22.愛称
「あら、さっきの馬鹿騒ぎは終わったの?」
「勝手に帰っておいて、何を他人事の様に言ってるんですか」
「他人事だもの、別にいいでしょ」
ミコンの身勝手な発言に、フォルスはため息を吐く。
「で、何の用?怒ってるの?サラが始末書書けって?」
「いえ、それはもう終わった事なので、次から協力してくれれば何も言わないと仰ってました」
「それも普通に嫌なんだけど」
「本当に貴方って人は……まぁ、いつもの事ですしもういいです。それよりも、この後時間に余裕があるならご一緒にティータイムでも如何でしょうか」
「はぁ?嫌よ、馬鹿。何であんたとお茶しないといけないのよ、余裕あっても行く訳ないじゃない」
眉間にしわを寄せて、冷たい眼差しを送る。
明らかに嫌そうだったが、
「そうですか、残念ですね。チェルからお茶会のお誘いだったのですが――」
「行くわ」
「おや、余裕あっても行かないのでは――」
「行くって言ってるでしょ。案内しろ。早く」
「はいはい、本当に相変わらずですね貴方は……」
突然、ミコンが掌を返して食い気味に行くと言い出した。
その様子にフォルスは驚く様子もなく、寧ろ予見していたかの様に冷静だった。
そして、フォルスがミコンと共に大通りを歩き始めるが、ミコンはすぐに立ち止まり、コザクラの方へ振り返った。
「……ふんっ」
そのまま何も言う事はなく、再び歩き出してフォルスに付いて行った。
「何なの、あの根暗女……言いたい放題言って急に帰ったわ」
メグムが不満気にミコンの後ろ姿を睨みつける。
その一方で、ユリアは驚いてた。
「ミコン様があんな行動を取るなんて……珍しい」
「珍しい?何が?」
「だって、コザクラの事気にかけてたから……」
「え、気にかけてたの?あれで?」
「どう見ても不機嫌に見下してたようにしか……」
コハルそう言いながら、チラリと視線を横に送る。
「ちょっ、あたしを見んな」
目が合ったメグムがすかさずツッコミを入れる。
「だって、ミコン様は他人にかなり無関心だから、あんまり自分からコンタクトを取る様な方ではないんですよ。特に人間相手なら尚更の事だし……コザクラ、もしかしてミコン様に目をつけられたのかも?」
「え、それは何か嫌だな……」
「あぁ、悪い意味じゃなくて……ミコン様が言ってたじゃない。ハッキリ言えばいいって。ミコン様は、それをしなかった事を後悔した過去があるのよ。だからミコン様は、何も言おうとしなかったコザクラを昔の自分と重ねて見たんじゃないかなって……」
コザクラは、ミコンに何も言い返さなかった。
そんな姿を見たミコンは、自分の様になってほしくないと、そう思ったのかもしれない。憶測だが、ユリアはそう感じた様だ。
しかし、
「いやいや、ただの憂さ晴らしでしょ」
「もう少し言葉を選んだ方が……」
「無いわー」
三人にはそうは感じられなかった様だ。
ユリアと違い、彼女達はミコンと会ってまだ間もないどころか、先程のやり取りで初めて彼女の性格や価値観を知った様なものだ。何かしらの意図があったとしても、理解出来る訳がなかった。
しかし、コザクラには何か伝わったようで、俯いたまま声を出す。
「――ごめんなさい、ユミさん」
「ん?」
「さっき、訳も話さず勝手に怒っちゃって……悪気がないのは分かってるんです。私が昔の事を思い出しちゃったから、それでユミさんに当たって……」
「昔の事?」
コザクラは頷き、続けて答える。
「本当は、ユミさんが私の事を初めてコザって呼んだ時から、違和感があったんです。何処かで、誰かにそんな風に呼ばれたような、懐かしさともやもやが……それで、今さっき思い出したんです。その呼び方……前に一度だけ、ルミが私の事をコザって呼んだんです」
ルミエールが、コザクラの事を愛称でそう呼んだらしい。
ただ名前を短く省略しただけの、簡単で単純な愛称。ルミエールとユミが考えた愛称が、偶然一致していたのだ。
