第19話 氷の精霊の主張
俺は氷の精霊に疑問をぶつける。
「どうしてウォルドが好きなんだ。お前らは初対面だろ」
「一目惚れだ。溢れ出る魅力にやられてしまった。不覚だった」
氷の精霊はうっとりとした目で答える。
ウォルドの垂らす鼻水が、端から徐々に凍り始めていた。
「ああ、どうしよう……」
俺の隣に座るミィナは気が気でない様子だ。
ウォルドの命を心配しているらしい。
たぶんまだ大丈夫だろう。
不味ければ炎で炙るだけである。
氷の精霊はじっと俺とミィナを見た。
「メニは宮殿に侵入した人間を皆殺しにするつもりだった。しかし、この男の友人は殺せない。悲しませたくない」
「そいつは賢明な判断だ。もし俺達が死ねば、ウォルドはあんたを嫌うだろうな」
「嫌だ。メニはこの男に褒められたい」
首を振った氷の精霊がウォルドを強く抱きしめた。
その分だけ冷気が強まる。
本人は気付いていないが、どうやら感情の昂りに比例して力が増すらしい。
(冷静さを欠かせれば話を有利に進められるが、やりすぎると凍死しそうだ)
俺は氷の精霊の特性を観察しつつ、この場で最も悲惨な状態の男に意見を求める。
「ウォルド。お前からも何か言ってやれ」
「あらそ、い……よくない……」
「だそうだ。平和的にいこうぜ」
「うん、分かった。メニは争いをやめる」
氷の精霊はあっさりと首肯する。
恐ろしい能力の持ち主だが、思考は単純と言えよう。
特に惚れた男に対しては弱い。
これならば制御は簡単だ。
表向きは堂々としながらも、俺は内心で安堵する。
(助かった。覚悟は決めていたが、戦えば死んでいたな)
実際に対峙して痛感した。
こいつは災厄同然の化け物である。
常人が策を練って太刀打ちできる相手ではない。
ウォルドに一目惚れしてくれて本当に良かった思う。
でなければ俺達は全滅していた。
そういった本音を顔に出さず、俺は気楽に本題を切り出した。
「仲良くなったついでに教えてほしいことがあるんだが」
「何?」
「あんたの力が国境を越えつつある。兵士によると不機嫌だって話だ。できれば抑えてくれるとありがたいんだがね」
「ごめん。気が立って制御できていなかった。たぶん瘴気のせい」
「瘴気だって?」
不穏な単語に眉を寄せる。
それに合わせて氷の精霊が上体を前に傾けて顔を近づけてきた。
肌がひりつくほどの冷気に顔を顰めそうになる。
彼女は冷淡な口調で俺に述べる。
「瘴気の原因を一緒に突き止めてほしい。勇者なんでしょ」
「……そうだな。俺は勇者だ、うん」
否定の反応などできるはずもなく、俺は頬を引き攣らせながら答えた。




