反撃開始の合図
「おやまあ。これはこれは王女殿下、ご機嫌麗しくいらっしゃるようですね。体のお加減はよろしいのですか?ああ、そうです!お元気になられたのでしたら、ご友人が欲しくなるのではありませんかな?どうです、うちの娘と仲良くしてやってくださいませんか」
「いやいや、殿下のご友人にはうちの娘の方が良いでしょう。家格も器量も、殿下にふさわしい」
「いや、それを言うならば私の娘だって負けてはいませんぞ」
「私のところは娘こそおりませんが、殿下と程よい歳の頃の息子がおりまして」
いやぁ、引っかかるのなんのって。
大漁だよ!
ザーシュとロゼリカ直伝、儚い微笑みを浮かべているだけであちらさんの方からうようよ寄ってくる。
下心丸出しの、欲にまみれた目をしてね。
こちらを見下して小馬鹿にしているのが嫌でも分かる。
でもね、貴族さん?
あなたたちが連れているその従者たち、全員〈月影〉なんだよね。
つまり、首筋に刃を突き付けられているのと同意。
気づいていないからそうやってヘラヘラできるわけ。
笑っていられるのは今のうちってね。
もう貴族包囲網は完成している。
既に潜入中の〈月影〉によって貴族たちが謀反の準備をしていることも把握済み。
あとは〈月影〉にゴーサインを出すだけ。
それだけで、あなた達は謀反を起こさざるを得なくなり、自滅への道を走ることになる。
ギルドも手は回し終えた。
裏社会も私の手のひらの上。
調べているうちに浮かび上がってきたあなた達の頼みの綱である教会も、既に対策済み。
詰み、ってやつだよ。
私は黒い笑みを隠し、ただ儚げに微笑む。
「わたくし、たくさんお友達が欲しゅうございますわ」
少し小さめの声で、照れたようにそう言ってやれば、貴族たちがしめたとぬか喜びする。
「では、我が家で今度お茶会をする予定ですので、殿下をご招待してもよろしいでしょうか」
「ええ、喜んでお呼ばれ致しますわ」
普通、貴族宅で開催されるお茶会に上位であるはずの王族が出向くわけがない。
だが、あえて呼ばれると言ってやれば。
ほら、さらに馬鹿にしたような目をする。
そんなことも知らないのか、と顔が語っている。
疑うこともなく自分たちが上だと勘違いしているおバカさん。
何も知らないのはそちらの方だよ。
「リリィ、そろそろ疲れてくる頃だろう。もう下がって休むといい。王には私が伝えよう」
「御配慮ありがとうございます、お父様。では、わたくしはこれで下がらせていただきます」
ゆったりと、優雅に見えるようお辞儀をして会場を後にする。
そして向かったのは私の部屋。
普段は離宮にいても、王城にもちゃんと私の部屋があるのです。
ラスヴェトがドアを開けてくれ、中に入る。
「疲れたぁー!」
「お疲れ様、リリィちゃん。いやぁ、見事な猫かぶりだったよ!」
ソファにダイブすると、ザーシュにケラケラと笑われる。
会場までついて来ていたのはラスヴェトとザーシュのみ。
そしてこの部屋で待機していたのはロゼリカとカイン。
その他の亜人組は、申し訳ないけれど離宮でお留守番だ。
貴族に突っかかられるよりはいいと、自らお留守番を選んでくれた。
ちなみに、みんなが着ている制服は私がデザインして、アーロンが商会で作ってくれたものだ。
一応近侍服はデザインがある程度決まっているが、個人でそれを元にアレンジするのはいいらしい。
色も自由らしいので、紺地に銀糸で模様をあしらってある。
一人一人に合わせて、少しずつ変えてもある。
ラスヴェトは模様を少し豪華に。
ロゼリカは胸を大胆に開けてある。
ザーシュは全体的に緩い感じに。
リーフェ、リーファは動きやすさを重視。
アーシャはローブ風に。
カインは魔術具を入れられるポケットをたくさん。
ダングは少し武骨な感じに。
ムンドは着流し風に。
ジュダは懐に従魔の蛇2匹を入れやすいように。
なかなか個性が出ていて、見ているだけでも面白い。
「ほら、リリィちゃん。ドレスがシワになるわよ。着替えなきゃ」
「はーい」
化粧を落とし、普段着用のドレスに着替える。
