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バックストレートを駆け抜ける#47マシン。エンジンは断続的に止まりかけ、キースの耳には不吉なサウンドが響き続けていた。スロットルレスポンスも不安定になり始めている。
「第3コーナーまであと500フィート」
メイの声が、祈るように響く。
リアビューミラーには、#9マシンの姿が大きく映し出されている。新品タイヤと十分な燃料を手にした彼らは、この最後の瞬間に全てを賭けてきていた。
第3コーナーへの進入。
キースのマシンが、再び大きくもたつく。エンジンが完全に止まりかけた瞬間、彼は咄嗟にクラッチを踏み込んだ。慣性だけでマシンを前に進める。その一瞬の判断が、エンジンを再び呼び覚ました。
「Final corner! The #47 is struggling!」
場内アナウンスが轟く。
第4コーナーでの31度のバンク。キースは、これまでのレース人生で経験したことのない緊張と戦っていた。マシンは限界まで燃料を搾り取られ、エンジンは断末魔の悲鳴を上げている。
そして、トライオーバルが目の前に広がった。
「COMING TO THE LINE!」
18万の観衆が総立ちとなる。チーム・コリンズ・モータースポーツのピット席では、全てのクルーが固唾を呑んで見守っていた。
フィニッシュラインまで、わずか100ヤード。
その時、エンジンが完全に止まった。
「NO!」
メイの悲鳴が無線に乗る。
しかし、キースはステアリングから手を離さなかった。慣性の法則。それは、彼の最後の味方だった。完全に力を失ったマシンは、なおも前へと滑り続ける。
#9マシンが、外側から猛然と追い上げてくる。
スタンドからの歓声が、轟音となって響き渡る。
「CHECKERED FLAG!」
フィニッシュライン上で、二台のマシンがほぼ並んで走り抜けた。
勝敗の判定に、サーキット全体が固唾を呑む。
「WHAT A FINISH! AND THE WINNER IS...」
場内アナウンスが一瞬の沈黙を作り出す。
「THE #47! KEITH SUTHERLAND WINS THE DAYTONA 500!」
爆発的な歓声が、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイを揺るがした。
チーム・コリンズ・モータースポーツのピット席では、クルー全員が抱き合って喜びを爆発させている。
キースの#47マシンは、完全に力尽きてバックストレートで停止していた。
彼はコクピット内で、ヘルメットを抱えてうずくまっている。涙が、止めどなく溢れ出していた。
「You did it! YOU DID IT!」
メイの声が、嗚咽混じりに響く。
リチャード・コリンズの目にも、涙が光っていた。
長年の夢。中堅チームの挑戦。全てが、この瞬間に結実したのだ。
デイトナの夕暮れは、黄金色に輝いていた。
そこには、NASCARの新たな伝説が刻まれていた。




