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名前と居場所 ラスヴェトside

前半に流血、暴力、暴言の表現が出てきます。

苦手な方は、飛ばして後半からお読みください。






目の前で、男が血を流して倒れている。

そこから立ち去りながら懐からある紙を出した。

組織のトップに渡されたその紙には暗殺対象者がずらりと書かれ、ほとんどの名前は線で消されている。

まだ消されていない名前の1番上、先程倒れていた男の名前に線を引いた。

さて、次は。


――――――――アリアンナ·フェルティ·エル·ネリルランディア


現王の妹、ネリルランディア王国唯一の王女。

所在地はローウェン辺境伯領の領主館。

ローウェン辺境伯の情報を思い出しながら頭を捻る。

なぜ、そんな所に王女が?


いや、そんなことを考えても仕方がない。

どうせ、俺は使い捨ての道具でしかないのだから。

失敗すれば、即座に処分される。

下手なことをしたり、喋ったりしても消されるだろう。

いや、一応異名持ちではあるから、即座には処分されないかもしれない。

それでも、組織のトップにしてみれば、替えのきく道具でしかないのだろうが。


俺は捨て子だったため、名はない。

産まれてすぐ捨てられ、今のこの組織、〈闇鴉〉とは違う、小さな犯罪者集団に拾われた。

暗殺の(すべ)を叩き込まれ、暴力、暴言の嵐だった毎日。

ある日、弱小集団でしかなかった彼らは、別の集団に潰され、俺はその集団に拾われた。


そこでの日々も、変わらないものだった。

いや、むしろ悪化した。

仕込まれた暗殺術で結果を出すようになった俺をやつらはやっかんで、毎日のように力任せに暴力を振るった。

死にかけたことも1度や2度ではない。

血の色をした目が気持ち悪い、と何度も殴られながら言われた。

顔を隠すようになったのはその時からだ。


そして、その集団もあるとき突然潰された。

そして、俺はこの〈闇鴉〉に拾われた。

今まで散々仕込まれた暗殺術により、俺はあっという間に異名持ちとして一目(いちもく)置かれることになった。

暴力や暴言をぶつけられることはなくなったが、代わりに恐怖や嫌悪の目を向けられることになった。


それならそれで構わない。

俺はその視線から逃れるように、ただ淡々と与えられた仕事をこなしていった。


生きた人間の肉を断つ感触が手に伝わるたびに、酷い心の飢えを感じる。

それを忘れたいがために、仕事に没頭する。


悪循環だった。

だが、そうするしかなかった。

いつか、そう遠くないうちに壊れるだろう。

そう、漠然と理解していた。

…………今までは。


対象者を探すために一旦入り込んだ空き部屋。

突然開いたドアに驚き、咄嗟に斬りかかった。

しかし、その攻撃は跳ね返され、何故か身動きが取れなくなる。

突然目の前に現れた年端もいかない少女。

特徴的な銀髪と銀目。

一目で王族だとわかった。

おそらくはアリアンナ王女の娘だろう。


その少女は躊躇うことなく俺へ近づいてきた。

どうするつもりかと問うた瞬間苦しみ出したのには驚いたが、その後に言い放った言葉のほうがもっと衝撃的だった。


「私に雇われて」


どうせ子どもの戯言(ざれごと)だ。

言い募る少女を前にそう思い、断ろうとしたとき。


顔を隠していた布が突然剥がれた。

フラッシュバックする暴力、暴言。

叫び出したいのを必死に堪える。

すぐさま剥がれた布を奪い返し、身につけた。


ほんの少し、周りを見る余裕が戻ってきたとき、少女が目に留まった。

その途端、言いようのない温かなものが込み上げ、パニックになっていた頭がゆっくりと落ち着いた。

そして、少女の深い自責の念の色が現れた目を見つける。


どこか不安げに揺れる少女の目を見ながら、本気か、と問うた。

少女の母親を殺しに来たと言っても、少女の答えは変わらない。


むしろ、問い返された。

そこにいてはいけない、とも言われた。

そして、伸ばされる手。

その小さな手をとることができず、未練がましく言葉を重ねる。

少女は、この目を、怖くないと言ってくれた。

暁の色だと、言ってくれた。


「とっても綺麗な色だった!私はその目、好きだよ」


そう、優しく笑いかけられれば、もう、駄目だった。

頬を伝う、温かで、知らない感覚。

初めて、自分は生きた生身の人間だったのだと、理解する。


気がつけば、少女を引き寄せ、抱きしめていた。

腕の中の温もりに、他者は温かいのだな、とどこか遠くでぼんやりと思う。

あれほど俺を苦しめたどうしようもない飢えは、いつの間にか跡形もなく消えている。

代わりに心を満たすのは、どこまでも優しい、温かなもの。

この少女の傍にいたいと、心の底から思う。


俺を、雇いたいのだったか。

給料はいらない。

ただ、この少女の傍に俺の居場所があればそれでいい。


そこまで考えて、ふと我に返る。

腕の中に少女がいる。

思わず、そっと手を離し、ジリジリと後退(あとずさ)る。

やってしまった。


「すまん……」


謝れば、気にするなという少女。

実際、気にしていないようで、名を訊いてくる。

名はないと言えば、呼び名はないのかというので、付けられた異名を教えた。

その流れで給料がいらないこと、居場所が欲しいことを伝える。


「お給料はちゃんと払うからね!それに、居場所ならもうあるでしょ、ここに」


1人の人間として見てくれている証のように、憤慨した様子で返されたのが嬉しかった。

思わずにやけてしまいそうになるのを押し留める。


そのうえ、名をくれた。

ラスヴェト。

夜明け、暁という意味の名前。

意味を考えて付けられた名前。


なにより、当たり前のように名前を呼ばれたのが嬉しかった。

まるで、それがお前の名前なのだと、断言されたようで。


だから、傍に居よう。

必要とされている間だけでも。

この少女は、賢いのに、どこか世間知らずで抜けている。

それを、支えてやりたいと思う。


俺の、持てる力は全て彼女のために振るおう。

俺はそう決意した。








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