第22話 覚悟を決める
それから半日ほど進んでいく。
森と草原の境界線のような地形を延々と歩き続けた。
特に魔物と遭遇することはないものの、代わりに異様な気配を感じるようになる。
俺は顔を顰めて呟く。
「この感じは瘴気だな。とんでもない濃度だ」
「嫌な臭いがします……」
ミィナも感じ取ったらしい。
獣人の尻尾と耳が垂れ下がっている。
その辺りの感覚が人族よりも敏感なのだろう。
魔族は周囲に瘴気を撒き散らす。
わざとやっているのではなく、身体がそういう構造になっているらしい。
体内の魔力を変質させて、縄張りを主張するかのように放出していると聞いたことがある。
真実かどうかは知らないが、とにかく魔族が付近にいるのは確かだろう。
途中、俺はメニに尋ねる。
「おい。あんたの能力にはどれくらい頼っていいんだ」
「魔族の足止めくらいは可能。相性にもよるけど、補助は任せてほしい」
「分かった。俺達だって協力はするが、本来はあんたの敵だ。しっかり役目を果たしてくれよ」
次に俺はミィナを見た。
不安そうな面持ちの彼女の頭に手を置く。
「ミィナ。治癒は絶やさずにな。特に俺の状態には気を配ってくれ」
「分かりました。ジタン様はわたしが守りますっ!」
元気を取り戻したミィナは力強く頷いた。
期待されることが嬉しいらしい。
輝く目には底無しの闘志が宿っている。
きっと彼女は勇敢に戦える。
むしろ勇敢すぎる危うさに歯止めをかけねばならないほどだろう。
俺とミィナの後ろでは、ウォルドとメニがやり取りしている。
未だに密着する二人は冷気を帯びながら会話していた。
「ウォルドはメニが守る。安心して」
「そ、そそいつは、ありがてぇな……心が、あ、あた温まってくる、ぜ……」
震えるウォルドは、それでも笑みを作って応じている。
メニを傷付けないように注意を払っているようだ。
きっと満更ではない部分もあるのだろう。
二人を眺めていると目が合ったので、ひとまず俺は茶化しておく。
「無理すんなよ」
「妬いてんのか?」
「馬鹿言え」
軽口を叩いて心を落ち着かせる。
何も感じていないと言えば、嘘になる。
魔族と戦うのだから、それなりの心構えになっていた。
(覚悟を決めろ。死ぬ気でやってやる)
俺ごときが死ぬ気になってもまだ足りない。
だからこそ、そこは前提だろう。
不思議と恐怖はなかった。
別に麻痺しているわけじゃない。
昂揚する精神に押し退けられているのだ。
騙るだけの勇者だというのに、気持ちだけは据りつつあった。




