第40話 詭弁と説得
報告を終えた兵士は速やかに退室する。
場に沈黙が訪れた。
ただし、それぞれ感じることは違う。
具体的にはミィナとそれ以外で分かれてくる。
俺は瞬時に頭を働かせる。
なるべく内心が顔に出ないように努力した。
ほんの僅かな時間を経て、ひとまずウォルドの肩に腕を回す。
「二人で相談したいことがある」
「使者に会うための服装かい? 心配しなくてもぴったりなやつを見繕ってやるよ」
ウォルドが軽口を叩く。
しかし、目はいつもと異なり緊張感を滲ませていた。
俺達はメニとミィナを置いて別室へと移動する。
扉を閉めた途端、ウォルドの表情が深刻に切り替わった。
「おい、どうする」
「少し待て。今から考える」
俺は舌打ちをして腕を組む。
大声を出したい気分だが、不審に思われても困るので我慢した。
王都から使者が来た。
とんでもなく不味い事態である。
予想していなかったわけじゃないが、まさか今日だとは思っていなかった。
ウォルドが苦々しい表情で唸る。
「王都からの使者となりゃ、勇者の顔も知ってるだろ。どう考えても誤魔化せないぜ」
「分かっている。だから絶対に会うわけにはいかない。さっさと逃げるのが得策だな」
「ミィナちゃんはどうする。俺達を本物だと思っているから、一緒に逃げてくれないだろ」
「なんとかするさ。任せとけ」
あまり時間をかけても不自然だろう。
俺は色々な展開を可能性を考えながら、ウォルドと共に元の部屋へと戻る。
すぐにメニとミィナがこちらを見た。
事情を知っているメニはいい。
問題はミィナだ。
彼女を説得して、なんとか抱き込むのが目的だった。
俺は堂々とした態度を意識して、彼女に向けて指示をする。
「使者達には会わずにここを発つ。今すぐに準備をしてくれ」
「お会いしなくていいのですか!? たぶん色々と大切なお話があると思うのですが……」
「問題ない。むしろ、ここで使者と接触する方が厄介なことになる」
俺は声を落として述べる。
真面目な雰囲気を察して、ミィナは不安そうな面持ちになった。
「それは一体どういうことですか」
「勇者とは魔王を討つための存在だ。そこに政治的な思惑が介入してはならない。今回の使者は、貴族が利得目的で派遣したんだろう。だから今は接触すべきではない」
「うーん、なるほど……」
流暢に語った俺の話を聞いて、ミィナは難しそうに思案する。
内容を頭の中で咀嚼して理解を試みているのだろう。
予想通りの姿を見て、俺はひとまず安堵する。
(ミィナは元奴隷だ。小難しいことはよく分からないだろう)
特に政治のことなんて知識もないはずだ。
俺は勇者として信頼されているのだから、その面でも有利である。
ここで俺の言葉を疑うという判断は取らないと思う。
よほど不可解な動機なら疑念を持たれかねないが、これくらいなら問題ないだろう。
別にまったくの嘘でもないのだ。
政治的な立場を求めて勇者と癒着しようとする貴族は実際にいるらしい。
否定材料を持たないミィナは簡単に信じ込むに違いなかった。
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