第21話 瘴気を求めて
しばらくして俺達は氷原を抜ける。
土地の境界線を跨いだだけで気候が大幅に変わる。
周囲は過ごしやすい温和な昼だった。
数日ぶりの快適さに笑みがこぼれてしまう。
一歩で後ろから声が聞こえてきた。
「待って。メニの力が弱まっている。移動速度を落としてほしい」
そう要望するのはメニだ。
彼女の身体から魔力が漏出している。
今まで起きていなかった現象だ。
メニは大幅に弱体化している。
どうやら支配域を出たことで本来の力が出せなくなったらしい。
想像していたよりも状態は深刻だった。
メニから死を直感させる迫力は消えて、冷気もすっかり衰えている。
今やちょうどいい冷風を送ってくるのみとなっていた。
演技をしているわけではないので、本当に弱っているのだろう。
精霊とはなんとも生きづらそうな特性を持っている。
だからこそ余計に支配域から出なくなり、あのような環境を周囲に形成しているのだと思う。
息を乱して歩くメニを見て、見かねた俺は指摘する。
「そこまで辛いのなら、宮殿で待っておけばよかったろ」
「駄目。メニは自力で支配域を守りたい。力は借りるけど、任せきりにするのは違う」
メニは疲れた顔で述べる。
本人なりに考えるところがあるらしい。
その表明をどう思ったのか、ウォルドが青白い顔でメニを称える。
「さす、がだな。素晴らしい矜持、だと、思うぜ……」
「褒められた。メニは嬉しい」
メニがウォルドに密着した。
再び冷気が巻き上がって周囲を凍らせていく。
気持ちが高ぶってしまったらしい。
当然ながら中心部にいるウォルドが最も被害を受ける。
ウォルドは耐えるような声を上げていた。
「うごごごおおおおおぉ……」
「すげぇな。迂闊に褒めても死にかねん」
俺は皮肉と共に嘆息を吐く。
そして、気付く。
(今なら氷の精霊を殺せるんじゃないか?)
メニは弱体化している。
この状態なら勝ち目がないはずもない。
支配域の境界線からそれなりに離れたので、逃げ帰られたところで追い付ける。
結構な確率で暗殺は成功するだろう。
そうなると瘴気や魔族といった危険な頼みごとを無視できる。
この不味い状況からすぐに脱することができるのだ。
(……やめた方がいいな。碌なことになりやしないだろう)
暫し考えた末、俺は断念する。
メニに襲いかかった場合、返り討ちになる危険性が残っている。
それにお人好しのミィナが加勢するかもしれない。
さすがにその戦況は避けたい。
ここは命は大切にしたいと思う。
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