6:曇り空と晴れない心(1)
二日後。斎藤貴俊の葬儀は斎場でしめやかに行われた。
曇った天候のせいか、蒸し暑さを感じた。
喪服を着た大人たちより、秀越高校の制服を着た生徒たちは大半を占めていた。
喪主である斎藤の父親は涙を堪えながらあいさつを述べている。斎藤は父親似だったのだろう。角張った顔の骨格がよく似ている。白髪も多くやせ細った姿は、みちるの父親よりずいぶんと年上のように見えた。母親の方はすっかり気落ちしている。あの日以来ずっと泣いているのだろう。その横にいるのは弟だろう。まだ中学生のようだが、号泣する母親を気丈に慰めている。
輝と梨花子もそんな姿を見てもらい泣きしている。
清香も参列していたが、声をかける気にはなれなかった。清香の横には三条がいたからである。三条は清香の肩を抱き寄せて、まるで自分の物であるかのようにアピールしていた。その後ろには竹ノ内が立っていた。竹ノ内は合宿が終わってからずっと何かに怯えているようだった。
みちるはこれからのバスケットボール部の行く末を案じた。
「子供が自分より先に死んでしまうことほど辛いことはないわ」
貴美枝がそう呟いたのが聞こえた。退院したばかりの荻野が寄り添っている。二人はおしどり夫婦で校内でも有名だった。しかし、子供はいない。もしこの二人の間に子供がいたならばバスケットボールの名プレイヤーになっていただろう。
みちるは貴美枝の言葉を聞いて、両親より長生きしようと感慨を新たにした。
斎藤の出棺を見届けると、みちるたちはバスケットボール部がチャーターしたバスに向かう。
「青葉さん」
清香に呼び止められる。
「私、三条くんの家の車で送ってもらうことにしたから貴美枝監督にそう伝えておいてくれるかしら?」
「あ、あの真木キャプテンは斎藤キャプテンが死んで……そのショックじゃないんですか?」
「同じバスケットボール部部員としては悲しいわよ。でも、斉藤くんにはそれ以上の感情を持ったことないから」
抑揚のない清香の返事に、みちるは愕然とした。
自分があこがれていた真木清香という人間がわからなくなっていた。
「それじゃあ後はお願いね、新キャプテン」
清香はそう言って、三条の元へ駆けて行った。
「なんだか合宿が終わってからぁ真木キャプテンってキャラが変わっていなぁい?」
「だよな」
梨花子も輝も同じことを感じていたのだろう。しかし、みちるには清香を責める気にはなれなかった。ただあこがれの存在であってほしいと勝手にイメージを押し付けていただけで、本当の清香を見ようとしなかっただけなのかもしれない。




