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第6話 不吉

それからの数ヶ月、ハイランド帝国の奴隷解放という一大政策はこれといった欠点も露呈せず、その政策は見事に成功したようだ。

このことでハイランドを除く各国で奴隷解放の必要性を説く声が上がったのは言うまでもない。ただ一つローディス教国を除いて。

ハイランド帝国と国交を完全に断絶するという事は、帝国と完全に敵対関係に入るということを意味する。そういう意味で、ローディス教国以外の多くの国が、建前の上でもその政策に同調して見せる必要があったのだ。

しかしローディス教国の頂点に君臨する教皇ウルバヌスは、どうやら完全にハイランドと敵対する意思を固めたらしい。

「どう思う?クラン」

私は今カミュ卿の屋敷で彼とシェリー様とテーブルを囲んでいる。夕食ということで招かれたのだが、必然的に話は公務のことになる。

「今ハイランドと事を構えて勝てると思うか?」

カミュ卿の表情は渋かった。彼が無敗の将軍たる理由の一つは、戦う前からの徹底した分析を行うことである。

「未だハイランド帝国と我が国とは全面戦争には至っていないが、辺境での小規模の戦には何度かなっている。」

カミュ卿は切れ長な目をふっと細めた。

「正直あれほど兵が強くなれるものかと驚いた。あれは文字どおり一騎当千の兵ばかりだった。」

「でもあの時カミュ様はハイランド軍を撃退なさったのでは?」

私の問いにカミュ卿は静かにかぶりをふった。

「負けなかっただけのことだ。損害ははるかにこちらが多かった。」

カミュ卿の瞳に憂いの光が満ちる。

「教皇様に進言する必要があるな、今ハイランドと事を構えるのは賢明ではないと。」

「聞き入れてくださるかしら?」

シェリー様が私のグラスにワインを満たしてくれながら言った。私は正直お酒は得意ではないので、唇をぬらす程度に飲みながらシェリー様が話すのを聞いている。

「例の貿易断絶の国書を送られてからきっと教皇様は頭に来ておられるのよ。まだ若い新帝に軽んじられたと。」

「ハイランドは戦争になっても勝算があるのでしょう。」

私はグラスを置いて話し出した。

「ハイランド帝国では四天王と呼ばれる四人の将軍が軍を束ねています。銀狼、黒竜、赤鳳、白虎という四つの師団で成り立っています。この師団のうちの一師団でも総力を挙げて侵攻してきたらこれを防ぐのは至難のわざです。」

「銀狼将軍は今は誰が?新帝ライア・ハイラルが師団長だったはずだが?」

カミュ卿の言葉にシェリー様がすぐに答えた。

「おそらくライア自身がそのまま統括していると思うわ。皇帝直属の騎士団も含めると銀狼騎士団はかなりの数に膨れあがったといえるわ。」

私はローディス教国の動員可能兵力を考えてみた。

予定動員数は15万、最大動員数は20万とされているが、これはあくまで兵の糧食を可能な限り港から買い集めた場合の数字である。

これに対し豊かな穀倉地帯を有するハイランド帝国は、予定動員数だけで25万を超えるとされている。国内に資源を持つ国とそうでない国との国力の差は戦争となった場合に歴然となる。

私はカミュ卿の進言に教皇が耳を傾けてくれることを祈った。


しかし運命の歯車は急速にそれぞれの歯をかみ合わせ回転をはじめていた・・・


その知らせは翌日の朝早くに飛び込んできた。前将軍ジュヌーン卿が帰国しようとしていたハイランドの使節団とはちあわせし、道を譲る譲らないの問答の末、ジュヌーン卿がハイランド使節の一人を斬殺し、二人に重傷を負わせたというものだった。

「嵐が来る・・・」

私の本能がそう告げていた。そう、それは私自身を巻き込みこの国を覆しかねないほどの大きな嵐。

その嵐が過ぎ去った後私は生きていられるだろうか?

そう思わせるほど不吉な予感は私の心を重く、そして冷たく締め付けていた。

後の世に言う「ザナドュ事件」が発端となりその嵐は私が思っていたよりずっと早くにやってきた・・・



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