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第1話 リンゼンの戦い

カージャール朝の軍隊が国境を越えたとの知らせを受け、クラン率いる奴隷部隊が出陣・・・様子見の相手に対し打撃を与えるべくクランが戦いを挑む・・・

「兵たちが集まっています。」

サームの言葉に答え私は天幕の外に出た。


温暖かつ湿潤なローディスがもたらす恵みの雨がここ、リンゼン平原に降り続いている。1キロメタールほど離れた丘に、私たちとは国を異にする軍隊が黒い怪物のようにひしめいている。


私、“奴隷将軍”クラン率いる奴隷部隊5千は、国境線を越え領土侵犯をしてきた北方の国家カージャール朝の軍隊約4千と対峙している。

報告によれば彼らの略奪により、多くの無辜の民がその命を奪われたという。


「敵の主将はラドゥと申す男。この男、膂力こそはありますが将としての力量ははっきりいってまったくありませんな。」

「そうね、だから彼らの侵攻はただの略奪目的。あとはこっちの対応の早さをみたいのね。」

私は大きく息をはきだした。

ただの“様子見”に一体何人の命が奪われるのだろう…


「ラドゥを逃がしちゃだめ。絶対に斬る必要があるわ、カージャール朝の心胆を寒からしめるためにも」

私の言葉にサームが大きく頷いた。

「ここはだだっ広い平地。兵法も特にない戦いゆえ主将を早く討ち取れば犠牲は少なくてすみましょう。」

「手柄をあげるのはどっちかな?」

私の心を汲んでくれているサームの言葉に、私の心は少し軽くなった。


降りしきる雨の中、全軍の最前衛に私とサームが馬を進めると一斉に歓声が上がった。

「クラン!クラン!」

兵たちの熱狂的とも言える歓声に私はいつもながら申し訳ないような気になる。

「私はそんなに立派な人間じゃないのに。」

私の言葉にサームが微笑してかぶりを振る。

「われらにとってあなたはすべて。あの絶望の闇からわれらを救い上げてくださったあなたはもっと自分を誇るべきです。」

「クランの乱…か。なんだか嫌な響きだわ。」

首を竦めると私は伝令を呼んだ。攻撃命令を全軍に伝えるために…


私の軍は騎兵3千、歩兵2千からなる。騎馬にしろ歩兵にしろ重装兵が中核をなすローディス教国の中で私の奴隷部隊だけは軽装兵で成り立っている。

主に機動力を重視し軽騎兵の騎射と突撃で敵軍を混乱させ軽歩兵で更に敵を翻弄するのが我々の戦法。

突撃の合図である黒旗がうち振られ私を先頭にして軽騎兵3千が突撃を開始した。

そのあとにサームの指揮する軽歩兵2千が続く。


カージャール朝軍は方円型の陣をひき迎え撃とうとしてきたが、その時にはすでに私は敵陣の奥まできりこんでいた。

「侵略者の頭目!将としての面目あらば、名乗りでよ!」

私の挑発に敵兵を割って一人の巨漢が姿をあらわした。ラドゥだ。

「貴様はあの奴隷将軍ではないか!虫の分際で人語を話すもおこがましいわ!」

そう叫ぶとラドゥは巨大な戦斧を振りかざし私に襲い掛かってきた。

唸りをあげて私の頭上におちかかる戦斧を私は長剣で弾き返した。

鋭い刃なりが連鎖し鼓膜が悲鳴を上げる。

ラドゥの膂力は思いのほかすさまじく、受け流す私の身体が悲鳴を上げはじめた。


「クラン様!」

サームが一騎打ちに割って入ろうとするのを私が目で止めたその時、ラドゥが吠えた。

「死ねぃ!」

ラドゥが戦斧を大きく振りかぶった瞬間私は左腕を大きく打ち振り奥の手を出した。

「な!」

戦斧をつかんだ手に一瞬でがんじがらめに巻き付いた鎖で、ラドゥの動きがとまったのを見逃さず私は左腕の鎖を思いきり手前にひいた。

「うお!」

ラドゥが不意をつかれ大きく体勢を崩した次の瞬間、彼の首は私の長剣によって宙高く跳ね飛ばされた。

「やりましたな!」

サームの賞賛を聞きながら私は大きく息をついた。


奴隷が使う鉄鎖術…

忌まわしい過去の遺物が私をまた救った



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