第16話 ニセ勇者の覚悟
移動を始めて四日が経過した。
猛吹雪の中、俺達は地道に進んでいる。
寒さが外套を貫いて襲いかかってくる。
強烈な眠気は唇を噛んで誤魔化す。
寝れば間違いなく死ぬ。
俺達は保存食を齧りながらひたすら歩き続ける。
たまに集落が見えるが寄らずに進んだ。
これ以上、余計な問題を起こしたくない。
集落の人間はおそらく敵対的である。
わざわざ氷国に暮らしているのだから、精霊と戦う俺達を快く思わないだろう。
現在、目指しているのは氷の宮殿と呼ばれる施設だった。
兵士によると、そこに精霊がいるらしい。
宮殿は領内各地に点在しており、いずれかに誰かが侵入すると、感知した精霊が転移してくる仕組みだ。
だから俺達は最寄りの宮殿に踏み込むだけでいい。
向こうから自動で現れてくれるのだ。
(まったく、どうせなら楽に死にたいもんだぜ……)
俺は自嘲気味に笑う。
手足の震えは恐怖か寒気か。
上手く噛み合わない歯がカチカチと音を立てる。
結局、俺は精霊と戦うことにした。
自殺行為に等しいのは分かり切っている。
それでもなんだかんだで断念できず、兵士やミィナとの敵対も選べなかった。
中途半端な気持ちだが、覚悟は本物だった。
こうなったら氷の精霊をぶち殺してやる。
手段など選んでいられない。
過去に討伐例がなかろうと知ったことか。
ただで殺されてやるつもりは一切ない。
絶対に始末すると決めた以上、俺はとにかく作戦を考えた。
移動中も常に頭を働かせて案を練り、少しでも生存率を上げるための工夫を凝らす。
たとえば氷対策を施した義手だ。
持参した魔道具の一部を解体して、外付けで発熱と発火の機能を追加した。
急ごしらえの改造なので重量が増えてしまったが、氷の精霊と戦うには必須の装備だろう。
他にも様々な道具を所持している。
数種の爆弾を筆頭に使えそうな物を用意した。
考え付く限りの備えを済ませている。
十人の兵士とミィナは戦意を漲らせている。
ウォルドだけは鼻水を垂らして弱音を吐き続けていた。
もっとも、こいつは土壇場でも揺るがない精神力の持ち主である。
表面上はグダグダ言っているものの、戦闘時は頼りになるはずだ。
本気で嫌ならとっくに逃亡している。
俺と違ってウォルドには英雄に対する執念がない。
それでも同行しているのは、本人なりの主義主張があるのだろう。
なんとなしに眺めているうちにウォルドと目が合う。
彼は派手なくしゃみをすると、青紫色になった唇で笑みを作った。
本当によく分からん奴だ。
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