まあ、そもそも私普段ドレス着ないんだけどね。
いつもドレス風ワンピースです。
でもここは王城なので、ドレスです。
ちょうど着替え終わったとき、ドアがノックされた。
ラスヴェトにチラリと視線を送る。
「どうぞ」
ラスヴェトがそう言うと、入ってきたのは王族一家。
どうやらパーティーはお開きになったようだ。
それぞれ思い思いの場所でくつろぎ始める。
……ちょ、ここ私の部屋……。
とりあえず、揃ってやってきたということは、話があるのだろう。
詠唱破棄で防音結界を張る。
「どうだった、リリィ?」
トール伯父様が訊いてくる。
「そろそろ反撃を開始しましょう」
「まず経緯を話せ」
結論を先に出した私にトール伯父様のツッコミが入る。
「仕込みは全て完了し、上手く動いています。ですので、開始すべきかと」
「簡潔すぎだ」
仕方ないなぁ。
「貴族の元へ送り込んだ者たちの情報収集は完了しています」
「ちょっと待て」
「また、貴族と繋がっている各ギルドのギルマスやそれを統括するグランドマスターにもくい込んでいますので、こちらも完了しています」
「おい待て」
「さらに、調査中に明らかになった教会の関与及び腐敗ですが、唯一腐敗しておらず、また現状打破を望む枢機卿2人に接触成功、その助力により教会にも手の者を深く潜り込ませています。捕らえる予定のない者たちについても、既に包囲網の外へ逃がしてあります。証拠も十分に揃いました」
「待たんか」
「なんでしょう?」
「どこから突っ込めばいいのかわからん」
それを私に言われても。
「まずひとつ。お前、その人員はどこから連れてきた」
「拾いました」
「出たわね、王族の拾いグセ」
お母様、その拾いグセとは?
「王族って、自分の役に立ちそうなものを拾ってくるクセがあるのよ。物でも、魔物や動物でも、人でもね」
王族よ。
そして私もその王族。
むしろ私が1番拾ってるかも。
「……俺は真面目な話をしてるんだが……」
「私も真面目に答えたのですが」
「どこがだ」
「では、言葉を付け足しましょう。……拾ったのです、裏で」
「……なるほどな」
「あまり驚かれないのですね」
「王族の近侍たちも、元裏の人間だ」
なら拾ったって言ったときに分かってくださいよ。
「まさか、既に自ら裏に行っていたとはな。俺たちはみな親に連れられて近侍を探しに行ったぞ」
親が連れていくのかい。
「近侍は絶対に信用出来る者でなければいけないし、主が1番でなければいけない。だから守るものを持たない裏の人間から探し出し、互いに信頼関係を深めるのだ」
「近侍の私としましては、裏から連れ出して頂いた恩というものもありますので」
トール伯父様の近侍が付け足す。
なるほどね。
「それで、2つ目だ」
拾ってきた人数は訊かないんですか、そうですか。
どうやら近侍を少し多めに拾ったと思っているようだ。
「金もいるだろう。その金はどっからきた」
「私、Aランク冒険者でもありますので」
「そうか」
「驚かれないのですね」
「王族は全員Aランク以上だぞ?」
まじですか。
「それから3つ目。お前、いくらなんでも仕事が早すぎないか?よくもまあ少ない人手でそこまでやれたものだ」
ふむ、ではネタばらしといきましょう。
「トール伯父様。私の手の者は何人いるとお思いなのですか?」
「せいぜい2、30人ほどだろう?違うのか?」
「違います」
具体的には桁が2つ。
「何人いるんだ?」
「1000人以上です」
固まる空気。
「………………は?」
「1000人以上です」
「…………よぉく分かった。お前はおかしい」
おい。
「もういい、分かった。貴族への制裁を開始する。指揮はヴィーと、唯一全体像が見えているであろうリリィが執れ」
「御意」
「承りました」
王が思考を放棄したことにより、貴族への制裁劇が幕を開けた。
未だかつて無い幕開けだよ、グダグダ感半端ない。
とりあえず、貴族ども、待ってなさい!
プチってやってあげるから!
リリィちゃんが黒い(´・ω・`)




