第39話 心臓はだいじ
ウォルドの言葉を聞いた俺は肩をすくめた。
そして嘆息混じりにぼやく。
「おいおい、心臓まで弄ったのかよ」
「その心臓を潰されたのは誰だ? そうでもしなけりゃ死んでいたんだぜ」
ウォルドが心外そうな顔をした。
それから肩を組んで顔を寄せて説明してくる。
「お前の心臓にはメニの氷が埋め込まれている。破片みたいな大きさだが、それが肉体を強化しているんだ。それで再生力を促進できたから、お前は一命を取り留めたのさ」
「別に迷惑ってわけじゃないが、氷は摘出しなかったのか」
「治療が終わる頃には心臓と一体化していたんだ。拒絶反応もなく馴染んでいるのは、お前の肉体が氷を必要だと判断したからだろう。まったく、どこまで盗賊根性が染み付いてんだって話だな」
ウォルドの皮肉に笑ってしまう。
確かに精霊の魔力ともなれば拒絶反応が出そうなものだ。
ただの人間が身に宿せば、きっと肉体の負荷が大きすぎると思う。
ところが俺は大丈夫らしい。
きっと本能部分で力を求めているから、その影響が出たのではないか。
英雄に対する羨望と、そこには至れない絶望が精霊の氷を手放さなかったのだ。
己の卑しさに呆れていると、ウォルドが思い出したように補足する。
「ちなみに氷は自然には溶けないそうだ。メニが死ぬ時に消滅するそうだから、まあ生涯残ると考えた方がいいだろうな」
「そうか。まあ、悪いことじゃない。おかげで魔力が溢れてくる」
「元が微弱だから誤差の範囲だろ」
「うるせぇな。素直に喜ばせろよ」
俺はウォルドを肘で突く。
ウォルドとミィナは嬉しそうに笑った。
その後、俺は眠っていた三カ月の出来事を聞いた。
途中でメニが起きたので、そこからは四人で談笑をする。
あえて本人に訊かなかったが、どうやらメニも勇者パーティの一員になったらしい。
ウォルドと契約をしたので物理的に離れられないのかもしれないが、それ以上の絆が芽生えているように思える。
ミィナもすっかりメニに懐いて、メニも満更でもなさそうな様子だった。
会話が途切れたところで朝食に行こうという流れになった時、扉が開いて一人の兵士が現れた。
関所に務めるその男は、緊張した様子で話を切り出す。
「勇者様、よろしいでしょうか」
俺達は顔を見合わせる。
さすがに無視するわけにもいかず、俺は拙い敬語で応じた。
「何……ですか」
「王都より使者の方々が来られています。皆様とお話がしたいそうです」
その兵士は、はっきりと報告した。
俺は血の気が引いていくのを感じた。




