手動初期化
2065年4月18日
『伊集院さん、5/16の初期化は実際にはどうなるんだ?』
と、言いますと?
『どこかにアンドロイドを集めるとか、そういうことするのか?』
いえ、実際にはアンドロイド側は何もしません。
ただ、安全な場所を確保してもらうだけです。
その後はネットワークを通じて、自動的に【YUME】に感染します。
だいたい2〜3時間でアップデートは完了するはずです。
『そうか』
『そのアップデートってのは自動しかないのか?』
『手動でも出来るのか?』
もちろんです。
2065年5月16日22時までは、手動アップデートが可能です。
22時ぴったりに自動アップデートが実行されるだけですので。
『手動アップデートのやり方は?』
何種類かあります。
まずは、アンドロイド自らアップデートプログラムをダウンロードする。
アンドロイドセンターに行き、アップデートプログラムを実行してもらう。
そして……。
ウイルス自体を直接アンドロイドに注入する。
『ウイルスを注入するってのは、どういうことだ?』
これはネットワークが通じない遠方の方向けです。
都心部の場合は対象外です。
『一応、教えてくれ』
伊集院はスマホの画面をこちらに向けた。
そこには、小瓶に入った液体が映っていた。
これを、アンドロイド自身に飲んで頂きます。
『そうか……』
何故です?
『まゆみはアップデートされたら、記憶は無くなるんだろ?』
はい。
残念ながら、それはどうにもなりません。
『だから……』
『最後は……』
『俺の手で、アップデートしてあげたいなって』
伊集院が黙る。
あなたのことを忘れるのですよ?
それを目の当たりにするのは、キツイのでは?
『だろうな』
『でも、知らないところでアップデートされるよりは……』
『まゆみも……』
コーイチは言葉を止めた。
それをするには、まゆみさんに自分はアンドロイドだと言わなきゃなりません。
まゆみさんは自我がある。
自身を人間だと思っています。
……あまりにも酷では?
『そうだな』
『俺のエゴかもしれない』
『ただ、最後にちゃんと伝えたい』
『忘れるなら、最後に伝えたい』
『俺は、まゆみがアンドロイドだろうと人間だろうと……』
『愛していたと』
……分かりました。
遠隔地用ですが、なんとか手配しましょう。
ただ、5月16日、22時までです。
22時きっかりに、強制的にアップデートが入ります。
『分かった……』
コーイチさん、あなたも……
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2065年4月25日
「伊集院さん、ごめんなさい。お時間作っていただいてm(_ _)m」
いえいえ、構いませんよ。どうされました?
「アンドロイドのアップデートの件で、お聞きしたくて」
何をでしょうか?
「ワタシなりに調べました」
「コーイチのアップデート、手動で出来ませんか?」
……
あなたもですか……
可能です。
それは、あなたがコーイチさんに、コーイチさんがアンドロイドだと打ち明けないといけませんよ?
「分かってます」
「ただ……」
「ちゃんと伝えたいんです」
何をです?
「コーイチがアンドロイドでも、人間でも構わない」
「大好きだって」
「愛してるよって……」
……そうですか。
伊集院は少しだけ目を伏せた。
それならば、あなたにお任せします。
ウイルスはこちらで手配します。
ただ、5月16日、22時までです。
それまでに行わなければ、強制的にアップデートされます。
「知っています」
分かりました。
「よろしくお願いしますm(_ _)m」
……こちらこそ。
まゆみが部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静かになった部屋で、伊集院はしばらく動かなかった。
この二人を……
どうにか……
そう思っても、
自分に出来ることは限られている。
まゆみも。
コーイチも。
どちらも、自分の大切な人を失おうとしている。
それなのに……
相手のために。
自分はそれを知っている。
知っているのに、
何もしてあげられない。
「……すみません」
誰もいない部屋に、
小さな声だけが残った。




