【パン】でいいや!!
よく寝た。
昨日は少しダッジではしゃぎ過ぎた。
警察に追われてあそこまで大騒ぎになるなんてな。
なんとか逃げ切ったけど……
俺はベッドサイドにあるセブンスターを手に取り火をつけた。
いつものベッド、いつもの匂い、いつものタバコ。
フゥゥ〜〜〜
今日はバーの買い出しついでにまゆみのとこでも行ってやるかなー。
寂しがってるだろうしな。
アイツはいつもそうだ、
あの時も……
****
半年前。
キィィィーーーッ!!
ガシャアアアアアアンッッッ!!!
キュルル……キュル……
……
……
(ヤベッ!)
やっちまった……
まゆみ……
****
目を覚ますと泣き腫らした目でまゆみが俺の手を握ってた。
『まゆみ??』
「ウワーーーーン、
起きたーーー
起きないかと思ったーー…」
『大袈裟だなー』
抱きついて離れてくれない。
俺はまゆみの頭を撫でる。
『おれは平気だよ、ごめんな、心配かけて、ありがと!』
「バカ!!
なんであんなとこで一人でバイク乗ってるのよ! 一歩間違えたら死んじゃうんだからね!!」
そうか、俺は事故したんだった。
体は……
無事みたいだな、あの後どうなったのだろう。
目が覚めましたが、良かったです。
白衣を着たいかにもな医者先生が来る。
一週間です。
一週間前ですよ、あなたが事故でここに運ばれてきたのは。
『えっ?』
その間、出来ることはやりました。実際危ない時もあったのですよ。
(マジで?)
軽い診察を終える。
もう大丈夫です。あと一、二日で退院できます。
「ウワーーーーン、
良かったーーー」
また抱きつかれて泣かれる。
また、頭を撫でた。
こんな時に、一人じゃないってのを実感するのは本当はダメなんだろうな……
ただ、まゆみを愛おしく感じる。
ただ、ギュッと抱きしめた。
『心配かけてごめんな、ありがとう』
****
(しょうがねーな)
俺はバーに回り在庫を確認する。
レモン、ライム、オレンジ……
フルーツ系は買わなきゃダメだな。
あとは、
あぶねーー。
ジンジャーエール無かったわー。
ウィルキンソンの薄い方!
まゆみが退院したらきっと飲むだろうからな、買っといてやるか!
セブンスターに火をつけて考える。
まゆみには何をお見舞いで買っていこうか?
キィーーーーーン!!
まただ、
頭を大きく左右に振る。
キィーーーーーン!
はぁ、はぁ、
(なんなんだこれ……)
(禁煙するか?)
そう思いながらも煙を胸一杯に吸い込む。
喫煙者なんてこんなもんだ。
よし!
【パン、な、??】
店名は相変わらず読めない。場所は覚えてるから手動運転だな。
あそこのティラミスでも、買っていってやろう!
まゆみ甘い物好きだからな!
****
スーーッとスーパーの自動ドアが開く。
サクッと買ってあのパンなんとか行かなきゃな。
俺は適当に書き留めたメモを見てカゴに放り込んでいく。
そして手動運転で目的の店へ辿り着く。
なんて読むんだこれ?
【Pan Con Lechón】
パン、コン?
何回読んでも読めねーや。
【パン】
でいいな!
テイクアウトカウンターへ行き注文をする。
『ティラミスとカフェオレとアイスコーヒー、アイスコーヒーにはガムシロだけ入れてください』
ありがとうございます。
少々お待ちください。
あのドーナツみたいなケーキもそうだけど、店の名前といい、読んでも分からねー名前が多すぎるんだ、最近は……
そうこうしてるとテイクアウト商品が出来上がる。
よし!
『これからいくぞー』
すかさず返事が返ってくる。
わーーい! 待ってまーーす!!
どんだけ暇なんだアイツ!
****
病室のドアを開けると浮かない顔をしたまゆみがいた。
『おう!』
見舞いの紙袋を見たからなのか、俺が来たからなのか、浮かない顔が一気に晴れて笑顔になる。
「なに、それーーー!!」
『パンのティラミスとカフェオレ!』
「パン???」
『だから、パンなんとかだよ、キューバサンドの店! 行っただろ!』
「パンじゃ分からないよー。
Pan Con Lechón、パン・コン・レチョンでしょ!」
『ややこしいからパンでいいだろ、はいよ!』
「やったー!
ありがとう!」
そう言うとまゆみが抱きついてくる。
『どうした?』
「別に……
ただ、寂しかっただけ。
もうすぐ退院だから、そしたらモスコミュール飲ませてね!」
『今日ジンジャーエール買っておいたぞ』
そう言って頭に手を乗せる。
あの事故の俺が目覚めた時のように……
****
(よしっ!)
真面目にオープンするか!
って言ってもレモンとライムくらいしか仕込みはないけどな!
BGM用のLPレコードに針を落とす。
別に拘ってる訳じゃない、
音楽なんて何で聞いても同じだ。
ただ、この針を落とす瞬間が好きなだけだ。
チロチロリーン!
おいっす〜〜
『いらっしゃい、永井さん。この前はすみません』
いや、勝手に飲ませてもらったから全然いいよ。
それより暫く店やってなかったな、なんかあったのか?
『四、五日休んでただけっすよ』
それを普通はしばらくって言うんだぞ。
『えっ? そうなんすか?』
だから、お前は、商売向いてないよな。
『向いてる訳ないじゃないっすかー、何言ってるんすか、今更! 勘弁してくださいよー』
まぁ、そこまで自覚があるならいいけどよ。
カミカゼ頼むわ!
『今日ライム買いたての生ライムっす!』
おぉーーー。
買いたてか! 今時貴重だからな!
『野菜程じゃないですけどね、普通にまだスーパーで買えてるんで!』
軽口を叩きながらカミカゼを作る。
『どうぞー』
おう、お前も飲むか? 奢ってやるよ、前勝手に飲ませてもらったからよ。
『あざーーす!』
チロチロリーン!
『おおーーーユウイチさん、』
おう!
って、永井か!
お久しぶりです、ユウイチさん。
久しぶりだなー。
現場離れて今どこでやってるんだっけ?
えぇーー。
覚えてないんですか?
アラート課ですよ。
マジか!
『マジで?』
ハァァァァァ、いいですか、ASSのアラート流してるの俺です!
じゃお前がうちらに散れって言ったのか? あぁ?
い、いや、あれは……
チロチロリーン!
『アキラも来たのかー』
なんだーみんなお揃いで。
ちょっと聞けアキラ!
永井がうちらのアラート流してたらしいぞ!
あのクソつまらないアラート!
えっ? 知らなかったんすかユウイチさん。
『アキラ知ってたのか?』
永井さん異動する時言ってましたよ。
だから、言ったじゃないっすか……
****
こんな下らない夜がいつまでも続けば、それでいいのに……




