雌伏の時
本編その1に入りました
「ロゼリカ、化粧は印象が薄くなるようにお願いね」
「わかってるわ、リリィちゃん」
私は今、新年の祝賀パーティーの支度をしている。
あれから、早いものでもう年を2回跨いだ。
つまり私は今5歳。
実は、私は9月生まれなので、日本でならまだ4歳である。
しかしこの世界では、年始めにみんな一斉に年をとる。
数え年に似ているけれど、生まれた時は0歳とするので少し違う。
ならばみんな年始めに誕生日パーティーを開くかといえば、そうでもない。
誕生日パーティーは生まれた日に開くのだ。
確かに、みんなが一斉にやると大変なことになるからね。
「リリィちゃん、ちょっと上を向いて」
ロゼリカに言われ、上を向く。
この新年祝賀パーティーは王族主催のもの。
こういう公的なパーティーは5歳未満の子は参加できないので、私は今回が初参加、初お目見えとなる。
そこでどうして印象が薄くなるようにメイクするのかといえば、ぶっちゃけ貴族どもを騙すためである。
欲深い奴らのことである、どうせ唯一の未成年王族である私を見れば、懐柔しようとしてくるはず。
それが、大人しそうで我が薄そうな王女であったならば、尚更だろう。
そして私は、その我の薄そうな王女に変身中なのだ。
つまり、今回のパーティーで欲深貴族ホイホイになるわけである。
それにもうひとつ理由がある。
印象が薄ければちょっと変な行動してもそれほど気にされないよね、という下心だ。
希望的観測ではあるけれど。
「よし、完成よ、リリィちゃん!」
ロゼリカの声に、鏡を覗き込んだ。
そこには、まあまあ整った顔をしているけれど、そこまででもない、ぶっちゃけその辺にいそうだよね、と言いたくなる顔の私が映っていた。
よし、いい感じ。
「ありがとう、ロゼリカ。いい感じだよ」
「そう?なら良かったわ」
今着ている地味ではないけど華やかでもないドレスも相まって、影が薄いように見える。
よしよし。
私が満足して頷いていると、ドアがノックされる。
ロゼリカに頷いて合図を出す。
「どうぞ」
畏まったロゼリカの声を聞いた訪問者が入ってくる。
「……本当にリリィか?影が薄くなっていないか?」
お父様、娘に対してのその第一声はあんまりですよ、普通なら。
「影が薄くなるようにしたのです」
欲深貴族ホイホイになるために。
「……?そうか。とりあえず、そろそろ時間だ。行くぞ」
「はい」
理解を放棄したお父様について王族の待機場所へと向かう。
「リリィ、久しぶりだね」
「お久しぶりです、ヴィー従兄様」
ヴィー従兄様ことヴィルヘルム王太子に挨拶する。
「全く、私の従妹ときたら、離宮からなかなか出てきてくれないのだから。たまには私に顔を見せて欲しいものだ」
出てますよ、毎日のように。
ただ、ヴィー従兄様のところへは行かないだけで。
私は今、トール伯父様から与えられた王都郊外の離宮で暮らしている。
半ば強引にもらった、とも言う。
その離宮の使用人は全て〈月影〉所属。
言ってしまえば、離宮は〈月影〉の本拠地になっているのだ。
始めこそ一般的な使用人や、貴族の手の者が使用人として潜り込んでいたが、そうと分からないよう、少しずつ〈月影〉に入れ替えていき、今の状態になった。
ちなみに、〈月影〉の存在は私以外の王族の誰にもまだバレていない。
〈月影〉が優秀なのか、王族が鈍感なのか。
離宮の役割はそれだけではない。
私は表向き病弱設定である。
王族以外の誰もが部屋に引きこもっていると思っているだろうが、実際のところは離宮にいる時間の方が短いくらいだ。
つまり、病弱設定でなんちゃって引きこもりをよりバレにくくするにはうってつけ。
その離宮にいない間は、裏社会を走り回っているか、商会の様子を見に行っているか、ロランさんのところのギルドにいるかである。
我ながら、王女のすることではないとは思う。
邪魔な裏社会の組織や集団を潰して回り、残された人員は〈月影〉の新メンバーとして回収、現在〈月影〉は総勢1356名に。
商会は今や国内で一、二を争う大商会に。
ストレス発散のために魔物を狩りまくり、気がつけばあら不思議、あっという間にAランク。
ついでに言えば、ローウェン辺境伯領のギルドへは、長距離を転移できるようになったため、今までのように2日かけて移動する必要がなくなって一瞬で行けるようになった。
……やばいな、私。
いや、最初はここまでやばくなる予定ではなかったんだよ!
それにまだ大丈夫、バレてないから!
…………誰に言い訳してるんだろ、私。
余計虚しくなるわ。
「入場の時間だ。行くぞ」
トール伯父様の声で我に返る。
おや、いつの間に。
では、頑張ってホイホイするよ!