「とは言っても、呼び捨てじゃなくてさん付けだったから、コザさんって呼ばれたんですけどね……さっき急にそれを思い出して、それでその時にルミとした話も一緒に思い出して、ユミさんに……」
急にコザクラがユミに怒りだした理由。
それは偶然によるもので、ユミが直接何かした訳ではなかった。
それが判明し、ユミはホッと胸を撫で下ろすが、同時にコザクラに対して申し訳なさも感じている様だ。
「そっか……いや、あたしこそ会って間もなかったのに馴れ馴れしかったよね。今もタメで話してるから、言動が一致しないかもだけど……ごめん、コザ……クラ」
ユミが頭を下げるが、コザクラは首を横に振って答える。
「コザでいいです。ユミさんの好きなように呼んでください」
「え?でも――」
「その方が、この後色々楽になれそうですから、今のうちに慣れようかなって……勝手に怒ったり許したりで、ユミさんをたらい回しにしてるみたいで申し訳ないですが……」
ユミを優しく気遣いながらも、思い詰めた悲しい顔を浮かべる。
ユミはその言葉を受け、何かを考える。
「――じゃあ、ついでに一つわがまま言ってもいい?」
「え?」
「もし今度、あたしがコザの気に障るような事したら、ちゃんと相談して。あたしも困った時は相談するし、状況が状況だから、あんまり喧嘩したくないしね。いい?」
「――分かりました。ありがとうございます」
「こっちこそ、言ってくれてありがとうね」
無事に話が纏まり、二人は笑い合った。
「何かよく分かんないけど、仲直りしたって事でいいの?」
「うん。ユリアも、色々ごめんね。さっきひどい事言っちゃった……」
「別に気にしてないよ。寧ろ、それで決心した事があるし、感謝してるよ」
「決心?」
ユリアが頷く。
「私、コザクラが人間界に帰れるように、サポートするよ。何か困った事があったり、悩みとかあったら相談して。私の役職じゃ出来る事に限界があるけど、それでも、コザクラ達の力になるよ」
ユリアがそう決意表明をすると、メグムが目を輝かせた。
「神が味方についたの?やった!心強い!」
「メグムさん、いつの間にか神の話をすんなり受け入れてますね」
「いや、もう面倒になって……」
「面倒って、あんたその神相手に色々迷惑かけておいてそれはないでしょ……」
「無責任ですね」
「……もしかして私に味方いないの?」
ユリアはそんな四人のやり取りを見て、声を上げて笑う。
「あっはははは!面白い人達ね!コザクラ、神界で貴方達に言うのも可笑しな話だけど……いい人達に会えてよかったわね」
「……うん」
すると、ユリアは左腕に着けている時計を確認し、慌てだした。
「あっ!もうこんな時間……!ごめん、コザクラ!私、行くね!何かあったら、偵察部隊のとこに来て!私、そこの隊長だから!じゃ!」
ユリアが大量の資料を全て手に持つと、急いで走り去って行く。
――幼馴染のコザクラも知らない疑問を残して。
「偵察部隊の隊長……?」
コザクラが首を傾げる。
恐らく神界における彼女の役職なのだろうが、コザクラは彼女がどんな神の魂を受け継いでいるのか、神界でどんな活動をしているのかをまだ聞いていない。
何の情報もない中で告げられた、何かの部隊。そして、その隊長――即ち責任者だと、彼女はそう言った。
「え、あの子、コザと同い年よね?それで隊長って……さっきのバトルしてるみたいなとこの隊長って事?」
「コザクラさん、あのユリアって人、そんなに強いんですか?」
「い、いや……全然知らなかった……ユリアってそんな強かったっけ……?」
幼馴染でも、知らない事はあるんだと驚愕する。
ただ、ユリアの身体能力や体育の成績などを思い出すが、別に優秀かと言われると、特段良くも悪くもなく、普通だった覚えしかない。
一体どういう事なのか、コザクラの胸にまた別のもやもやが出来てしまうのであった。




