4:新キャプテンは雨の洗礼を受ける(2)
十分ほどして、貴美枝が再びやってきた。男子寮に斉藤がいないということだった。
「また?」
みちるはうんざりとした顔でジェイムスを見る。
「今回、ボクは何も知りませんよ」
「ボンドさんの言うとおりです。今回はテストではありません」
貴美枝の言葉に体育館内に緊張が走る。
「悪いけど、探してくれる?」
またしても捜索隊が結成された。しかし、台風の影響もあり、女子部員は寮で待機することとなった。
「斉藤キャプテン、もしかしたらぁ真木キャプテンの部屋にいるんじゃなぁい?」
「そんなわけないだろう」
「わからないわよぉ。斉藤キャプテンだって真木キャプテンが他の男子と仲良くしていたら焦るんじゃなぁい?」
「斉藤キャプテンはそんな男じゃないぜ!」
「みちるはぁ」
「青葉は」
抗弁していた梨花子と輝は、
「どう思う? 斉藤キャプテンのこと」
異口同音でみちるに聞いてくる。
「ありえないと思うけど、真木キャプテンにも斉藤キャプテンがいなくなったことは伝えておいた方がいいかもね」
みちるは嘆息して答えた。
清香は三条と出て行ったきり、体育館には戻っていない。あれからかなりの時間が経過にしているので、自室に戻っているとは思うのだが。
みちるたちは清香の部屋を訪れると、清香が顔を出す。
斉藤がいなくなったことを告げる。
「真木キャプテンは斉藤キャプテンがどこに行ったか知りませんか?」
「知らないわ。ごめんなさい。私、気分がすぐれないから休ませてもらっていいかしら?」
清香はそう答えると、静かにドアを閉めた。
清香の声音に動揺があった。やはり斉藤と別れて三条と付き合うことに少なからずも罪悪感があるのではないだろうか。
「あれ、外に誰かいるぞ?」
二階のロウカから窓の外を見ていた輝が声を上げる。その声につられて、梨花子も窓の外を覗く。
「男の人みたぁい。もしかしたらぁ斉藤キャプテンかもぉ」
「ホントに?」
みちるも覗くが、すでに人影はなかった。
「どこにいたの?」
「あそこ」
輝が女子寮の裏側にある森を指差す。
みちるたちはその森に向かった。
突風にあおられて木々たちがざわめいている。みちるたちも立っているのがやっとの状態だった。
「確かこの辺りだったわよねぇ」
梨花子が森の奥へ入っていくが、すぐに引き返してくる。
「いないわぁ。見間違いだったのかしらぁ」
「アタシだって見てんだ。あれは確かに人だった」
「じゃあ、やっぱりお化けかしらぁ」
瞳を輝かす梨花子に反して、輝の顔が青ざめる。
「変なこと言ってんじゃねぇよ!」
輝が梨花子の頭を小突く。
「ちょっとぉ。セットが乱れるじゃないのぉ」
「何言ってんだよ。この突風で乱れまくってるぜ!」
「はいはい。二人ともそこまで」
みちるは不毛な口論の仲裁に入る。
ポツ。
鼻の頭に何かが落ちてきて、みちるは天を仰いだ。
ポツ。
ポツっ。
それは雨だった。
「やだぁ。髪の毛が濡れちゃうぅ」
梨花子は両手で頭部を覆った。
「雨ぐらいでぎゃあぎゃあ言うな、緒方」
「だったら、輝は濡れていればいいじゃなぁい」
「やだ。雨に濡れて風邪ひいたら困るだろう。デリケートにできているからな、アタシの体は」
「デリケートぉ? 大丈夫だってぇ。輝なら絶対に風邪はひかないからぁ」
「それってどういう意味だよ?」
みちるは仲裁にも入る気になれず、二人を放っておいてさっさと女子寮へと歩いていく。
「あ、みちるたらぁずるいぃ!」
「待てよ、青葉!」
梨花子と輝が駆け寄ってくる。
雨足はどんどんひどくなり、斉藤の捜索は中断された。
みちるたちは眠れない夜を過ごした。
そして、翌朝。
台風は去り、体育館裏の森の中で斉藤の首吊り死体が発見された。




