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6:曇り空と晴れない心(3)



 天道が帰った後、体育館のモップ掛けをしていたみちるが家路についたのは夕方だった。

「あっ……」

 みちるは青葉家の玄関先に立っている、黒スーツ姿の男性に気付いて声を上げた。

「ジェイムス監督?」

 ジェイムスはみちるに気付くと、渋面から破顔へとその表情を変えていく。まるで捨てられた子犬が拾ってくれそうな人間を見つけた時のような喜ぶ顔にも見えた。

 みちるはジェイムスの笑顔にきゅんと胸が締めつけられた。天道といる時には感じたことのない感覚だった。

「もう監督ではないのですから、ジェイムスでいいですよ」

 合宿が終わると同時に荻野が復帰して、ジェイムスは臨時監督の任を解かれていた。

「どうして、うちに? もしかして、ストーカー?」

「違いますよ」

 ジェイムスは動揺することなく、冷静に否定する。期待外れな態度にガッカリするみちる。

「ボクも斎藤くんの葬儀に参列していたのですが、青葉さんとお話しするチャンスがなくて。そうしたら緒方さんと神宮寺さんが青葉さんのご自宅の住所を教えてくださって……」

「梨花子たちが?」

 みちるは葬儀中の梨花子たちの行動に全く気付いていなかった。というか、何をこそこそとやっていたのだろうか、あの二人は。しかも、みちるに黙ってジェイムスに住所を教えたりして、一体何を企んでいるのやら。

 天道に元気付けられたばかりのみちるだったが、またしても人間不信に陥りそうだった。

「それでずっと待っていたの?」

「はい、約束ですから」

「約束?」

 みちるは覚えていたが、ジェイムスを試したくなり、あえて忘れたフリをしてみる。

「青葉さんの納得がいくまで協力すると、約束しましたよ」

「………………」

 みちるはにっこりと微笑んで。

「しつこいようだけど、お金は払わないからね」

 念を押した。






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