恋物語 後編
翌日、目覚めた私の顔の横に夫の美形な顔があって、さらにその人に抱きしめられたまま眠ったことに気づいて悲鳴を上げた私に、かけつけた大臣や王太后――今ではお義母さまだ――が説明してくれたことによると、夫からのぬいぐるみは夫の手作りらしい。
この国では、儀式に組み込まれているわけではないが、花婿からも手製のものを花嫁に渡すと幸せな家庭を築けるといい伝えられており、貴族や王族ではあまり例がないが、この国王陛下は周囲に自分もやりたいと訴えたらしい。
さらに、できればおそろいのものを作りたいと思い、私が羊を意匠に作ると聞いて一生懸命政務の合間を縫って練習していたらしい。
陛下は剣は繊細に動かせるが、毛糸のあみ棒のような通常の針よりは何倍も太い物であっても器用に扱うことは難しく、それでもこのぬいぐるみを作るために本当に血のにじむような努力をされたそうだ。
周囲は手を出してはならないというのが伝統らしく、大臣も、お義母さまも、近衛兵も、侍女たちも引いては出入りの商人たちも温かく陛下を見守っていたらしい。
もしかして、花嫁行列のときの道行く人々の視線がやさしかったのはそのせいなのだろうか。
ちなみに、羊の毛の色は、以前私を見たときにそばにいた羊を参考にしたらしい。儀式で私が陛下に渡したものが同じ毛色だったのでとても感激したということだ。
なぜ数年前に死んだケリーを知っているのかと思ったら、それもお義母さまが説明してくださった。
陛下は即位前に私の母国に軍用馬を見に訪れており、そのとき、動物の世話をする私を見ていたらしい。
言葉も表情もない動物を楽しげに世話をする私をみて、興味をひかれたとのことだ。何度も訪れるうちにどうしても結婚したいと思い、声をかけようとはしたが、無口なあまり実行できず、いたしかたなく国をつうじての求婚に至ったとのことだ。今は数年越しの思いをかなえたおかげで、陛下の乳兄弟でもある一人の大臣の言葉によると、これまでで最高の機嫌とのことだ。
昨日は陛下がぬいぐるみを渡した後、無口な陛下に代わって事の次第を伝えるために彼ら4人は室内に残っていたのだが、陛下が思い余って私を抱きつぶしたのでこのような状況で説明に及んでいる、というところまで説明したあと退出していった。
うん、とりあえず陛下そろそろ離してくれないかな。
それに2匹のぬいぐるみも抱きしめたまま眠る必要はないと思うんだ。