても完璧な麗はこの異常な世界でも、皆を牽引していくのだろうと考えていた。


麗でさえ1人の人だというのに、その弱い一面を見て使えなさそうだ(・・・・・・・)と感じてしまった。


「ああ」


落胆を悟られないよう、顔を背けて粗雑に返事をする。

ゴブリンを断ち切った兵士が剣を振って血を払いながら創也達に近づいて来た。


「すまない、こちらの不手際だ」


兵士が麗に律儀に頭を下げた。


「いえ、自分の不注意が招いたことです」


麗は勤めて平静に返すが、その視線は伏せられ、手は小さく震えている。

その震えが恐怖か、それとも悔しさか創也には分からなかったが、いずれにせよ麗の心は折れていないように見えた。


朧を右手から解除しようとした創也は鈍痛に見舞われ、思わず顔を顰める。

上手く受け流したと思っていたが、創也の耐久値では無傷とはいかなかったようだ。


「捻挫したようです」


創也が前衛の兵士にそう申告すると、その兵士は軽く溜め息を付き、後衛にいる戦闘に参加しなかったもう1人の兵士に目配せした。


「そいつは連れて帰って治療しろ、自分はあと2、3倒してから帰る」


後衛の兵士は頷き、創也を元来た道へと促す。


「ま、まだ進むんですか?」


《槍術師》の女子——創也と中衛を組んでいた生徒が自信なさげに声を上げる。

恐らく、先程の戦闘で恐怖を感じたのだろう。

ゴブリンからは血も臓物も出ていたし、絶対に安心、と言い切れる内容でも無かった。


危険を覚悟していたとはいえ、不安を感じても仕方がない。


「大丈夫だ、効率は悪いが次は俺1人で倒す」


自分の能力に自信があるのか、落ち着き払って兵士は答えた。

傲慢にも見えるが、今となってはそれも少し頼もしい。兵士だけが戦うのであれば生徒の危険性は大きく減るだろう。


経験値は、戦闘に参加するだけでなくその内容で量が変化するようだ——創也は兵士の話を聞きながら考える。

経験(・・)値なので、言葉通りといえばそうだが、この情報は創也のレベルが未だに上がらないことを解決するかもしれない。


創也が自分のレベリングの打開策を練っていると、後衛の兵士が創也に視線を送ってきた。


「行きましょう」


創也は頷き、まだ不安そうな生徒達を尻目に、軽く会釈してその場を離れた。





▼ ▼





創也と兵士は元来た道を戻り、迷宮に転移した場所へと戻って来た。


地面に掘られた紋章の上には1人、貼り付けたような笑顔の聖女セイラが佇んでいる。

輝く金髪と純白の修道服は、岩石と土の匂いの洞窟にはあまりにも不釣り合いでコラージュのように別次元のものではないかと疑わせる。


セイラの微笑みは創也の不安を煽り、そして増大させていた。


「どうしました?」


創也の顔色を伺うように覗き込み、身体を傾けるセイラ。

髪がはらり舞い、創也その美貌に飲み込まれるかの錯覚を覚えた。


「少し怪我を——


セイラから視線を反らし、手首を見るように目を伏せる創也。


「そうですか、思っていたより(・・・・・・・)軽いですね」


微笑みながら、創也の言葉に被せるようにセイラは言った。

口調は優しく、笑顔は美しく、しかしその内容は理解のし難いものだった。


「え?」


創也の口から疑問が音となって溢れ落ちる。

まるで、怪我をすることを想定していたかのようなセイラに創也は懐疑の目を向けた。


「貴方は、どうもいけませんね」


創也を見つめ返すセイラの目は爛々と光り、創也の全てを見通すかのようだった。

セイラの口が再度開かれる。


「斉藤賢、ですか」


次の瞬間、創也は反射的にその場を飛び退こうとした。なぜ、セイラがその名を口にするのかも、なぜ自分が危機を感じているのかもわからない。

しかし、創也は直感に従った。

セイラの言葉がカマをかけた訳でも、適当でもないことをセイラの立ち振る舞いが示していた。


油断し過ぎていた——創也は考える。

今ここにいるのは創也と兵士、セイラの3人。

兵士がセイラの味方であるのは間違いないので、まずは人数を増やすことが優先だ。


「——でさ、——な—」


ふと、洞窟の奥から声が聞こえる。

きっとどこか他の班が討伐から戻って来たのだろう。

創也をじっと見つめていたセイラは顔を上げ、道の先の暗闇を見据えた。


「運がいいですね」


睨む創也に対して余裕の表情を崩さずセイラは言う。

生徒達さえ到着すれば、そう簡単に創也に手を出すことはないだろう。

何せ創也と賢以外の生徒はセイラに協力的なのだ。

その信頼を、たかが創也を始末するためにどぶに捨てるようなことをするはずがない。

創也は道の先から来るであろう生徒を心の中で急かすが、現実はそう甘くない。


「【施錠ロック】」


セイラが言を紡いだかと思った瞬間、創也の身体はまるで固定されたかのように止まり、微動だにしなくなった。


「なっ」


驚愕した創也は、辛うじて視線だけセイラに向むける。


華麗な、それでいて荘厳な彼女の顔はその内面を映し出すように醜悪に歪んでいた。

手に持った杖を創也に掲げ、伏せるように目を閉じたセイラは、透き通る声で唱えた。


「【転移テレポート】」


創也の動かなかった身体が浮遊感に包まれ、視界は赤く(・・)塗りつぶされていく。


視界の端にはセイラと、無表情な兵士。

薄れゆく洞窟の壁は、創也がその空間から断絶されることを表していた。

血のような赤色は、創也の戸惑いをより増幅させる。

 


意味がわからない。

         

           転移?


なぜ?

        どこで間違えた?



俺が何をした?





創也は錯乱する思考と、浮きあがる黒い感情を押さえつけながら遠のく意識を保とうとし——




赤い残光と聖女、そして無表情な兵士のみがその場に残された。





▼ ▼





「あれ、セイラさん。ここに誰かいませんでしたか?」


洞窟の奥から顔を出したのは龍次とその班員達。


「いえ、私とこの方の2人ですよ?」


手の平で兵士を指し、ふわりと微笑むセイラ。


「じゃあ、俺達の班が1番早かったようだな!」


周りの生徒と親しげに談笑しながら達成感と優越感に浸る龍次達は、この場所を迷宮だと感じさせない、ただの高校生に見えた。

彼らは今回の演習で、更にレベルが上がっている。

そのことを確認したセイラは労いの言葉をかけ、満足そうな表情をして、


「それでは、教会へ送りますね」


頷く龍次達の顔を確認したセイラは、詠唱を始めた。


「神よ、聖女セイラの名において【転移】」


龍次達生徒とお付きの兵士が白い光に飲まれ、教会へと転移した。


楽しんで頂けたら幸いです。


次話は7月中旬までには必ず!


面白いと思った方、ブクマ、高評価してくれると嬉しいです!

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