第15話 削ぎ落とされた道
その後、氷国に踏み込んだ俺達は十人の兵士と共に移動する。
兵士は俺達の護衛だ。
精霊との対決を無責任に任せられないとのことで同行しているのである。
命を賭して戦う覚悟らしく、全員が聖女ミィナに魂を捧げていた。
(まったく、とんでもない事態になりやがった)
俺は胸中で何度も悪態を吐く。
ここまで来ると簡単には逃げられない。
兵士を皆殺しにして逃亡する案はとっくに考えていた。
少なくとも氷の精霊より勝ち目があるだろう。
しかし、今度はミィナの反感を買うことになる。
彼女は氷の精霊をどうにかする気だ。
もし敵対した場合、殴り殺される可能性が非常に高かった。
奇襲できる状況ならまだしも、何もない氷原で戦っていい相手ではない。
獣人の身体能力を発揮されれば窮地に追い込まれるのは必至である。
ウォルドと二人がかりでも危険すぎる展開だった。
(しかし、氷の精霊と殺し合うのも馬鹿げてるだろ……)
世界でも有数の力を持つ化け物だ。
真っ向から災害に挑むようなもので、そんなことは命知らずしかやらない。
もし俺達で殺せる相手なら、誰かがとっくに討伐しているはずだった。
そして氷国の領土を手に入れている。
遥か昔からこの地が凍り付いているのは、つまりそういうことなのだ。
何者だろうと敵わないから放置されている。
(勇者を騙ったせいで平穏とは言えない人生になってきたな。これが運命ってやつかね)
本来ならもっと優雅で怠惰な日々を送るはずだった。
どうしてこんなことになったのだろう。
まるで本物の勇者みたいな依頼を受けて、死地へと赴いている最中だ。
盗賊だった頃、氷の精霊と戦うとは考えもしなかった。
それがどれほど無謀で自殺行為に等しいか理解しているからだ。
今も同様である。
それなのに足はひたすら前へと進み続けている。
なぜか一行の先頭を陣取って氷の精霊に会おうとしていた。
使命や責務などは感じない。
では何が俺を駆り立てているのか。
己の胸の底を探ってみる。
きっとこれは、意地と執念だ。
奴隷商を襲撃した時もそうだった。
俺は、未だに英雄に憧れている。
自分はまだ何かできるのだと、信じ込みたいのだ。
ガキのような夢を諦められずに、勇者の真似事に興じている。
他人の名声で楽な暮らしをしたい。
その気持ちに偽りはないが、一方で何かを成し遂げたい衝動も抱えていた。
だから俺は、こうして氷原を歩いている。




