七十七話 暗鬼の言いがかり
暗鬼にあらぬ疑いをかけられたシャノン、その疑いの裁定を子供達に委ねると宣言し腰を落とす。
「さあて失礼、そちらの可愛らしい子よ。おじさんのことをどう思うかね?」
「え、えっとね、いい人!」
「うん、ちょっと怖いけど良い人だよ!」
シャノンの質問に周りの子供達は口々に良い人だと口にする、その笑顔に曇りはない。
思ってたより好感触だな、菓子で何故あそこまで好かれるんだ?.....にしても、異様な光景だな。
「そう、あむうむ.....この人は良い人。帰れ、邪魔だ。むむうん.....」
子供達に続いて聞こえてきたのはミロの声、まさかのミロまでもが避難した。
あの菓子以外には無関心でめんどくさがりのミロが⁉︎ま、まじで菓子でなんであそこまで好かれるんだ。
「な、なるほどな、子供達までならまだ許したったのにまさかその子までたらし込んどるとは。お前は良い人なんかやない、か弱い子供の心を甘味で釣って弄ぶ悪党や!」
なんか余計に拗れたらしい、しかもミロが味方したあたりから言葉に怒りが見え始めた。
「失礼ながら可愛い子らの前ではしたない言葉は慎んでいただきたい。まさか、さらによろしくない方向に向かわれてしまうとは。さて、どうしたものか.....そういえば小生、まだ名乗っておりませんでしたな」
「必要ないで、シャノン男爵。お前が何をしてる奴かくらいこっちも知っとるわ、その上でお前が気に入らんのや!」
シャノンはどうやら自分が知らない誰かであるために暗鬼に疑われていると考えたのだろう、しかしそれは違った。暗鬼は目の前の悪魔の素性を理解している。
今コイツ、気に入らないって言ったぞ。てことはただのイチャモンか、自信満々に何言ってんだコイツ。
「ん、んん、なるほど.....?どうやら小生に卿の納得する答えは用意できないようだ。どうか聞かせていただきたい、卿の求める答えは一体なんですかな?」
これには流石にお手上げか、シャノンは大真面目に問いかける。そんなもの、どうでもいいと吐き捨てて仕舞えば良いものを。
「.....お前が分かるんか?」
「ええと、それは一体どういった意味でーーー」
「私はな、女の子に声をかける時は大体甘味処に誘う。その方がウケがええんや。でもな、いざ中で甘味を味わうとほとんどの子が口にする。こんな美味しいお菓子が作れる人と一緒になりたい言うてな」
突然暗鬼の顔がガクッと下がったかと思うと、深刻そうに話し始める。
「そんな時の私の気持ちが分かるんか、いや分かるわけあらへん!私は菓子作りなんか生まれてこのかた、やったことないわ!」
「ほう、では卿の愚痴を聞くことが小生への望みであると」
「ちゃうわ!お前、今すぐ私と勝負せぇ!」
暗鬼の放ったくだらないにも程がある言いがかり、自業自得を他人のせいにした文句。それを大真面目に受け取り、結論づけるシャノン。
まぁ、そうなるわな。鬼がたかが愚痴を言うだけで怒りが収まるわけがない。
「卿はもう少し知的な方だと存じておりましたが。よろしいでしょう、お相手いたします」
暗鬼に色々すっ飛ばしたメチャクチャな勝負宣言、シャノンはそれをすんなり受け入れた。
おいおい、受けるのかよ。ていうかシャノンって戦えるのか?聞いたことがないが。
「驚いた、お前戦えるんか?聞いたことないで」
「そうですな、小生はあまり戦いを好まぬゆえ。これまでまともに戦ったのは1、2度程度ですかな。それで言うのであれば小生はあなたが戦えることも聞いたことがありません」
「戦った数はそれなりに多いで、ただ証拠を残しとらんだけや。自分で言うのもなんやけど、そこらの鬼には負けん程度にはタイマンいけると思うとる」
なんの自慢か、経験が下と知るや満足げに語る。
「可愛い子らよ、少し離れていてくれますかな?少々、あのおねぇさんと話があるゆえ」
そう暗鬼が話している間、シャノンは周りの子供を遠ざける。
「ちょっ、聞かんかーい!」
「いえいえ、聞いていますとも。可愛い子らは逃した、では始めましょうか」
「ホンマに戦う気か?私と戦えばかすり傷程度じゃ済まん、まだ土下座で許したれる範囲やで?」
シャノンの答えに暗鬼は静かに脅すかのように問いかける、どうやら暗鬼側は本気というわけではないらしい。
はぁ?土下座ぁ?アホか、アイツは。お前がしろ!くそ、殴りに行きてぇ!だが、我慢だ。今の儂の立場上、接触は避けないといかん。
「ほう、ありがたい御言葉ですが土下座はご勘弁を。可愛い子らが見ている、小生が恥をかくのは構わないがあの子らにトラウマを抱かせるわけにはいかない」
「ええ心構えやな、見直したで。けどそれはそれや、理由はどうあれお前は断った。この意味、わかっとるやろな」
シャノンの様子に感心し、認めるような言葉を吐く暗鬼。しかし、その体は静かに戦闘体制へと入る。
「ええ、もちろんですとも。不肖この小生、卿のお相手をいたしましょう」




