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世界樹と生きる  作者: 池田瑛
第2部 軌道エレベーター『コスモス・ツリー』
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72. 17歳 東郷一樹、宇宙軍中佐

「こ、ここは……」


「うわ、生き返った!」

 コールド・スリープから上半身を起こして男が言った。黒髪である。しかも日本語で喋った。

 数千年単位で寝たきりであったのに、すぐに上半身を起こせるのがすごい。寝たきりに半年なった、筋肉が衰えてリハビリをして筋力を取り戻さなければならないのに。コールド・スリープではどうやらそういったことは必要がないようだ。


「エステル、どうする?」

 アクシオスが困った顔をしている。黒髪の人間は、私たち二人をぼぉっと、見つめている。意識がまだしっかりと戻っていないのかもしれない。


「どうするって……」と私もどうしたら良いのか分からない。まさか、本当に目覚めるとは……。


 どうやら数千年あなたは眠っていたようです、と説明すればよいのだろか? というか、それ以外のことは私にも分からないし、聞かれても説明することができない。


「エルフと……ドワーフ? 状況はどうなっている?」


「わ、私たちにも分かりません」

「分かりません」


 私とアクシオスは答えた。男が喋ったのは日本語で、アクシオスたちや私たちが話している言葉とは違う。だけど、アクシオスにも意味が通じているようだ。それに、アクシオスは山小人(ドワーフ)という単語に反応しない。山小人(ドワーフ)は蔑称で、自分たちのことを『土と火の精霊に愛された民』と名乗っている。私がアクシオスに、山小人(ドワーフ)と言ったときはもの凄く怒ったのに、特にアクシオスは今回何も反論しなかった。


 黒髪の人間は、私たちにはあまり興味がないようだ。私は自己紹介をしたのだけど、完全に無視された。感じ悪っ!


 男の人はコールド・スリープから出てきて、『中央司令室』へと移動し、小型モニターを操作している。


 司令室の配置的に、司令官が座る場所に座っている。この人が司令官なのだろうか?


 どうやらモニターに映し出される記録を読んで状況の整理をしているようだ。

 

 私も知りたいので後ろから覗くように立っていたら、


「あっちへ行ってろ。これは最高機密に属する」と言われ、睨まれてしまった。


 本当に感じの悪い人だと思う。黒髪で日本語を喋っているし、日本人である可能性が高い。年齢は二十歳後半といったところだろうか。


 しばらくして、机をドンと叩く音がした。


「なんということだ。神聖大和民族は……負けたのか」


 私は、きっとこの人間はいまの世界の現状を知ったのだろう。この遺跡の文明水準から察するに、私の前の世界よりも技術も科学も進んでいたのだろう。私が来た時代よりも更に未来の人間。

 私は確信していた。


 ここは、地球だ。Τιγριςと戦って、世界樹から飛ばされてこの星を二周してしまったとき、どうして私は気付かなかったのだろう。

 多少の地形の変化はあったけれど、ユーラシア大陸があり、アフリカ大陸があり、南北アメリカ大陸があり、オーストラリア大陸があった。

 見慣れた大陸の形であったのだ。


 私は、異世界ではなく、遙か未来へと転生をしていたのだ。


「いや……俺がいる限り、まだ負けてはいない。そこのエルフとドワーフ。お前達は俺の指揮下へ入れ。俺は、東郷一樹。階級は、宇宙軍中佐だ」


 中佐。年齢的には二十代だけど、軍隊でも偉い人だったのだろう。だけど、私の知っている日本には、宇宙軍なんて無かった。それに、細かいことを言うと、私の時代には自衛隊という組織があったが、中佐なんていう階級はなかった。


 中佐という階級。陸自で言えば、2等陸佐。海自で言えば、2等海佐。空自で言えば、2等空佐に相当するだろうか。軍隊でも幹部の部類だ。

 

「畏まりました!」


 アクシオスが言った。アクシオスはふざけているのだろうか? 私たちがこの男、東郷一樹氏の命令を聞かなきゃいけない理由なんてない。


「では、さっそく行動開始だ。まずは、軌道エレベーター『コスモス・ツリー』まで行くぞ。ケイ素ナノマシーンによる自己修復能力を備えている。現存しているはずだ」

「軌道エレベーター『コスモス・ツリー』とはなんでしょうか? 東郷中佐」


 アクシオスが普通に日本語を喋っていることにとても違和感がある。それに、どうして普通にいまの状況を受け入れているのだろうか。


 アクシオスの様子がおかしい。目が据わっているというか、淀んでいる。まるで死んだ魚の目のようだ。


「外観上は、宇宙にまで届いている建造物だ。まずはエネルギーと物資の確保だ。この施設は予備電源で辛うじて動いている。長くはもたん」


 宇宙にまで届いている建造物。心当たりは一つしか無い。とっても嫌な予感がした。この人を世界樹に連れて行ってはいけない。


「Αξιος, Μή λέγων περὶ Δάφνη.」


 私は、私たちが普段使っている言葉で言った。アクシオスと私が使っている言葉。日本語とはかけ離れているから、東郷さんは分からない言語のはずだ。なんたって、転生した私も最初はまったく分からなかったから。


「何を話している! なんて言った!」


 やはり、東郷さんには分からなかった——「アクシオス、Δάφνηのことは話してはだめ。と言っていました」


 アクシオスが通訳をした。


 え? アクシオス? 本当にアクシオスの様子がおかしい。この遺跡で採掘したばかりの銃をアクシオスは私に向けている。


「そこのエルフ。どうしてそのダフェネーというやつのことを隠そうとした?」


「あなたに教えたくなかったから」


「殺せ」


 男の言葉とともに、アクシオスが持っていた銃が火を噴いた。そして、私の左胸に鋭い痛みが走った。


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